ホテルソウルズ開発元Studio SOTT紹介
※ 『Hotel Sowls』をまだプレイしていない人も、ネタバレなしで読めます
こんにちは、『Hotel Sowls』の翻訳者の一人、Masa Keiです。翻訳作業を通じて、開発元Studio SOTTのお二人に詳しいお話が聞けたので、ここで記事にしていきます。お二人は韓国・ソウル市にある美大の卒業生で、クラウドファンディングに成功して注目を集め、インタビューにも答えています。韓国語の記事しかないので、まだStudio SOTTのことは日本で知られていないでしょうから、私がご紹介をと。
1.『Hotel Sowls』ってどんなゲーム?
『Hotel Sowls』(ホテル・ソウルズ)は、奇妙で不思議な雰囲気のホテルを舞台とした、2Dのミステリー・アドベンチャーゲームです。独特なアートワーク、ゆるくてかわいいキャラクターをひと目見て気に入ったというファンが多いですね。
主人公の薬学者は、神秘的で貴重な石を得たものの、ホテルの誰かに石を盗まれてしまいます。従業員に聞き込みをしながら石を探し、ホテルの秘密に近づいていきます。いわゆるポイント・クリック式で、ホテルにある色々なものを触って遊ぶのも楽しいです。
PC版がSteamで発売中! 低価格ですがストーリー性もあってクリアまで2~3時間遊べます。ヘンな隠し条件の実績がたくさんあって、探すのが楽しかったと好評です。
2020年7月30日にNintendo Switch版(パブリッシャー:CFK)も発売されました! 翻訳はPC版と同じ。実績探しに関してもゲーム内で対応してあります。持ち運びやすいのがSwitch版、マウス操作でカーソルが動かしやすいのがPC版です。
2.開発者のお二人は、こんな人
TOTT(トット)さんがアート担当で、NOON(ヌンヌン)さんがプログラミング担当です。お二人とも美大の卒業生でデザイン専攻ですが、NOONさんは副専攻として情報工学を学んでいます。Unityでゲーム開発をする美大生!
NOONさんだけでなく、アート担当のTOTTさんも最初は一人で小規模なゲームを作っていたそうです。2Dに特化した海外産のゲームエンジン、GameMaker Studioを使って、『ROOMIES』というゲームを作って大学のグループ展示に出展しました。TOTTさんの個人サイトで『ROOMIES』のアートワークを見ることができます。『Hotel Sowls』の原型と言えるかもしれませんね!
この個人サイトのBlogには、『Hotel Sowls』ポストモーテム(振り返り)と題して、(1)アートワーク、(2)キャラクター、(3)開発プロセスといった解説が連載されています。私が翻訳した日本語も掲載してもらっています。第2回だけ結末部分のネタバレがあるのでご注意ください。
さて、TOTTさんとNOONさんがどんな人かご紹介しますが、まず性別については曖昧にします。見てのとおりTOTTさんのアイコンは猫ちゃんです。猫がしゃべっているように見えますね。
ローカライズチームはDiscordでやりとりをしていて、これらは過去ログの画像です。TOTTさんたちはわりと自然な日本語を使っているように見えますが、実際は韓国語を機械翻訳しています。
TOTTさんは子供の頃から任天堂のゲームが大好きだったので「Nintendo Switchの画面で『Hotel Sowls』を見ることができるなんて、とんでもなく嬉しい」と言っています。
TOTTさんはちょっと不思議な人です。奇抜で独特なビジュアルのゲームを探すのが趣味で、好きな日本のゲームは『クロノトリガー』と『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』だそうです。数あるシリーズ作の中でも『ムジュラ』をセレクトしてくるあたり、やっぱり奇抜で独特です。(海外のゲームで、インスピレーションを受けたものは『Hylics』を挙げている。)
子どもの頃にプレイした『SIMCITY2000』の思い出を語るとき、「宇宙人が登場する災難が発生すると楽しかった」と、まずそこを突いてくるような人です。他に好きなゲームは『Hotline Miami』で、これは極彩色のサイケデリックなビジュアル、敵を殺しまくる過激なインディゲームです。こういう話を嬉々として語るTOTTさんにぞっとさせられます。『Hotel Sowls』は、かわいくて、少しぞっとするゲームですが、やはり絵を描いているご本人がそういう人なのです。
TOTTさんはマンガを描くのも好きと言っていて、『トッピング人間』という怪作があるんですよね… 『Hotel Sowls』一階ロビーの本棚にある、あれなんですけど。実物が存在するんですよ。TOTTさんの個人サイトで公開されてますから、ゲーム内のテキストと合わせて読んでみてください。TOTTさんワールドの一端が垣間見えますよ。
不思議な人であるTOTTさんを、NOONさんはよくサポートしています。NUN (ヌン)は韓国語で「目」のことで、NOON(ヌンヌン)さんは、二つ並んだ「目」のアイコンを使っています。プログラミングのできる美大生。勉強家で、しっかり者です。
NOONさんは猫ちゃんと暮らしています。打ち合わせの途中、数字だけ誤送信したかと思うと、「すみません、うちの猫が……」というハプニングもありました。ねこが踏んじゃったのですね。その猫ちゃんはボリと言います。韓国語で「ムギ」のことです。『Hotel Sowls』一階ロビーの本棚に、NOONさんが「しっぽの長い猫、ボリ」について書いた本が入れてあります。(写真がボリちゃん。NOONさんがしっぽを伸ばしてくれている)
NOONさんの好きなインディゲームは『RimWorld』や『Don't Starve』で、そういった生存シミュレーションが好きと言っています。さすがプログラマ! 理知的ですね。
NOONさんの人柄がわかるエピソードをひとつ。韓国のフリマアプリ「にんじんマーケット」で、サイズが小さすぎてノートPCが入らなかったリュックを400円ぐらいの安値で出品したら、「50円値引きしてください」とお願いされて、もともと安いものをさらに値引きしてくるなんてどんな人だろうと思って直接取引で会いに行ったら、とても礼儀正しい小さな子がおこずかいを封筒に入れて買いに来て、かわいかったのです。それをツイートしたらバズって2.2万リツイートされてました。いい話です。
3.『Hotel Sowls』開発の経緯
さて、ここからは、韓国の月刊誌『월간 지앤선』(monthly-jiandson)に掲載されたインタビューから読み取った内容が半分。あと半分は、『Hotel Solws』開発ブログの内容です。
TOTTさんがもう一つゲームを作りたいと思って、同じ教室で授業を受けているNOONさんに「ホテルのゲームを作りたい」と話し、教室でラクガキをするところから開発が始まったそうです(楽しそうですね!)。
最初は一時間くらいで終わる短編で、自由にホテルを歩き回るゲームを考えていたみたいですね。隠された部屋があるとか、そういう設定はラクガキしながらアイデアを出していったようです。「日数経過があって、昼と夜に分けて…」というシステムを思いついてからは、一日ごとにどのようなイベントが起こるかアイデアを出して、絵を描いて、ゲームを作るというサイクルで。企画と絵を描くのと、ゲーム開発の進行があまり大きく離れないようにしたそうです。
一緒に大学に通っていた頃は、大学で会ってよく作業をしていました。毎週金曜日に会ってミーティングをして、カフェで一緒に作業もしました。講義が終わったあと、夜になるまで作業をしました。
韓国のクラウドファンディング・Tumblbug(タンブルバック)で資金を調達するにあたって、目標金額は低めの150万ウォン(1円11ウォンだと約13万2千円)に設定していましたが、最終的に2085人の支援者から2150万ウォン(約189万円)の支援がありました。目標金額との比率ではビデオゲーム部門で過去最高を記録したそうです(1433%)。
クラウドファンディングで調達した資金は、主にBGMと英語訳の外注費に使われました。他に、グッズを製作して支援者への特典にしたり、Unityのアセットを購入したり、Steamで販売するための手続きの費用にしたり。お金がかかるものですね。
2018年4月30日まで タンブルバックで資金調達
同6 月23日 規模拡張のためリリース日を9 月末に延期
同7 月28日 メインストーリーとエンディング1 つ実装
同8 月25日 開発期間をさらに延長してこれを卒業制作にする
同10月29日 (ミニ)ベータ・テスト
同11月19日 Steam のストアページがオープン
同12月3 日~ 8 日 卒業展示
同12月5 日 Steam の早期アクセスで発売
予想以上に資金が集まったので、クリアまでに2~3時間遊べるようにゲームの規模を拡張することになり、メインストーリーを入れて、マルチエンディングのゲームにしました。2018年12月の卒業展示のあと早期アクセスで発売していますが、そのときはエンディングが揃っていなかったのです。その後、(おそらく就職活動や、就職してからが忙しかったのだと思いますが、)最後のエンディングを実装して2019年12月に正式発売。同時に、日本語対応を始めました。
4.日本語化作業
『Hotel Sowls』の翻訳については、クリアした向けに別の記事を書くつもりです。(Switch版が発売されてから?)ここでは簡潔に。
2019年12月 韓国の有志8名ほどで機械翻訳+日本語修正
2019年12月31日 正式発売。以降も日本語のブラッシュアップを続ける
2020年1月 韓国の大学生で日本語学習者のMARK1Jさんが先に参加
同1月26日 初めての日本語ネイティブとして筆者が参加
(ほどなく、ゲーム実況者の「も民」さんも参加。これで全員)
同3月11日 日本語修正が完了して、告知
同3月17日 電ファミニコゲーマーの記事に
(その後?)韓国のパブリッシャーCFKと契約
途中からは私が新しい翻訳を書き、MARK1Jさんが「原文の意味から離れていないか」「訳し漏れがないか」をチェックするという分業をしています。も民さん(別名もとじめさん)はお忙しくて翻訳は少しでしたが、『Hotel Sowls』のゲーム実況動画を編集してくださって、それにMark1Jさんが韓国語字幕をつける形で、Studio SOTTのお二人も動画を楽しんでいました。
3月17日には、電ファミニコゲーマーに「日本語訳が完了」の記事を掲載していただきました。これは、12月31日の正式発売直後からプレイしてくださっていたライターさんが記事を書いてくださったものです。かなりリツイートも「いいね」もついて、反響がありました。たぶんそのおかげだと思いますが、韓国のパブリッシャーCFKからオファーがあって、Nintendo Switch版の発売が決まったようです(そのへんの事情は私が知っているわけではなく、だいたいの時期からの推測です)。
ここまで読んでくださってありがとうございました! どうか、Studio SOTTの二人を応援してあげてください。ファンのおかげでここまで来れて、いつも感謝を忘れない人たちです。
まだチーム結成から一作目なのに、クラウドファンディング、有志による日本語化、パブリッシャーとの契約、Nintendo Switch版の移植と、あらゆることを経験してきたし、お互いに最高のパートナーに恵まれた名コンビだと思います。
おまけ:マンガ『UNDERWORLD TOUR』
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