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わたしは……ケチャップになるんだ……

 こんにちは、マサ ケイです。「ゲームとことば Advent Calendar 2021」に参加して、「思い出に残るゲームのフレーズ」というお題で記事を書くことになりました。1日ずつ記事が公開されます。楽しみですね!

 私にとっては『Hotel Sowls』というアドベンチャーゲームが韓国インディーゲームとのファーストコンタクトだったので、その体験を再現してみようと思います(開発者からOKもらってます)。ゲームを開始してすぐ、ホテルのロビーで目にする光景がこれです。

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トマト「わたしは……ケチャップになるんだ……」

 あっ…そうなんですか…おいしいケチャップになれるといいですね…もう床に落ちてつぶれちゃってますけど…そもそも、トマトに顔があってしゃべるなんて今、知りました。そういう世界観なんですね、このゲーム…

 そんな感じでした! これが私の、思い出に残るゲームのフレーズです。

 あとで開発者に教わったのですが、これは韓国の童謡「おしゃれなトマト」(멋쟁이 토마토)の歌詞です。検索すると動画が見つかります。トマトたちが「ジュースになるんだ」「ケチャップになるんだ」「踊りを踊るんだ」と、それぞれやりたいことを言うのですが、『Hotel Sowls』では息も絶え絶えに言っています。元ネタを知らなくてもなんとなくわかりますよね。きっと、こういうユーモアが日本のユーザーにも伝わって、このゲームは広まっていったんだと思います。

 さて、少し時間を巻き戻して、順に振り返っていきます。2020年1月、Steamで『Hotel Sowls』の早期アクセスが終了した翌月。当時の私はゲーム翻訳者でも何でもありませんでした。ゲームの有志翻訳をやってみたくてもどうしていいかわからず困っていたところ、『Hotel Sowls』のストアページに「日本語の改善を手伝ってください」とデカデカと書かれているではありませんか。現状どんな感じか、OPムービーを見てみました。雪だるまのようなキャラクターがかわいいので手伝ってあげたくなりました。当時の動画が公式にまだアップされているのをご覧ください(現在販売されているバージョンでは修正済み)。

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成功的?

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受けおりません・・・

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(かわいく)「どこに消えたの?」

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ドアも掛かれていた…?

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「何か亡くされたんですか?」…不穏な誤変換。

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地下のバーで、レモネードをさけぶ

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おかしいのは日本語です

 かなり興味がわいてきました。公式ホームページなどで調べると、ソウルにある美大の卒業制作として、2人で開発したゲームだということがわかりました。低価格のゲームとは言え、韓国のクラウドファンディングで2085人ものバッカ―を集めていました。卒業から1年経って、早期アクセスを終えて正式発売されたばかり。聞けば、開発者自身も日本語を少し学んでいて、知人を集めて自分たちで日本語翻訳したとのこと。私は1人目の日本語ネイティブとして参加して訳文に一通り手を加えました。私1人の手柄ではなく、翻訳改善がうまくいった要因としては、1. Discordサーバーで開発者と毎日のようにやりとりしながら作業できたこと、2. Papago翻訳のような、韓国で開発された翻訳サイト・翻訳アプリを使って、かなり意思疎通ができたこと。3. 韓国人の大学生がチェッカーとして、原文と離れ過ぎていないか確認してくれたこと。こういった環境が構築できていました。韓国では日本語学習者の有志を募りやすいのだと思います。

 その後、ゲームパブリッシャーのCFKから声がかかり、Nintendo Switch版が2020年7月末に発売されました(日本語タイトル『ホテル・ソウルズ』)。ついでにCFKから私にも声がかかり、いくつか案件をいただけるようになり、私は兼業でゲーム翻訳の仕事をすることになりました。主に校正です。

 そういうわけで、ゲーム翻訳者デビューのきっかけになった『Hotel Sowls』のセリフが思い出に残っているのですが、個人的な事情よりもお伝えしたかったのは韓国のインディーゲームのことです。韓国には、日本のコンテンツに長年親しんできたゲーム開発者がたくさんいます。『Hotel Sowls』の開発者2人以外にも、数名のインディーゲーム開発者と今までやりとりしましたが、機械翻訳を使いながらでも、全員が日本語で私とコミュニケーションをとってくれて、好きな日本のゲームやアニメの話をしてくれました。東方やローゼンメイデンが好きな人、セーラームーンが好きな人、名探偵コナンが好きな人…等々。みんな日本のコンテンツに思い入れがあって、自分たちのゲームを日本のユーザーにプレイしてもらえるのを喜んでいます。

 韓国には、日本語でコミュニケーションをとろうとする好意的なインディーゲーム開発者が大勢いて、同じような出会いが今まさにどこかで起こっていても不思議ではないのです。私の周りだけでなく。『Hotel Sowls』の従業員やトマトのように日本語で語りかけてきて、それがきっかけで楽しいことが始まるといいなあと思います。「わたしは……ケチャップになるんだ……」というセリフは、ゲームを通して触れることのできた韓国文化の一端でした。これが私と韓国のインディーゲームをつなげてくれたのです。


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