見出し画像

「天城山からの手紙 38話」

この日、じっくりと天気予報を確認し出発した。登山口へ到着すると思っていたほどの雨ではなく、このまま予報通りに行けば最高の朝を迎えられるだろう。登山道から外れ、真っ暗な馬酔木の森をかき分けながら向かいの稜線へと向かったのは、ブナが静かにと住む秘境だ。同行者も以前迷子になったらしいが、やはり少し迷子になりながら、迫る朝に足をせかされ何とか目的地へ到着した。すぐさま撮影の準備をして、後は、雨がやみ雲が晴れ霧の中へ朝日が差すのを待つだけだった。しかし、この後、自然の恐ろしさを味わう事になる。これほどの恐怖は記憶をたどっても私にはない。やむはずの小雨は次第に大粒の雨と変わり、明けるはずの夜は、時と逆行するかの様にまた闇夜が押し寄せた。その瞬間、暗闇に染まった森の奥から一筋の閃光が走り、その光に照らされた森は、一瞬だけ昼間の様に明るく照らされ直ぐ闇に戻った。遅れてビリビリビリと地を伝い足元に振動が襲い森中が揺れた。遅れて言葉に出来ない程の音が爆風と共に体を貫く。そして意識よりも早く本能が危機を体中に響かせ思考を停止させた。そしてまた1発・・また1発と雷は目の前に繰り返し落ち、その度に天を仰いだ。「ここに落ちたらお終いだ」もう自分の力では体の震えを抑える事が出来ず過ぎる時を待つだけだった。何時終わるかもわからない天の裁きは、やがて小鳥の声と共に終わり、ブナ達の深い溜息だけが森に響いた。

掲載写真 題名:「兆し」
撮影地:猫越付近
カメラ:Canon EOS 5D Mark IV EF24-105mm f/4L IS II USM
撮影データ:焦点距離45mm F14 SS 5sec ISO800 WB太陽光 モードAV
日付:2017年11月11日AM6:24


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?