ドラマ「フェルマーの料理」とフィボナッチ数列、黄金比

先日、TBSのドラマ「フェルマーの料理」見ていたら、フィボナッチ数列黄金比を使って料理を美しく盛り付けるというシーンに出くわした。

その瞬間から、半世紀近くも前の、高校時代の模試のことを思い出して、ドラマのストーリーが頭に入ってこなくなった。

その問題は、とある生物では親細胞が1時間で子細胞を生み出し、その子細胞は1時間で親細胞に成長するという。この条件の下、細胞の総数を「隣接3項の漸化式」で解くというものであった。
二つ前と一つ前の数字を足して次の数字が決まっていくことになるので、1、1、2、3、5、8、13、21、34、55,89…。
これがフィボナッチ数列と呼ばれるものであることは、理科系の受験生ならば、常識と言っても良いだろう。
これを特性方程式に置き換えると、解は(1±√5)/2
設問全体が、一つ一つ丁寧に誘導されており、それに従っていくと自然に問題が解けるような作りになっていた。
難易度はそれほどでもない、いや正直、かなり簡単な部類だった。
最後の設問は、十分大きくなった隣接する項の比を求めるというものだった。
最終的には1:(1+√5)/2に収束することになる。
印象にも残らないやさしい問題だったが、その数字が記憶の片隅にひっかかって仕方がなかった。

実は直前に父親の本棚で見つけた「黄金分割―ピラミッドからル・コルビュジェまで」(柳亮著)という本を読んだばかりだった。
そもそも一人一人の美的感覚なんてバラバラで、友人と話していても「何が美しいか」なんて、一致したためしがなかった。
しかし、この黄金分割という本には、まったく論理的とは言えないような「美的感覚」が、√ なんていう中途半端な数まで入った厳密な数字で説明がつくと言っているのだ。

美しいと感じる比率を、世界中で大規模アンケートでもしたというのだろうか?

不思議でならなかったが、古代エジプトのピラミッドをはじめ、ギリシャの彫刻や建造物、そして現代に至るまで、この黄金比という不思議な数字が、様々な人間の創造物を覆い尽くしていると解説されていた。

その比率はさきほどの、1:(1+√5)/2=1:1.618033988…なのだ。
近似値でよく用いられるのが、5:8。
1.6で代用するということになる。
そういえば、「5/8チップ」というお菓子が、かつて発売されていましたが、この近似値をネーミングに使ったのではと、勝手に思っていました(笑)。
名前をつける会議に出席していたコピーライティングやデザインの関係者が、この黄金比について知らないわけがないでしょうから…。

あの模試からしばらくして、ふと思いついた。
もし細胞分裂と黄金比に関連があるのなら、自然界にこの黄金比が数多く存在していても、何ら不思議がないのではないか。
細胞分裂を十分に繰り返した動植物の姿は、この黄金比に収束していくのではないか。
そして、人間がこの世に生を受けてから常に、この比率に囲まれて暮らしているとしたら…
この比率を見たときには、安定を感じ、見ると安心する
それが美しいという感覚につながっているのではないか。

あわてて、図書館に行って調べてみた。
巻き貝の渦巻きから、ひまわりの種子樹木の枝といった様々な自然の営みの中に、黄金比を見いだすことができると書いてある。
しかし、フィボナッチ数列と黄金比を関連付けている記述を、高校生のわたしは、見つけ出すことは出来なかった。

それっきり、半世紀近くも置き去りにされていた。

ドラマが終わるまで待てなかった。
すぐに手元のスマホで検索していた。

そうすると、半世紀近く前に求めていた記述に溢れかえっていた。
フィボナッチ数列と、細胞分裂、そして黄金比の関連性を論じた文章が、そこここにあった。

出題者は、細胞分裂黄金比の秘密について気付かせようと、優しく誘導してくれたのではないか。
自然の美しさは、数学で表現することができるんだよ。
数字の面白さに気付くことが、数学の世界を広げることになるんだよ。
君たちがこれまで学んできた数学って、こんなに面白いんだよ。
そんな意図を持っていたとしたら…。
たどり着くのが、少し遅かったかもしれない。

高校生のわたしが、当時何か知りたいと思ったら、図書館大きな本屋に行くくらいしか無かった。

そういえば、手に入らない憧れの商品のカタログを集めるのが好きだった。
そんな少年にとって、ポパイ「なんクリ」が何よりの愛読書だった。
しかし、カタログも「なんクリ」の索引も、ネット時代にあっては、ありふれた情報の一つになった。

思えば、本当に便利になったものだなと…。
無限とも思えるような、巨大な百科事典を、だれもが、いつどこにも持ち歩いて自由自在に操ることができるのだから…。
何を今更、ですよね(笑)。

いや、ぜんぜん遅くはない。
新しいことを知る好奇心は、還暦を過ぎた今でも満ち溢れている…
満ち溢れていて欲しい。
まだまだ。



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