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「天城山からの手紙」21話

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温暖な伊豆でも、こんな雪の物語がある。キラキラと輝く雪原を一片の穂先が旅路に立つ・・。天城の撮影に入り、初めての冬は、巡るめく出会いで溢れ、いつでもこんな風景に出会えるのだと勘違いするほどだった。とにかく雪の天城と出合いたくて、危険も顧みずにチャンスとあれば、単身乗り込む。この日は万三郎を経由して小岳までの往路を夜明け前からスタートした。数日前に積もった雪はあまりにも深く、普段歩く様子ともまったく違う。歩を進めれば進めるほどに、雪の天城に魅了され、切れる息も心地良く、雪と無縁に近い伊豆で、これだけの光景に合えるのだと、度肝を抜かれた。歩き始めて少しすると、真っ赤に燃える朝日が、木々の隙間から走り始めた。そのスピードは驚くほどで、負けじと構図を探しながら走り回るもまったく追いつけない。木々は燃え上がり、雪面は輝きに溢れ、埋もれた枯草さえも命の息吹を思い出したかのように踊りだす。結局そのひと時は、私の力不足で満足するカットを一枚さえも得ることができなかった。こんな事は、今となると良くある事だと納得できるが、まだこの頃は撮れた撮れないでの目先しか見えていない。しかし、こういった苦い経験を自分の中で消化して行くと、写真の捉え方も少しずつ成長していく。心の成長とともに自分の写真の深みも大きくなっていくのだろう。そんな私を見透かしたかのように、キラキラと輝く雪原の中に、森は小さな出合いをくれた。眩い光に包まれたその光景は、全てを忘れさせ、夢中にさせる。雪原に寝転び、ファインダーから見えた穂先に自分を重ねると、朝の悔しさなんて吹っ飛び、心穏やかにまた歩を進めることができたのだ。

掲載写真 題名:「旅の始まり」
撮影地:万次郎
カメラ:Canon EOS5D MARK3 EF24-105mm f/4L IS USM
撮影データ:焦点距離67mm F4 SS 1/8000sec ISO800 WB太陽光 モードAV
日付:2014年3月11日AM7:33
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