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「天城山からの手紙」18話

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凍り付いた湖畔は、住む者すべての時間を奪う。経験上、”霧氷”という現象に出合える確率が一番高いのが八丁池だ。伊豆では霧氷なんて現象はあまり馴染みがないかもしれないが、一度見ると本当に幻想的で、見る者は心を奪われる。昔は、八丁池までアイススケートをするために多くの人が足を運んだようだが、今考えると凄い事だと思う。私も試しに氷の上を歩いてみたが、湖畔全体を十分に歩く事が出来た。しかし、森は時としていたずらをするのである。そうそれは、皆が期待するであろう・・真冬の八丁池へと、まんまとこの日に、落ちたのである。まだ夜明けもそこそこに落ちたものだから、びしょ濡れになって撮影を続行した思い出の日になってしまった。落ちて早々に、少し落ち込みながら周辺の景色を眺めてみると、真っ白に木々が包み込まれた光景が広がっていた。段々と夜明けの色も,赤から黄色に変わり刻々と時が進み始める。そのスピードは想像以上で1秒2秒で目の前の光景が変化していく。木々の枝先へ光が差し始めると、纏われた氷の鎖は幻かの如く剥がれ、止まった時間が再び動き始めた。光のあたらぬ者は依然と氷の鎖につながれたまま、太陽の日差しを待ち焦がれている。もうすこし撮影させてと、レンズを向けて行くと、現れたのが、体をよじるように抵抗する力強い姿だった。凍り付いたその姿は今にも音を立てて動き出しそうだったが、ただただ太陽の光を待つしか術がなかったのだ。そして太陽の光は、濡れた私の体を最後に優しく包んでくれた。


掲載写真 題名:「待ち侘びる光」
撮影地:八丁池
カメラ:Canon EOS5D MARK3 EF70-200mm f/2.8L IS II USM
撮影データ:焦点距離200mm F11 SS 30sec ISO400 WB太陽光 モードAV
日付:2015年1月2日AM6:46

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