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日本の競争力を阻害している真の原因とは?

3月以来、円の急激な独歩安に日本経済が揺れ始めています。
これからの日本をなんとかしたいと本気で考えるなら、今はまさに正念場にあるのだと思います。

■原因にたどり着くための仮説を考える

4月16日付の日本経済新聞朝刊の一面に大きく取り上げられた『円安再考』という特集記事の見出しに踊っていたのは、「怠った変革 競争力失う」でした。
日本が競争力を失っている、というのはそのとおりです。でも、「怠った」という表現には違和感があります。「怠る」というのは、「(やるべきだと)わかっているのにやらなかった」という意味ですから、それは違うと思うのです。

わかっていたのにやらなかったわけではない。問題があることには気づいていたけれど、「どう対処すればいいか」がわかっていなかったのです。  つまり、何が原因でこういう事態になっているのか。残念なことに私たちは、まったくと言ってもいいほど、焦点を絞り込むことができていなかったのです。

この30年余り、企業改革の現場に身を置いて来たからこそ言えることなのですが、怠けていたから競争力が落ちた、とは私には思えないのです。みんな間違いなく懸命に努力を続けてきたからです。
今の日本が患っている症状に関して言えば、最近は非常に鋭い核心を突いた意見がたくさん出てきています。危機的な状況であることは認識され始めているのです。

問題なのは、症状に関しての認識は進んでも、「そもそも何が原因でこういう状況に陥っているのか」に関しては、それほど論議が交わされているようには思えないことです。
つまり、「競争力を阻害している真の原因とは何か」という最も大切な論議がほとんどなされていない。個々の事象には確かに気づいているけれども、その核心となるところには焦点が当たり切っていないことにこそ問題がある、と私は思うのです。

そういう意味では、今いちばん必要とされているのは、現在の日本の停滞を引き起こしている真の原因に焦点を当てた「仮説」を提示し、議論を交わすことだと思います。

来月5月13日に、2年ぐらい前から精魂を傾けて書き続けてきた、私の新著が新書版で出版されます。

 『日本的「勤勉」のワナ ~まじめに働いてもなぜ報われないのか』
          柴田 昌治 著 (朝日新聞出版)
 
この本のメインテーマは、日本が転げ落ちつつある衰退の坂道を抜け出すための処方箋を示すことです。そもそも何が原因で、次から次に問題が噴出しているのか。ここで言う処方箋とは、そうした問題の焦点を明らかにし、解決するための仮説のことを意味します。

■「枠内思考」とは何か、その功罪とは?

最近では、日本に現れているさまざまな症状に関してはいろいろな角度から語られるようになってきています。しかし、その症状に関しては語られていても、そもそも何が原因でそういう状態になっているのか、に関しては語られることはあまりなかったのです。

その原因とは何か。                         それは、「枠内思考」という一種の思考停止の存在です。
日本人の中でも、社会を動かしているような中心的な人たちが無自覚のうちにはまり込んでいる、この「枠内思考」という一種の思考停止こそが日本の停滞の真因である、という私の仮説を書いたのが今回の本です。

私たち日本人の思考には、「無自覚のまま前提を置き、それを枠とした制約条件の範囲でどうやるかを考える」という習性があるようです。これは言い換えれば、「どうやるかしか考えない」ということでもあります。
つまり、「ものごとの意味や価値、目的」などといった本質に迫る思考をしようとしない、という意味での思考停止がそこにはある、ということなのです。

「枠内思考」という思考姿勢は、一種の思考停止でありながら、決められた仕事をさばく、という意味では極めて有効なやり方でもあります。
実務で有効に機能している思考方法であるがゆえに、それが当たり前になり、すべてにおいて一様に「枠内思考」になってしまっていることに問題が潜んでいるのです。

もちろん、日本人がみんなそうだと言っているわけではありませんが、こうした「枠内思考」になっている人の割合が圧倒的に多いのが私たち日本人だと思われるのです。

たとえば日本企業に多い体育会系と言われる人たちがそうです。まじめで勤勉な、言われたことはきちんとたるという、従来の価値観でいえば優秀なしっかりとした人たちです。ビジネスモデルがしっかりと機能しているときならば、正確なオペレーションを継続的にやるという意味で最適な人たちです。
良い悪いは別にして、日本の中枢を占めているこうした人たちの持っている「枠内思考」という思考停止が日本の停滞を加速させている、という仮説です。

しかし、大事なことはここからです。
こういう「枠内思考」に慣れきっている人たちも、実は基本的にはまじめで勤勉な人たち、善良な人たちだ、ということです。悪意があるわけでもなく、自分だけがよければいい、と思っているわけでもないのです。
ということは、考えようによっては、日本人のまじめで勤勉な特性が生きる“希望の光”はあるのです。

その“希望の光”とは、「枠内思考」の使い分けができるようになることが可能だ、という点です。
そのために必要なのは、まず自分が無自覚の「枠内思考」という思考停止に陥っていることを自覚することです。そして、「枠内思考」が必要であるときと、そうであってはならないときの使い分けができるようになることなのです。

枠を外して考えることが必要なときに、「ものごとの意味や価値、目的」などをしっかりと考え抜くことができる力を身に着けておけば、この使い分けは十分可能になります。使い分けの結果(変化)は事実が示してくれます。

一昨年前に書いた「なぜ、それでも会社は変わらないのか」は、メインテーマを経営のチームビルディングに絞ったこともあり、読者層は限定的になってしまいました。
今回の本はなるべく多くの人に読んでいただくことをめざして書き下ろしました。
「日本の停滞の真因は何か」に関する議論が、いろいろなところで沸き上がる必要があると切に思うからです。

そういう意味でも、可能な限りわかりやすい言葉で問題の本質を描くことに徹しました。
著者として、みなさんの目に触れる機会があることを願っています。

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