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僕は勉強ができないけれど……。 第24回:『刑事ジョン・ブック/目撃者』

音楽は好きですか?

実をいうと僕は、普段そんなに音楽を聞きません。でも何曲かは特別に好きな歌があって、仕事中とか散歩中とかに聞くことがあります。ジャンルも特にこだわりはなく、自分が気に入れば何でもと思っていますが、強いていえば、古い曲のほうが好きだったりします。

今回はそのうちの一曲。サム・クックの『Wonderful world』を紹介します。


Sam cooke 『Wonderful world(1960年)』

[Verse]
Don’t know much about history
Don’t know much about biology
Don’t know much about a science book
Don’t know much about the French I took

[Chorus]
But I do know that I love you
And I know that if you love me too,
What a wonderful world this would be

[Bridge]
Now, I don't claim to be an A student
But I'm trying to be
For maybe by being an A student, baby
I can win your love for me

歴史のことはよく分からない。生物学もだめ。 科学なんてもっとだめで、興味を持って選んだフランス語もさっぱりだ。

でも僕が君を好きだというのは、何にも増して疑いようのないことだ。 だから、もし君も僕を好きでいてくれたらと思うだけで、この世界がとても素敵なものに思えてくるよ。

Aを取りたいとはいわないよ。でも、それに近い成績を取ることができたら、君が振り向いてくれるかもしれないから、僕なりに努力しているつもりさ。


使われている英語も難しくなく、気取った表現もない直接的な表現なんだけど、それゆえにまじり気のない純粋な気持ちになれます。勉強ができたからといって彼女に振り向いてもらえる保証はないのに、頑張ろうとするところとかね。

この曲を初めて聞いた高校生の頃は「ふん、勉強できないやつの強がりじゃないか」なんて偉そうなことを思っていたけれど(その数年後にかなり痛い目を見るんだけど)、今ではこういう正直でささやかな気持ちって、大切だよなと思ったりする。純粋でいること、まっさらな気持ちになることは、とっても難しいことだから。余計に。


映画:『刑事ジョン・ブック/目撃者(1985年)』

映画『刑事ジョン・ブック/目撃者』のなかで、ハリソン・フォード演じる刑事がこの歌をアーミッシュの未亡人の女性と聞くシーンがあった。

アーミッシュはいわゆるキリスト教の伝統的な共同体で、娯楽として音楽を聞くことはないから、刑事が「いい曲だね」とささやいても、女性のほうはちんぷんかんぷん。けれど、刑事がリズミカルに歌いはじめると、彼女もそれにあわせるように微笑み、2人はいかにも楽しそうにダンスを始める。まるで歌の歌詞にあるような、2人だけの素敵な世界が画面いっぱいに広がってくるようで、僕はこのシーンが特に好きです。

映画のストーリーそのものはサスペンス仕立てなんだけど、どちらかというとそれはサブ要素で、この2人のラブロマンスがメインなんじゃないかと思えるような映画です。


レイチェルの父「おきてを忘れたのか」
レイチェル「おきては破っていないわ」
レイチェルの父「そうかな? 銃を持った男をこの家へ連れてきて、危険を持ち込んだ。銃を持ったやつらが来る」
レイチェル「罪は犯していないわ」
レイチェルの父「まだ犯していない。だが人はどう思う? 一部のものは主教に訴えてお前を"汚れ者”にすると。ただの陰口と思うな。彼らは本気だ、”汚れ者”にされたらお前とは同じ食卓に座れず、一緒に教会へも行けない。頼む、気をつけてくれ」
レイチェル「子どもじゃないわ。自分で判断できる」
レイチェルの父「いいや、判断を下すのは彼らであり、私だ。恥をかかすな」

アーミッシュには共同体を守るための「おきて」がある。

地区によって程度の差はあれど「快楽」につながるような行為は禁じられている。賛美歌以外の音楽を聞いてもいけないし、聖書やその注解書以外の本を読んでもいけない。派手な服装もだめだから当然、恋愛なんてもってのほかだ。だからレイチェルの父は、彼女が自分たちの信仰生活に反しないように注意を促すけれど……。


恋をするというのは、まさにある種の不可抗力によって「落とされる」ようなもので。損も得も、危険も安全も、ましてやうまくいくかなんて考える間もなく「好きになったら」真っ逆さまに落ちていく。生活や仕事といった現実の問題なんて関係ない。落ちてしまったら最後、もがき続けないといけない。

おそらく、「理性のある大人」は、こうしたもがくことに折り合いをつけて物事を進められるのだろうけれど。それでも、そうしてもがくことでしか、たどり着けない場所や得られないものがあるんじゃないかとも思う。ただ、そのへんが難しいからみんな悩むわけで、物事はそう簡単にはいかない。そこに伝統的な価値観が絡んでくると、もっと話は複雑化する。


そのあたりの難しさや悲しさが、サム・クックの伸びやかな声とマッチしていて、一層、物悲しさを引き立てる。


歌われる歌で、映画の出来は大きく変わることもある

歌われる曲の1つで、映画の印象がガラリと変わることもある。その意味で、サム・クックの『wonderful world』は、まさにこの映画にふさわしい一曲だったと思う。古い映画ですがamazon primeやU-NEXTにあるので、もし時間があったら見ると面白いですよ。

But I do know one and one is two
And if this one could be with you
What a wonderful world this would be

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