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2003年ヒッチハイクの旅 〜0番線〜 8日目「留まる」

 8日目の朝。ゴールである九州はもうすぐである。
 起き上がった私は、その「大栄」という道の駅においてあるパンフレットを見る。すると、どうやらここは、『名探偵コナン』の作者「青山剛昌」の出身地らしい。近くにコナンロードというものまである。コナンは最近の作品だから、コナンロードも最近できたものなのだろう。
 西瓜と長芋も有名らしい。マラソン大会があって、マラソンしたあとは西瓜食べ放題というようなことが書かれていた。あと、青山氏が描いた西瓜と長芋の擬人化したものと一緒に、コナンがマラソンしている絵がパンフレットにあった。
 ベンチで外の様子をうかがいながらこれまたぼけーっとしていると、向かいのベンチに座っていたおっちゃんに時間を聞かれる。腕時計を見て、8時20分だと答える。
 今度は私から質問してみた。
「どこいかはるんですか?」
 どうやら、ここらへんでやる祭を見にいくらしい。それから、ちょこちょこ向こうから話をしてきたので、一緒に話をしていた。大阪出身で、仕事を辞めて今は気楽にやっているという。
 ヒッチハイクをしているというと、後ろのベンチから声がした。
「ヒッチハイクしてるの!?」
 それは、さっきからベンチで寝転がっていたおばちゃん。そのおばちゃんとおっちゃんは夫婦だという。
 それから話をする。話を聞いているほうが多かったけど。
 蒸し卵というものをもらった。ゆで卵というのは知っているけど、蒸し卵は聞いたことがなかった。水でゆでる代わりに蒸すらしい。ゆで卵より水分がないのでやわらかくはならないが、日保ちするという。
 昨日の夜は、ここに自転車で日本一周している途中だという男の人がいたらしい。浮浪者かと思ったら日本一周している最中だということを聞いてびっくりしたという。私がここに来たときにはもういなかったけど。
 色んなことをして日本を旅している人を見たという。私みたいなヒッチハイクの仕方以外では、乗せてくれた人にお礼として歌を歌うギターを持った人。乗せてくれた人に似顔絵を描く人。そして、ただ単にヒッチハイクするのでも、乗せてくれた人の名前や住所を聞いて後で手紙を送るという人。まったくの無銭で旅する人。そう考えたら、私はなんもしていない。ただ日記をつけているくらい。しかも、青森から九州の福岡までと中途半端。
 その話を聞くうちに、高速道路を使うよりは下の国道を使ってヒッチハイクするほうがいいなぁと思った。
 そして、ここが道の駅の第一号だということを、その夫婦から聞いて知る。
 9時前にお別れ。そして、もらった蒸し卵を食べる。

 10時50分、道の駅を出て歩き出す。来るときは真っ暗で、なにもないところと思っていたが、近くに民家が見える。地図の縮尺では遠いと思っていた日本海も、すぐそこの木々の向こうに広がっている。
 すぐにヒッチハイクできなくもないけど、海へ行ってみたかった。ここら辺りはオートキャンプ場だとさっきの夫婦が言っていた。国道から右に反れる道がある。すぐ先に海が見える。一応行き止まりにはなっている道を進んで抜け、砂浜を靴のまま歩き、砂浜に座って海を眺める。
 人は誰もいない。
 オートキャンプ場といわれる場所はちょっとずれたところにあるのだろうか。確かに、ここに来るには車を停めるスペースがない。ちょっと離れた場所に、人の姿が見える。
 風があるのか、波が高い気がした。

 2〜30分ほど海を眺めたあと、国道へと戻る。
 12時。鳥取県の西に位置するのは島根県。スケッチブックに、次の島根県にある「出雲」を書いてヒッチハイク開始。場所的にいい感じ。時間も交通量も悪くない。
 20分後、Uターンしてきた男の人の乗った車に乗せてもらった。
 仕事でそっち方面に向かうが、出雲の場所がわからず、カーナビを見て出雲を確認すると自分が行く方向だということでわざわざ戻ってきてくれた。
 カーナビを見ながら、島根県に突入する。
 宍道湖の手前の交差点まで来る。そこのコンビニで飲み物をおごってもらう。おごってもらうとなれば、普段買わないようなものを買ってもらう。食べ物もおごってくれた。買ってもらった清涼飲料水がおいしかった。自分で買うとなると高いと思って買っていなかっただろう。
 男の人は仕事で湖の北側を行く。私がこのまま山口に行きたいとすれば、南側を通ったほうがいいと思われる。しかし、それを承知で私はその人についていき、北の遠回りになる道を行く。それなら、湖の半分の地点まで行けるからである。行けるところまで行こう、距離を稼ごうと思ったら北に行くほうがいい。それと、やっぱり長いことしゃべっていたいというのもあった。
 14時前、道の駅に着き、そこでお別れ。
 そこで、買ってもらった物を食べる。「~けん」という言葉が聞こえてきて、九州がもうすぐなんのだと実感する。
 山口の下関までもうすぐ。もしかしたら今日中に行けるかもしれん。いや、行きたい。
 しかし、湖の北側に来たということを後悔することとなる。

 ベンチというより、ソファーといった感じの長椅子で横になって眠った後、十八時ごろに起きて、出発。
 湖沿いに西に少し歩いて、車が廃棄されているような場所でヒッチハイク。
 出雲までもまだなのに、かかげたのは山口県の九州近くの大きな市である「下関」。けっこうな距離があるにもかかわらず、そのときは、まだ今日中に行けそうな気がした。
 意外とすぐに車が停まってくれた。60代の地元の人。すぐ近くだけど、湖の北の道と南の道がまた交差するところまで乗せていってくれるらしい。
 色々教えてもらう。
 下関に行きたければ、湖の下を通ったほうがいいと言われた。わかってはいたけど、指摘され改めて実感する。しかし、こうして乗せてくれる人がいたことに感謝する。
「自分でいうのもあれなんですが……」
 と前置きしてから、その人は「出雲の人はバカ正直」だと言う。島根は、東西に細長い県で、東の出雲の方と、西の石見の方とそれぞれ違うという。
 分岐点にさしかかる。右に行けば山口に向かう道。そして、五百メートルほど先に道の駅があるという。左に行けば一キロ先にトラックの運ちゃんが停まるところがあるらしい。
 もちろんのごとく私は右に行ってもらった。
 もし、トラックに乗せてもらいたくてその場所に行くとしても、1.5キロしかない。おっちゃんはその距離が遠いというけど、私からしたら遠くない。京都で、だいたい出した自分の時速からすると、多分、30分ぐらい歩けば着くだろう。戻るというネックはあるが、それでもあまり遠いとは思わない。
 それよりも、多分私はそっちには行かないと思う。今までも、戻るくらいだったら先に進んでいたし、やっぱり声をかけて乗せてもらうのは好きではなかった。
 道の駅で停めてもらう。そしてお別れ。
 ここのそばを食べたほうがいいと言ってくれたが、食べることに関しての欲、おいしいものを食べたいという欲がまったくといっていいほどない私にとって、わざわざ食べようとは思わなかった。それに、今はお金の出費が惜しい。帰り、もしここを通ったら食べることにしよう。

 「湯の川」というその道の駅。見てまわる。
 ポストカードがないか、うろうろするが見当たらない。売店に、何枚かまとまって売られているポストカードがあったが、私はそんなのは要らなかった。お金がかかるし、何枚もいらないというのもあったが、できれば、その土地に行って、そこでしかもらってくることができない、というものが欲しかった。ただお金を出せば買えるというのではなく。お金を出すのは、どこか別の土地でも買えそうな気がしたから。
 私がポストカードを出したい人は、山形から新潟まで乗せてもらった9台目の女の人。ポストカードを送ってほしいと言われて住所を教えてもらったので、旅の途中で送ることを約束した。島根のポストカードがいいと言っていたので、できれば島根のポストカードをと思っていた。
 しかし、結局、前の道の駅でもここの道の駅でも見つけることができなかった。
 冷水機を見つけ、たくさんペットボトルを持ってきて水を入れている人を見たので、私も自分の持っているペットボトルに水を補給する。このペットボトルは、一昨日Cに会ったときに一番初めにもらった清涼飲料水の空きボトルで、ずっと使っていた。
 島根まで乗せてくれた人からおごってもらった最後のパンを食べる。本当は、今日の夜ぐらいまで食べないでおこうと思ったが、後先考えず、あったらあっただけ食べてしまう私。
 辺りはもう暗くなってきている。早くヒッチハイクポイントを見つけなければ。
 もう、今日中に下関まで行けないかもしれない。せめて下関行きが今日中に決定すればいいけど、もう無理かもしれない。

 もう、ほとんど陽が落ちた19時半。場所は悪いが、これ以上先に行ってもこれ以上の良い場所があるかどうかわからない。
 ここに来るまで、17台乗せてもらった。山形を出るまでの時点では、男の人のみが3台、女の人のみも3台、男と女が一緒というのも3台の計9台で、けっこう女の人一人だけでも乗せてくれる人っているんのだなと思っていたけど、山形を出てからは富山まで乗せてくれた家族を省いてはみな、男の人一人。
〈やっぱり女の人だけで男の人を乗せる人ってあんまおらんのんかなぁ。おらんわなぁ〉
 そう思うと、山形まではたまたまだったのかもしれない。
 どちらかといえば女の人との方がしゃべっていて楽しい。そろそろ女の人が停まってくれないかなとも思っていたが、次に停まってくれた男の人もしゃべりやすい人だった。
 約40分後、出雲まで乗せていってくれるという車が停まった。
 31歳という、今までではわりと若い男の人。
 私の好きな方言の話をする。いろいろ聞いた中でも面白かったのは、「休憩する」ことを「たばこする」と言う。「たばこ」はもちろんあの「煙草」のこと。煙草を吸わなくても、煙草すると言うらしい。なので、これは他の県では使えないなと笑った。
 20時40分。「キララ多伎」という道の駅に着いてお別れ。
 別れ際にもらった飲み物を飲み、休憩。そして、ここで声をかけて先に進もうかとも思ったが、ここで泊まろうと思ってきた。
 大きなモニターがあり、テレビ番組は「世界まる見え!テレビ特捜部」をやっていた。ということは、今日は月曜日。旅に出たのも月曜日。そうか、あれから一週間か。
 そこには、ちらほら休憩しに来る人が見えるが、そこへ女の人が4人入ってきた。ベンチに座って、二人一組でおしゃべりを始めるが、恋愛話をするために生きているのかと思うほど、恋愛話を花を咲かせている。男の私には理解できない。しかし、前に、恋愛話をしている男の人たちを見たことがある。気持ち悪かった。
 そんな人もいつしか消え、人も少なくなり、ベンチで横になり眠る。

 眠る前に二人組の男がこんな会話をしながら出ていくのを、ゆずっこの私は聞いた。
「ゆずがね、キララ来たらしいよ」
 まじで!?


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