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【進め!東大ブラック企業探偵団】を読んで

 ブラック企業の取締が叫ばれる昨今ですが、実際にブラック企業の見つけ方!とかその実態を入社する前に暴く!とかそういった書籍や情報は少なかったように感じませんか?
そんな中で手にとったこの本「進め!東大ブラック企業探偵団」はアングラな部分を定量的に歯に衣着せず明らかにしていく。これだけでは堅い感じもするが、その証明を東大の学生サークルが主体となって行っていくという物語調になっており非常に読みやすい。この本はアングラな部分を定量的に歯に衣着せず明らかにしていく。これだけでは堅い感じもするが、その証明を東大の学生サークルが主体となって行っていくという物語調になっており非常に読みやすい。

そして、こちらの本はニュースメディアnewspicksでも連載された内容を書籍化したものらしい。

取り扱っている業界は外食、金融、マスコミ、メーカーと幅広くなっており、その業界のブラックであるところや光明について切れ味鋭く指摘した本となっている。

【外食産業の光と闇】

価格競争によって利益の出ない外食チェーン店経営

 ここで描かれたのは牛丼チェーン店だ。吉野家、すき家、松屋。特にやり玉に上げられているのはすき家だろう。ワンオペの指摘や利益率1.5%といった信じられない数字を上げられて経営不安がわかりやすい。そして登場人物にすき家を経営するゼンショーに内定をもらう学生に対してはオートメーション化における雇用の消失まで言ってしまう。実に爽快である。そしてこのオートメーションに光を見出すのがおそらく本番だ。

外食産業低迷におけるオートメーション化で伸びるロボット市場

 すき家のご飯の配膳をするロボット、そして回転寿司チェーン店の「スシロー」の厨房をしきるロボットを製造する鈴茂器工が取り上げられる。売上高営業利益率は2014年度で15%という信じられない大きさ。2009年からの急上昇を見るに技術革新や労働コスト削減の号令がかかったのかもしれない。

 だが、他にロボット制作する企業はあるが、なぜ鈴茂なのか。それは圧倒的な技術力である。それを証明するかのように特許数は2013年までに30件を超える。他の企業の約3倍以上に値する。これが強さの秘密である。

 さらに海外進出も積極的だ。寿司は外国でも人気であり、それに応じて海外での鈴茂の人気も高い。なんと海外売上高比率は2014年度で20%を超える程。グローバル化には成功しているといえよう。

【メディア業界の光と闇】

テレビ業界の栄枯盛衰の歴史をたどる

今でこそ誰もが行きたがる就職人気上位のテレビだが、映画が映像の主流だった時代、その決断はバカにされたものだった。それはビジネスモデルが成り立たないと思われたからだ。なぜならテレビは一家に一台置いたらそれで終了。そこからおカネは稼げない。そう思われた。そこで活躍したのが電通だ。テレビ専門のメディア部署を立ち上げ注力して広告代理店として利益をあげた成功者だ。

テレビの視聴率は落ちているけれど大丈夫な理由?
実はキー局が盤石なのは理由がある。それが不動産事業だ。キー局は5社とも地価の高い港区にあり。高いキャッシュをあげている。売上高ベースではメディア事業が大きいが、利益ベースで考えると不動産事業の方大きい場合もあるのだ。(TBSでは不動産が稼ぎ頭)これがメディア制作への危機感を失わさせていると本書では指摘する。実際不動産では弱い東京テレビなどはレベルの高い番もあり、人気を博している番組もある。それに優良番組を提供しているスカパー!などもコンテンツで迫っている

テレビはいらなくなった?
これまでは知名度を広げるための大きなデバイスであったテレビだが、インターネットがここまで普及してきたことによってその必要性は亡くなった。そして数年前は買収されようとしていたテレビは見向きもされず新たに買収先となったのは、球団である。このコンテンツ力は強大であり、四六時中自分の会社を宣伝してくれる。よく考えたらメジャーに選手が行こうものなら海外にも知名度も上がるのだ。

テレビがクリエイターを殺した?
これが起こってしまうのは「どのコンテンツが当たるかはわからない」というのが原因だ。テレビ局はコンテンツを外注し、予算にあってある程度以上のコンテンツを買う形になる。そうするとクリエイターは買い叩かれ賃金も上がらないのも当然で、良いコンテンツは生まれない。コンテンツは最強の武器なのに、だ。

本当のコンテンツの王様とは?
ただ、コンテンツには王様がいる。ウォルト・ディズニーだ。同社がこれまで大きくなったのはコンテンツの覇者となる条件である不動産を抑えていたことが大きい。膨大な投資の結果であるディズニーランドがキャッシュを産み、ピクサー買収にも成功した。そいてコンテンツ制作にも最新技術が使われている。これは日本の最強コンテンツ「ジブリ」とは対照的だ。ジブリは宮﨑駿さんの手書きを主な武器としており、もちろんそのコンテンツ力は強大だが、2013年の「風たちぬ」と「アナ雪」では「アナ雪」の勝利に終わっている。

予測可能なコンテンツのヒット?
そして「どのコンテンツが当たるかわからない」これが変わりつつある。その力はネットフリックスが持っている。同社は膨大なコンテンツを様々な顧客層向けに作り、どのコンテンツが人気が出るかなど、全てをデータ化し、売れるコンテンツの方程式を創りだした。そしてそれを元に作品を膨大な投資で作る。リスクは軽減されているからだ。日本もHuluを買収していたりするが、ネットフリックスは既に日本にもきている。どうなるものか見ものである。

【日本のメーカーの未来】

リーマンショック後のメーカーの回復力の違い。
 
リーマンショックの後、日立と三菱は比較的回復が早かった。これは両社ともインフラシステム事業などを中心とする総合電機メーカーであったからだ。B to CからB to Bへこの方向転換が重要であった。対するパナソニックとソニーはそれに手間取った

工場を持たないメーカー?
 
自社で大量に製品を作ってそれを売る。そのビジネスモデルも変わりつつある。中国のメーカー鴻海は自社ではコアな部分の開発と最終的な組み立てだけを行いあとは外注してしまうのだ。これがファブレスメーカーという新たな形だ。確実にコストは浮く。

【大手銀行と地銀の未来】

メガバンクの海外進出は本当に成功する?
 
海外進出は買収する資金があれば良いというものではない。現地での慣習の差など壁は大きいものだ。実際、現状のアジア進出もメガバンクはほとんどが業務提携である。三井住友は40%の出資にこぎつけたインドネシアの年金貯蓄銀行の株価下落で、550億円の減損も出してしまった。

向かい風となるバーゼル規制
 
バーゼル規制とは銀行の破綻・金融危機を防ぐために各行に一定以上の自己資本比率を求める決まりのこと。コレに加えて金融安定理事会(FSB)は巨大銀行に対してさらに自己資本比率の引き上げを求める取り決めをした。これは世界的金融恐慌を防ぐための世界の潮流を示している。日本のメガバンクはこの基準に対しギリギリで、さらなる資金調達もしなくてはならないし積極的な進出が続けられるかはわからない。

かつては無名のゴールドマン・サックス(GS)
 
今では就活生のあこがれの的となるGSだが、その知名度がましたのは日本のバブル崩壊の時であった。バブル崩壊前に地価が上がり続けるとの予想から、ゴルフ場などの土地は買い占められたが、バブル崩壊によって価格は急落。それをGSは買い漁った。そして金融価値を上げていき、周りの動きがそれに気づいてきたようになったら高値でそれらを売っていく。まさにハゲタカと言われた時代から今のGSは作られている。法規制のギリギリを常に渡り歩き利益を生んでいく、永遠のベンチャー企業と呼ばれる所以もそこである。

地銀で最高給!スルガ銀行のニッチ戦略
 
スルガ銀行は静岡にある地銀で、ユニークな戦略によって利益を上げている地銀である。その秘訣は個人向け融資だ。その比率は90%と近く他の地銀の平均30%を比較すると大きな差である。その方向転換を図った理由は東西を大手銀行に挟まれたこのままでは生き残る術があかったからだ。他行が貸付を渋ってしまうような非安定の顧客に対し、自身のデータベースを駆使し与信審査をして貸し付けることで成り立っている。ネットバンキングを最初に取り入れたのもスルガ銀行だ。

まとめ

 この本を読んで思った重要点は”イメージは何の役にも立たない”ということだ。「安定したい!」という就活生が多いが、そんな就活生に限って定量的な分析を一つもしていない。財務3表を把握すること。純利益率を見ること。そして利益を生む、または失っている社会的背景を読み取ることだ。最初の外食産業も利益率が低いことに失望することは簡単だ。だが、その利益率が低い理由。そしてもっとコストカットをするためにどこに手を付けるのか。などといった探究心を大事にしたい。その先に自分が人に発信できる情報が産まれるかもしれないのだから。

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