見出し画像

LINEA-MINIの抽出圧力低下とスチーム系不具合の対応

この記事は、エスプレッソマシンを使った経験があって、ぼくと同じお悩みがある人を想定読者として書いていますからベーシックな部分の説明はあまり入れませんが、とはいっても皆さんに公開しているものですので簡単に前提情報も書きます。

エスプレッソマシンはボイラー(=boiler、水を加熱して蒸気を発生させる装置)が生み出す蒸気(=スチーム)によって圧力を得るための機械です。圧力発生マシンともいえます。コーヒーのおいしさが全然感じられない表現ですが(笑)、コアの機能はこういうことです。その圧力を使ってコーヒーを抽出したり(これがエスプレッソ)、高い圧力で噴出されるスチームでミルクを温めたりできます。圧力がおいしさを生みます。

当店のエスプレッソは、コーヒー粉に9.0barの圧力をかけて抽出しています。この圧力はエスプレッソの味をつくっていくために動かすパラメータ(調整項目)の一つですから、ほかのお店では異なる圧力で抽出しているケースも当たり前にあります。当店は、9.0barです。

概要と結論

さて、2019年9月のこと。エスプレッソ抽出中にその9.0barが若干9.0barを下回る日が出てきました。小さなブレでしたが、毎朝のメッシュ調整時に圧力計を目視して針が指し示す値をデータに記録しているぼくは、すぐ異変に気がつきました。当初、そのブレはずっとブレているわけではなくときおりでした。

ただ、翌10月になると圧力が下がる頻度が多くなってきてしまったので、商品としてエスプレッソを出せる品質を保持できているうちにマシンメンテナンスの依頼をしました。販売代理店の技術サポート部門にコールしたのは2019年11月1日のこと。伝えたのは

(1)抽出圧力が下がっている。
(2)スチームボイラーの余剰圧力を逃すバルブからスチームが出ているが、このところスチームの排出量が多くなってきた。
(3)漏水している。

という3点でした。抽出圧力のほかにもかねてからの異常が2点ありましたがエスプレッソに影響を及ぼしてはいなかったので問題解消を先送りにしていました。この際と思って一緒に対応のオーダーをしました。

(2)スチームボイラーの余剰圧力を逃すバルブからスチーム・・・というのは、読んだそのままの現象でこちらもぼくが見た限りでは発生源は不明で、原因も不明でした。これこそスチームが多少出ているだけでなんの問題にも感じていませんでしたが、購入直後のころはあんなに出ていなかったはずで、なんらか障害が発生する予兆なら困りますからこの機会に先手を打っておこうと考えました(でも、先送りにしてきたのですが(笑))。写真は現況でスチームは出ていません。

画像1

画像2


(3)の漏水は、マシンの脇から水が滴っていた現象で発生源が不明でした。漏水は電子部品の直上で発生していると漏電する確率が高いですから、予防措置をすべきと考えられる箇所にはだいぶ前に漏電しないよう対策をしてもらっていました・・・が、漏水の発生箇所は実は別の場所で、措置後も漏水は続いていました。

画像3

それから技術員の人がきてくれたのは11月6日のこと。営業日でしたので閉店1時間前の18時(エスプレッソマシンを使ったドリンクはこの時間でラストオーダーをいただいています)の約束で。

結論から書きますと、

(1)抽出圧力が下がっている。
  → ポンプ圧の調整で解消した。

(2)スチームボイラーの余剰圧力を逃すバルブからスチーム過多。
(3)漏水している。
  → スチームボイラーの余剰圧力を逃す経路の逆止弁を交換して(2)、(3)とも解消した。

このような対応で問題は解消しました。経緯を以下に。

スチーム過多と漏水

技術員の人が見ても、排出口から出ているスチームの量はたしかに多いという認識でした。

スチームボイラーからスチームノズルにスチームを送出する経路と、スチームボイラーの余剰圧力を逃す経路(排出口から出ていたスチームがこれに当たる)があり、その経路を分岐させるパーツを交換する対応になりました。分岐させるパーツの中の弁が不具合を起こしている可能性があるとのこと。

漏水については、ドリップトレーの天板を外してマシン(LINEA-MINI)を動かすと漏水しませんでしたが、天板を取りつけてみると5分ほどで漏水するようになりました。漏水する水の経路はいまだ不明でしたが、状況としては天板を伝って漏水している様子で、この水の元はドリップトレーのところの排出口から出ている余剰スチームだと考えられるため、漏水についても排出過多になっているスチーム量を適正にすることで解消を目指す方針で作業が始まりました。

しかしこの日の作業では排出過多のスチーム量も、漏水も是正されませんでした。この日に交換したパーツとは別の部分にある逆止弁に不具合があるケースが考えられましたが、この日は部品がなく、対応は別日に持ち越しとなりました。こういうのはやってみなければ分からないところ。一つひとつ潰してもらうしかありません。技術員の人がこの作業を終えたのも23時を過ぎていましたから時間としても別日の対応になりますね。

つぎに作業に来てくれたのは2日後の11月8日で、別の技術員の人でした。

6日に見当をつけた逆止弁が劣化していたことが分かり、この日はその交換が行われました。その逆止弁が劣化していてスチームボイラーのスチームが過剰に排出されていたため排出口から多くのスチームが出ており、その排出スチームが水滴になりマシン右側下部から漏水していたとの診断です。

ちなみに、6日に交換したパーツの中にはパッキンも含まれていて、交換後スチームワンドから噴出させるスチームにキレが出ました。そのことを8日の技術員の人に伝えると「そうなると思います」とのコメント。劣化することで弁、パッキンが甘くなっているとスチームを取り出すハンドルをたくさん回さなければならず、交換して弁がきっちり機能しているとすこしハンドルを回せばきちんとスチームが取れるという話を聞かせてくれました。

11月8日の対処で排出過多のスチームも漏水も発生しなくなりました。とくに漏水は当時2019年に入ってずっと発生していたので、スッキリしました。排出過多のスチームも発生しなくなり、いままで排出口からドリップトレーに滴っていた水滴すらも一切なくなりました。納品時のころはこの状態だったはずです。

画像4

抽出圧力が下がっている

さて、今回の本丸。抽出圧力が下がっている問題です。この経緯も11月6日と8日に分けて書きます。

11月6日はガスケットと呼ばれるパーツを交換することで圧力の復帰を目指しましたが、不発でした。ガスケットはゴム製でグループヘッドに着いています。ポルタフィルターをセットするときに受け側になっているパーツですね。ゴム製なので経時劣化して固くなり最後は割れてしまいますから、そうした劣化による圧力の漏れが圧力低下の原因であろうという見立てだったのですがこれは見当違いでした。

このとき技術員の人は、浄軟水器の吐水圧力に異常はありませんか? という点に言及したので、ぼくは「変わらないんですよ」と回答しました。

以前の記事(店をオープンするまで / (12)造り込み(厨房と水回りのプランニング))で、ぼくはこのように書きました。

エスプレッソマシンは圧力を利用してコーヒーを抽出する機械で、その圧力を生んでいるのは水道圧です。ぼくが購入していたLINEA-MINIの場合、コーヒーを抽出するためのコーヒーボイラーはディフューザー(コーヒーの粉にお湯をかけるための吐水口)からお湯を出しながら同時にポンプから給水もして抽出圧力を一定に保っているため、給水圧力(水道圧)が下がると抽出圧も影響を受ける仕様です。
抽出圧が影響を受けるということは、抽出圧を利用して抽出するエスプレッソの味も影響を受けます。この圧力は基本9気圧(9bar)で設定しますが、これが10barになったり8barになったりするとエスプレッソの味が違うわけです。9barが「正解」というわけではありませんが、9barでおいしいと思ってお客様にこれをご提供したいと思ったエスプレッソの味が、水道圧が不安定という理由でブレてしまうのは絶対に避けたかったのでハイフローシステムから最初に浄水を供給する機械はエスプレッソマシンに決めていました。

水道圧がエスプレッソに影響を及ぼす可能性がある観点から、浄軟水器エバーピュア社のハイフローシステムから吐水される水道圧の数値(OUT側、2つある計測計の右側)を以前から記録していました。いつも変わらない水道圧で何の役にも立たない記録になるかも知れなかったのですが、特段の手間ではありませんでしたから記録を続けていました。

画像5

余談ですが、記録するということの価値は、異常があった時にそれを変動値として捉えて分析して原因追及できるところにありますし、今回のようにマシン側で異常があったときに「浄軟水器はいつもと変わらない」ということで原因の可能性を一つ減らせますから、これも記録していたことの価値でした。

そんなわけで技術員の人の「浄軟水器の吐水圧力に異常はありませんか?」という問いに「変わらないんですよ」と回答できたことで無駄な回り道をせず作業を進めることができました。その結果、浄軟水器の吐水圧力も、コーヒー粉の挽き目も問題ないのなら、LINEA-MINI内のポンプというパーツの不具合だという見立てになりました、

ポンプを交換することがつぎに打つべき手でしたが、この日は部品がなかったため別日に持ち越して対処してもらうことになりました。抽出圧力は、ポンプにある圧力調整機構をつかって少し調整してもらいました。

つぎに作業に来てくれたのはやはり2日後の11月8日。排出過多のスチーム対応と一緒に対応してもらいました。

この日は事前に連絡があり、ポンプを交換すると部品代が20,000円でしたが、今回は交換しない方針とのこと。ポンプはまだ継続使用できるという判断で、理由は、2日前に抽出圧力を調整して、それで圧力が安定しているならポンプを交換する状況にはないということでした。

写真はLINEA-MINIの内部で、グリーンのマーカーで囲んだ箇所の丸っこいパーツがポンプ本体です。ポンプについている金色のボルトを回すと抽出圧力を調整することができます。

画像6


ただし、11月8日に技術員の人が作業した際にはここまで筐体を外さず(上の写真は別日別件のときのものです)、天板を外したまででした。そのときの写真がこちら。

画像7

画像8


この日も少し圧力を調整をしてもらいました。写真の通り非常に狭い作業空間でしたがレンチを使って巧みに金ボルトを回していました。1回金ボルトを回すと技術員の人から要請されるので、ぼくがLINEA-MINIの電源をONにして(作業中はOFFにします)エスプレッソ抽出をして圧力を確かめて、という調整作業です。

ポンプ圧を調整するボルトは、
先に黒いナットを緩めて(反時計回り)、
金ボルトを調整する。
金ボルトは
締める(時計回り)と圧が上がり、
緩める(反時計回り)と圧が下がる。
黒いナットは金ボルトが緩まないようにするための固定ナットで、金ボルトの調整を終えたら黒いナットを締めて作業を終了します。

この圧力の調整は今回のような不具合対応時にも行いますが、それよりも味づくりの一環としてエスプレッソにかける圧力を調整したいときにも行いますので、作業を教えてもらったのでした。

ちなみに、圧力を1bar変えるのに金ボルトを半周以上は回さないと変わらない。今回の調整の過程で圧力を0.3barほど変えるのに45°くらいは金ボルトを回した、という話でした。

ちなみに、8日にきてくれた技術員の人は6日の人よりも上級職だったようで、いろいろと話を聞かせてくれました。6日に言及のあった浄軟水器からの水道圧については、LINEA-MINIを水道直結した場合、浄水は圧力を作り出す内蔵ポンプへ直接入っているため、仮にポンプ圧(=抽出圧)が低下したりブレたりしたならそれは水道圧の低下も疑われるものの、その低下がポンプ圧(=抽出圧)に大きく影響するならそれは断水に近い状態なのでそんなに気にすることではないですよ、ということでした。

LINEA-MINIは水道直結しなくとも内蔵貯水タンクからの給水でエスプレッソ抽出ができる仕様です。タンクで動かしているときは水道圧がありませんから9barの抽出圧力は内蔵ポンプがすべて作り出しています。これが水道直結になると通常6bar前後の水道圧を利用して、あとは内蔵ポンプで足りない圧力を補うかっこうになりますから、タンク使用時よりも水道直結環境のほうがポンプの疲労は軽いですし、購入して2-3年で使えなくなる物でもありません、とも。

今回抽出圧が低下したのは、ポンプにはバネが入っていてこれが自然に緩んでくることがあり、緩むとポンプ圧が下がる仕様。それが原因でしょうとの診断でした。緩むたびに金ボルトを締めて圧を上げる対応をすればよいのですが、金ボルトを回して続けてボルトが全部押し込まれたら、終了です。ここに至るとポンプを交換することになるとのことでした。

まとめ

現在(2020年9月)まで不具合の再発はありません。最終的な診断と措置が的中したということですね。

なお、マルゾッコは製品ごとに仕様のドキュメントを提供しています。下の図面はLINEA-MINIのパーツカタログで、コーヒーボイラーとその周辺を背面から見た図です。このときの件ではこのドキュメントを参照しながら理解を深めました。

画像9

画像10

product documentation(製品ドキュメントのページ)
https://lamarzoccousa.com/support/

上記URLの"linea mini"の項にある"parts catalog"(下記URLからも直接開けます)をクリックするとPDFファイルにてドキュメントが開き、パーツごとの関連図を参照できます。マシンを知るにはとても良いドキュメントですのでオススメです。

linea mini の parts catalog への直接リンク
https://www.lamarzoccousa.com/wp-content/uploads/2020/03/lineamini_Parts_Catalog_V1.6_COLOR.pdf

お店での運用や使い勝手などはたくさん操作するバリスタがよく分かっていますが、機械は仕様の理解も重要です。仕様はメーカーが提供しているリソースに当たるのが最もよいと思っています。

プロユースのマシンのトラブルシューティングについての情報は、Web広しといえどもなかなか読んだことがなかったので、お困りの方の一助になれば幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?