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「天城山からの手紙」30話

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この日は、森に風が霧のベールを繰り返し運んで来た。目の前にスーッと現れる魔法の衣は森の住人に次々と命を与えて行く。衣を纏うと、そこかしこから話し声が聞こえ、特別な瞬間を喜び勇む姿に、目を奪られた。そして、直ぐにまた風が衣を剥いで何事もなかった様に日常の光景へと変わる。本当に、こんな日は滅多にはなく、それに出会えた事への感謝が溢れ出していく。天城はこの霧に包まれた光景が、素晴らしく、光との共演が最高のステージとなる。木々の間から小漏れ出る光の筋は、すべての者に夢や希望を与え、未来への道しるべとなる。そして、その光の中に立った時の感情は言い表せなく、ただその空間をずっと楽しんでいたいのだけど、自分を現実へと引き戻した。撮影が遅ければ、その出会いは幻となってしまう。そして、実をいえば、この時の光景は、5秒しか猶予がなく、シャッターを押せたのはこの一枚だけだ。パッと目を向けた時、降り注ぐ様に霧が舞い込み、目の前には夢のような世界が広がった。そして夢に浸る間もなく、反射的に構図を作りシャッターを押したのだが、その瞬間は走馬燈の如くゆっくりと永遠の時が流れていた。そして、なぜかこの瞬の感情は、優しに包まれ、沢山のお話を木々とした様に感じるのだ。正に、一瞬が永遠に感じるこの感情は、森が私にくれた優しい時間だったのだ。※私事になるのですが、5月16日~5月22日に沼津のしずぎんギャラリ-四季にて、私の主宰する風景写真の会「心音」と小田原「夢幻の天城」の写真展にて、今回の掲載写真を展示します。

掲載写真 題名:「優しい時間」
撮影地:伊豆稜線歩道
カメラ:Canon EOS5DSR EF24-105mm f/4L IS USM
撮影データ:焦点距離24mm F16 SS 1/15sec ISO400 WB太陽光 モードAV
日付:2016年5月10日PM12:03


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