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「天城山からの手紙」29話

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地を照らす真っ赤な光の道が森に差した時、体に走った興奮はまだはっきりと覚えている。遠く万三郎から顔を出した太陽が、一瞬の情景を作り出す。蒼い時間を撮影していた私は、急に訪れた光景に頭をフル回転させ、急いでシャッターを押すが、あまりの速さに打つ手がない。そして、3分ほどだろうか?この光の道はなくなってしまったのだ。急に現れる自然が作る光景は、何時もこんな感じで、何回来たら、納得のいく写真を撮らせてもらえるのだろうか?と肩を落とす。そして、自然の光景は二度と同じ物を見せてくれない。失敗したから明日来れば・・とは絶対に行かないのだ。まさに一期一会の極みと言ってもいいのではないだろうか。私の目の前に、この赤い光が走った時、森の奥深くにいる者達まで赤く染め、辺りを見ればそこかしこに光が当り、どこも素晴らしい光景が広がる。白い肌のブナが、真っ赤に頬を染め、地に生える新芽までもが赤く染まり、秋に落ちた落葉も、あの時の記憶を思い出したかのように一瞬の衣を纏い燃え上がる。その真ん中で右往左往する私を、きっと森の者達は笑っていたのではないだろうかと思う。秒ごとに光の道は、更に奥へ奥へと延びていき、その筋を見つめれば見つめるほどに、その真っすぐさに引き込まれ、私を幻想の世界へと誘う。そして自分の日常と重ね合わせ想いを馳せれば、自然は沢山の生きるヒントを与えてくれるのだ。確かに機材を担ぎ、暗い中を歩き回ってへとへとになり、終いには三脚も捨てていきたい時もある。だけどこの森とは、真っすぐに向き合っていたいから、この位大変でないとダメなのである。

掲載写真 題名:「幻の道」
撮影地:手引頭
カメラ:Canon EOS5D MARK3 EF24-105mm f/4L IS USM
撮影データ:焦点距離24mm F4 SS 1/6sec ISO400 WB太陽光 モードAV
日付:2014年5月10日AM4:46


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