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2003年ヒッチハイクの旅 〜0番線〜 7日目「都会越え」

 7月27日、日曜日の朝である。青森から九州へ向かうヒッチハイクの旅も7日目。朝、5時過ぎに起きる。約5時間ほどは寝られた。あまりにも眠くて半袖のまま寝たが、寒くなかった。関西まで下れば今までみたいな夜の寒さもなければ、駅構内が広いので風が入ってくることもなく暖かい。
 京都駅は、ベンチは見当たらないがゴミ箱はちゃんとある。少ないけどある。そのゴミ箱があったと思われる場所まで行き、野宿用に地べたに敷いていたゴミ袋を捨てる。
 予定としては、これから歩きながら北上して、国道に出たら西へ進路を取りながらヒッチハイクをする。兵庫県を内陸から進み、中国地方の北側の鳥取へ出る。
 思えば、京都駅を往き交う人の言葉を聞いて、妙に違和感を抱いた。すごくなまっている気がした。京都の人ってこんなになまってたっけ、と思った。Cに、あんまりなまっていないという風なことを言われたし。私が、長い間関西にいなかったせいだろうか。それとも、もともとこんなになまってたんか、京都って。
 京都駅を出て、朝陽の中、国道1号線へと歩く。
 北に向かっている途中、泣きじゃくる怪しい中年の女の人がいた。変な人には慣れた。でもやっぱり、なんだこの人という感情は抱く。せめて白い目で見ないでおこう。そこを通っていく中学生か高校生の人らは変なものを見る眼差しで見ているが。まだ、この人らは変な人を見慣れていないのだろう。私はいっぱい見てきた、変な人。
 国道に出て、コンビニに寄り、赤飯のおにぎりを買って食べ、そのままひたすら西へ。
 途中、ふと見た自動販売機が、飲み物みんな安くて、思わず買ってしまった。暑い。せっかくさっきコンビニで、ジュースを買わないようにペットボトルに水を入れてきたばっかりなのに。
 茶色っぽいマクドナルドの看板が見える。派手な色を使ってはいけないとかどうとかだが、元の赤い色にしていてもいい気がする。特に変わらんと思うのだが。
 さらに歩く。
 空き缶を集めた大きな袋を自転車で運んでいる人が、煙草のポイ捨てをしていた。
 さらに歩く。歩けど、歩けど、交通量が多い。都会の街並みからまだ抜け出せない。車と車の距離は、時間でいうと2.5秒。ある地点を車の前方が通過してから次の車がそこを通過するまでの時間。これでは車が停まってくれそうにない。なにより、恥ずかしい。
 昼前になり、高速に入る道と下と通る道とに分かれる場所の手前にさしかかる。そこのバス停のベンチで少し寝る。日記をつけて、ぼーっとしながら、車の様子を見る。ヒッチハイクできそうかどうか。
 もしも、恥ずかしさがないのなら充分できる。
 12時半、私は歩き出した。私には無理。
〈ちょっと日焼けしたなぁ〉
 何時間とそこにじっとしていたせいで、腕時計をしていたところが白く目立つほど日に焼けた。

 何十分かに一回、大きなボートのような荷物を運んでいるトラックを見る。ボートはむき出しで、後部が少しはみ出ている。多分、同じ業者が運んでいるものと思われる。
 ヤモリかトカゲがいた。
 ラブホテルがある。こんな場所でも、客は来るのだろうか。儲かっているのだろうか。それよりなにより、営業しているのだろうか。
 高速に乗らない国道の道は、到底ヒッチハイクなどできた道ではなかった。人が歩くので精一杯。
 山道に入り、いつ抜けるかわからない道を不安に思いながら歩いていく。
 自転車に乗っている人も見かける。この人たちは、私と同じように、日本一周の旅なんかをしているのかな、とそういう人を見るたびに思ってしまう。

 途中に、ぽつんぽつんと民家やらが現れる。水道があったので、コンビニの水道水を捨て、水を補給。
 近くに、到底使われていないであろうバスの停留所がある。そこはくぼみがあり、車が停まれそう。車の流れも良好。
 腰を掛け、スケッチブックを取り出し、使う必要のなかった「敦賀」の後に、「鳥取」と書く。すると、向こうから、バスが。そして、もしかしてと思っていると、目の前の停留所で停まる。
〈まじで!? まだ停まるんや〉
 てっきりもう使われていないと思っていた。バスが停まるところでなんてヒッチハイクできない。
 スケッチブックをしまい、さらに歩く。
 ガソリンスタンドがあった。その一台の車のナンバーを見てみると、鳥取ナンバーやだった。これはチャンスと思ったが、おもいっきりカップルっぽかったのでやめた。

 私の時速を考えてみた。多分、2キロから3キロだと思う。そうとわかれば、どこどこまで何時間ぐらいかかるなど、目安にできる。
 建物が密集する地域に出た。これでヒッチハイクできると思ったけど、信号がばんばんあった。すぐ車が停まるということは、停まっている間、ずっと見られている。無理。恥ずかしがりの自分にとって、都会を抜けることは思った以上に難しかった。
 外から、ショッピングセンター内に百円均一の店のダイソーが見えた。ポケットティッシュを買いたかったので寄る。一階に携帯売り場があったので、そこで適当な地図を探すが、ちゃんと探さなかったせいもあるのか見当たらなかった。関西から九州までの地図がない。せめて、今いる地域の地図が欲しかった。
 そのまま一階の食料品売り場に行き、試食。そして、菓子パンを買う。今日が土用の丑の日だと知る。世間ではうなぎを食べるのだろうけど、私はパン……。
 外に出て、ポケットティッシュを買うのを忘れたことに気づいた。
〈ま、いっか。また今度で。まだあるやろうし〉
 しかし、そのときにはもうティッシュはなかったことを後で知る。
 途中のコンビニで地図を見て確認。まだ行ける。まだ田舎道には出ない。まだどっちにいけばいいかわからない分岐点は、まだまだ先だ。
 さらに歩いていくと「ガレリアかめおか」というところに着いた。そう、もう京都市の隣、亀岡市の中心部まで来ていた。そして、この道の駅なのかどうなのかよくわからない大きな建物の中に入る。
 空調も効いていて涼しい。綺麗なベンチもある。
 今から3時間ほど寝て18時ごろにまた出掛けよう。

 起きたときにはすでに20時だった。
 その建物は壁がガラス張りで、外の様子がわかるのだが、もうすでに真っ暗。そこでぼけーっとするなどしてから外に出て歩き出す。
 いじめかと思うほどに、2〜300メートル間隔で信号ある。そして、車屋の前がいいと思い、そこに決める。その先にあったコンビニのセブンイレブンに寄って、なんとなく地図を見て、交通量を確認し、ボードを取り出し掲げた。ヒッチハイクの場所を探しながら歩いてきたが、やっとまともにヒッチハイクができる。
 昼間ならこういう車屋の前ではヒッチハイクできないけど、店が閉まっている今ならできる。
 ショーウィンドウの明かりの前、車を待つ。
「がんばれ!」
 そう言ってくれたのは、目の前を走り去っていったバイクに乗っている男の人。
「はい!」
 とっさのことだったけど、大きな声で応えることができた。嬉しかった。
 ここは色んな人や自転車が通る。少々恥ずかしい。
 一台の、後ろのライトが赤ではなく白い原動機付き自転車が、反対車線からやってきて、Uターンしてきて、こちらに来た。ノーヘル、茶髪、二人乗り。多分私より年下と思われる男の人。
 話しかけてきた。
 なにをしているかなどいくつか質問された。
「このまちはどうですか?」
 こ、答えにくい質問やな。
「俺、もともと大阪出身やから……」
 と答える。答えになってない答え。
「がんばってください」
「はい」
 最後にそう言って、二人は走り去っていったが、しかし、しばらくして、さっきの男の人がまたやってきた。運転しているのはさっきと同じ人で、後ろに乗っている人が違う。ここでヒッチハイクしている人がいるというので、どんな人か見てみようと、運転している人が後ろの人を連れてきたという感じだろう。
 少し、また色々質問されて、私は答える。
「『おれのとら』って知ってます?」
 と聞かれた。
「……名前だけは」
 聞いたことあるような気がしたのでそう答えたが、結局後になってもなんなのかわからない名前だし質問だった。
 そして二人組みは去っていった。

 ヒッチハイクを開始してから30分ほど経った。一台の車に停まってもらうことができた。
 礼を言い、片付けてもらった助手席に乗る。運転席の男の人は、鳥取市よりさらに先まで行くと言うので、行けるところまで乗せてもらうことにした。
 さっきのバイクの人、またあの場所に戻ってきたらなんて思うだろう。「早いなぁ」などと思うだろうか。
 乗せてくれたのは3〜40代ぐらいに見える物静かな男の人。仕事が終わり、名古屋から鳥取まで帰省するその途中だったらしい。着くのは明日の3時ぐらいになると言う。
 私がいたあたりから名古屋までは大体200キロぐらいで、ちょうど鳥取市まで半分ぐらいだという。名古屋までといったら、けっこう遠いイメージがあるが、そうでもないのだなと感じた。
 大阪育ちの私が、テレビの天気予報で見るのは、関西辺りで、三重のすぐ隣の名古屋のある愛知県は映らない。なので、言い訳に過ぎないが、関西の隣であるはずの岐阜や、名古屋のある愛知が遠く思えるのである。
 少し眠る。途中コンビニに寄っておにぎりを買ってからまた眠る。

 本州を青森から山口までを陸路で横断するときに必ず通る都道府県は兵庫県である。しかし、そこに留まることのないまま鳥取へと着くのである。
 一つ目に見た道の駅は閉まっていた。そして次の、電気の点いていた道の駅まで乗せてもらい、別れる。
 電気がついていれば充分である。雨、風をしのげる。トイレもある。
 中のベンチで横になり眠る。


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