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店をオープンするまで / (11)屋号に込めた意志と、ブランドロゴ

屋号は『NANAIRO COFFEE BREWERS』です。

この屋号が自分のメモに最初に登場したのは2017年4月6日のこと。そのときはアイディアの風呂敷を広げているさなかに出てきたたくさんのワードのうちの一つでした。メモには『nanairo coffee』と書き留めていました。

屋号を考えるにあたりことば選びで留意したのは6点で、お客様が覚えやすく愛着をもってくださりやすいようにと考えたポイントです。
・認知度の高いワード
・親しみやすいワード
・意味が分かりやすいワード
・字面からリズムを感じるワード
・ひと塊りの屋号として発声するときに、発声しやすいこと
・ひと塊りの屋号として発声したときの語感、リズム感がいいこと

そして、屋号を表現するにあたってはこんなことを軸に据えていました。

(5月4日のメモより引用)

『屋号は究極の見出しで、自分の意志を2つ、3つのワードに込められればいい。商売なんだから意志はお客様に向けたものであるべきで、自分に内向するものじゃない。こんなお店ですよという意志、メッセージ。』

「見出し」と書いているのは「新聞の見出し」が念頭にあります。新聞に掲載されている記事の見出しは、記事の内容を数文字のことばで表現したものです。新聞でいえば読者が、お店でいえばお客様がパッと見て理解できるという意味で「屋号は究極の見出し」とメモしていました。

そこに込めた意志、メッセージは、お客様にコーヒーを楽しんでほしいということ。これに尽きます。味、種類、産地そして飲み方、味わい方など、コーヒーの楽しみ方はいろいろありますが、このいろいろな楽しみ方に通底していると考えたのが「多様」という概念でした。いろいろ=多様、まさしくそうですね。多様を英語に直訳すると「バラエティー」という垢抜けないワードになってしまうので、意訳的に『NANAIRO』というワードをひねり出しました。

もう一つ、ぼくは焙煎はせずにコーヒーの焙煎豆をセレクトして抽出することが仕事で、そういう店にすると決めていましたから、その表現として『BREWERS』(ブリュワーズ)というワードを屋号に入れたいと常々考えていました。

nanairo というのは七色のことで、コーヒーの味わいそのものが多様であることと、コーヒーが好きな人たちの味わい方も多様であることを意味しています。
自分が取り扱うスペシャルティコーヒーの味は本当に多様で、コーヒーの苦味の中に・・・ではなくて、苦味と一緒にグレープやアップル、オレンジなんかの甘い酸味や、ナッツとかキャラメル系統の甘味なんかが同居します。豆によってはレモネードを飲んでるような味を感じることもあります。当然、なにも加えないブラックのままのコーヒーの話です。
そしてお客様の味わい方も多様だし、色んな嗜好があるし、自分としてはコーヒーの懐の深さと味わいの多様性に無限の可能性を感じているし、自分は率直にコーヒーのそういうところが好きなので、取り揃えるコーヒーは深煎りから浅煎りまで用意します。味わいは豆の産地によっても異なりますが、焙煎度合によっても大きく異なりますから。
お客様に、いろんな可能性といろんな味わいに出会ってほしいという、そういう思いを nanairo というワードに込めました。
もう一つのワード、brewer は直訳すると醸造メーカーを意味しますが、コーヒー業界では brewers はコーヒー抽出屋さんというようなニュアンスで使われています。コーヒーを淹れることを英語で brew といいますよね(ビールも brew を使いますけど)。ワードとしては耳慣れない人が多いかもしれないんですけど、屋号全体として、ロゴのヴィジュアル面で「coffee」のワードを強調すればお客様の認知には支障ないかなと判断しています。
自分は焙煎はやらないし、コーヒーの抽出技術を価値にしていきたいと思っているので、あえて屋号に brewers を入れたいと思ったのです。
こんな思いから nanairo coffee brewers に決めました。
以前考えた屋号には自分のコンセプトも込めました。
凝縮していえば、「共有したい」というのが根っこの思いです。人と向かい合って共有したいんですね。当たり前ですけどこのコンセプトは変わっていません。お客様と共有するのは、コーヒー自体のことでも、あるいは日常のことでも、地域のことでもいいんですが、コーヒーを真ん中に置いて自分とお客様とがなにかを共有する、お客様同士が共有する、そんな場にできたらいいなと思ってます。
それは変わっていませんが、今回は屋号にコンセプトを込めませんでした。コンセプトというのは「自分の思い」だと考えています。なぜこの事業をやりたいのか、もっと大仰にいえばどんな生き方をしたいのか、という自分の思いですね。
一方で屋号は、お客様が支持してくださるもの、お客様が愛着をもってくださるものがいいなと考えるようになりました。その屋号に個人的な思いを込めてもお客様からの支持、愛着にはプラスに作用しないと考えるようになったので、今回は屋号からコンセプトを外しました。

引用符で括った箇所は、店のブランドロゴ制作をお願いしたデザイナーさんに宛てたメールです。2017年7月19日に送っていました。20年来おつきあいのある、仕事でいろいろな苦楽を共にした方です。

こんな思いをもって『NANAIRO COFFEE BREWERS』は、多様な(いろんな)楽しみ方のできる抽出専門のコーヒー屋です、というメッセージを込めた屋号にしました。



ぼくのそんな思いを汲んで結晶にしてくれたブランドロゴが、このロゴです。

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2017年8月30日に初案を4ついただいたなかの1つで、ヴィジュアル面やデザイン上の修正をいくつかお願いしてこの最終版を固めました。

こうしたブランドロゴというのはフォント(書体)から起こして作り込んでくれます。文字の太さを微調整してもらったり、ぼくには「I」が「人」に見えたので、より「人」感が強調されるように小文字の「i」にしてもらったりしました。

逆にデザイナーさんの発想で「F」にスペースを入れてくれて、そこに「息抜き」「リズム感」をヴィジュアル面で表現してくれました。これによって初案では端正でカチッとした隙のない印象だったロゴに、こなれた雰囲気、肩の力が抜けた雰囲気がにじみ出てきて親しみやすさが増したなあと感じたことを覚えています。「F」にスペースができたことで「i」とのリズム感も合って全体がなじんだ印象も受けました。

そして、7つのタイルで表現された象徴的なマークは、初見のときはデザインの意図が分からなかったのですが、これは「人」という字を2つ並べたものだと説明してくれました。この意図を聞いた瞬間「おおおおお・・・」と、こころが打ち震えたことを鮮明に覚えています。

凝縮していえば、「共有したい」というのが根っこの思いです。人と向かい合って共有したいんですね。

という、屋号には込めなかったぼくのコンセプトをロゴのマークに落とし込んでくれたのです。観念をヴィジュアル化できるのはスゴいことだとこの時にあらためて感じました。そのうえ美しく機能性をもたせたものになっていますから、デザインというものの力に感服しました。こころを打ちます。

マークに「人」が2人いて、「i」にも「人」が1人いて、ロゴに人が3人いることになりました。個人的な考えなのですが、YESかNOかだけではなく、正負だけではなく、愛憎だけではなく、そうではない3つめの選択肢がある世界というのは生きやすいと思います。この3人めの「人」が3つめの選択肢を感じさせてくれて、さらに4つめ、5つめの選択肢への展望も想像させてくれます。本当に、いいロゴを産み出してもらえました。

ロゴは、大切にしたいんです。そのロゴは、まずなにより自分が愛してやまないものにしたいし、お客さんもそのロゴに寄り添いたくなるものにしたいです。そういう思いの結晶としてデザインされ、ヴィジュアル化されたものがロゴだと考えているので、大切にしたいんです。

こんなことも伝えながら、ブランドロゴの制作をお願いしたいですと最初に相談したのは2016年9月のこと。ここにたどり着くまでにもうだうだと時間を浪費しましたが、素晴らしいブランドロゴを結晶にしてもらえました。

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