インディゲームのより良い未来を!

 この記事は、前半はプレスリリースの話で、後半は、開発者を取り巻く環境がもっと整備されてほしいと思い、産・官・学連携の話に触れています。

2021/06/18追記
先日、ノウハウ本『インディーゲーム サバイバルガイド』鋭意制作中との発表がありました。プレスリリースなどの宣伝・告知に関する章もあります。体系的にまとめられた本が出るなんて、こんなにありがたいことはないですね!
2021/10/17追記
2021年11月17日発売に決まったとのこと! その後、私も購入して参考にさせてもらっています。

1. プレスリリースの話

 きっかけは、『KONSAIRI』の記事です。1月21日、しふたろう氏のサイトで「2年費やしてSteamでリリースしたゲームは初週で10本も売れなかった」という記事が投稿され、SNSで話題になり、AUTOMATONの記事にも取り上げられました。

 このAUTOMATONの記事には、プレスリリース送付が発売日から一定期間過ぎてしまうとメディアでは取り上げにくいので、これを機に、より有効なプレスリリース送付の仕方が広まってほしいという有用なことが書かれています(元記事をお読みください)。

 AUTOMATONと同じく、株式会社アクティブゲーミングメディアが運営するPLAYISMのTwitter公式アカウントも、この記事に補足するコメントをしています。このツイートも、AUTOMATONの記事も、今後、開発者たちの役に立つ情報を提供しようとしていて、誠実な対応だと私はいつもながら感心しています。

 

 CEDEC2018の講演の記事でも、同じようなことが語られていました。

「インディーゲームがメディアに載るチャンスはほぼ1回しかない」各メディアが語る、インディーゲームの生存戦略:CEDEC 2018
「それをものにしてください」

 

 『KONSAIRI』のケースでは、プレスリリースに必要とされる説明文、トレイラー、スクリーンショットなど一式をそろえた、いわゆる「プレスキット」は準備してあって、それ以外にもいろいろと広報の努力をした様子がうかがえます。PLAYISMのツイートで指摘されているような、記事になりやすい「新作発表・発売日発表・発売」の3つの使い方をミスったのだろうというこの一点が悔やまれます。問題はそこだけではないとしても。後に続く人たちには、見落としを防げるところは防いでほしいと思います。

 では、どうやったらノウハウを広めて、こういう事例を減らすことができるのでしょうか? 現在活動している個人開発者にとっては、横のつながりを持って、情報提供できる場をつくることでしょう。ただ、技術的な問題と違って、マーケティングとかマネタイズとか、どうやったら売れるかという話は、正解がなく、責任が持てないので、開発者同士ではアドバイスしにくいとは思います。だからこそ、プレスリリースの送付時期のような、確実におさえておくべきポイントが伝わってほしいです。大量の情報に埋もれてしまわないように。
 もちろん、パブリッシャーとパートナーになることも良い解決策です。開発者だけでまかないきれない部分を補うために、パブリッシャーがあるのですから。

2. 産・官・学連携の話

 さて、今回『KONSAIRI』の記事に対する反応をTwitterで見ていて、なるほどと思ったのは、
・売れなかった場合、その理由を分析され、あらゆる方面から指摘される
・指摘が正しいとしても、「死体蹴り」のようになってしまう
・愚痴ぐらい言いたいだろうから、そっとしておいてやれ
こういう反応です。(あえてうろ覚えで書いて、ツイートも貼りません)私も同感なので、『KONSAIRI』のゲーム自体や広報に何が足りなかったかということよりも、インディゲーム開発者を取り巻く環境、つまり社会的要因に焦点を当てようと思います。

 売れなかった理由の分析や、アドバイス的なコメントは、探せばたしかにたくさん出てきます。それを見ていて思うのが、「インディゲーム開発者って、マーケティングのセンスも備えていなきゃ生き残れないのか。ハードル高すぎないか」「うーん、ゲーム作りたいだけの人も、いっぱいいると思うけど…」ということです。私自身も、新卒でゲーム会社に就職した頃は、「ただゲームが好きなだけじゃなくて、ビジネスパーソンとして…」と思っていましたし、甘えは許されないと思ってたんです。若い頃に私が分かっているつもりで分かっていなかったのは、人によって向き不向きというものがあって、クリエイターの中には、職人気質というか、芸術家肌というか、「創作には向いているけどビジネスパーソンとしては難ありの人」がいるのが普通で、無理に変えようとしなくていいということです。何年もかけてゲームを完成させられる人は、それだけで立派な才能だと思います。面倒に感じることは、その仕事に向いてる人を頼っていいのです。向いてないことを強要されると、得意分野での力を発揮できない人も多いです。
 なので、基本的には、すでにノウハウを持っている人がそろっていて、分業化されている組織、つまりゲーム会社に就職するのが第一選択肢だと思います。ゲーム開発現場を経ることなく、いきなり独立してインディーゲーム開発というのは、無理ゲーすぎます。やるとしても、あまり全部抱え込まなくていいと思います。できる範囲で、ゲームを売るためのノウハウも身に着けていってもらったらと思いますが。

 では、ゲーム開発というのは、ゲーム会社に入って経験を積むものなのでしょうか。いえ、もっと前の段階から、学ぶ場があるべきです。大学の実習で経験できたほうがいいだろうし、その実習で企画したゲームを評価してもらって、学生同士で作ったチームをもとに起業して、資金やオフィスの支援も受けられて…という話を、海外ではちらほら聞くんですね。クラウドファンディングや、起業の支援などが、もっと充実してほしいというのが、私の願いです。
 もちろん、開発したゲームが商業的に成功するとは限らず、最終的にチームが解散になってしまったとしても、それまで経験したことがキャリアとして評価されて、どこかのゲーム会社に就職できるという、そういうキャリアパスがあればいいと思います。

 2020年11月7日の「INDIE Live Expo Ⅱ」で、ゲームライター徳岡正肇氏が、スウェーデンのシェブデという町が、町おこしとして、インディゲーム制作を支援しているという事例をリポートしてくださっています。これ、ものすごく興味深く拝見しまして、希望の光を見たような気持ちでした。4Gamerの記事へのリンクと、番組の動画(4:04:57 世界のインディスタジオ)を貼ります。

記事から一部、引用させていただきます。続きは元記事をどうぞ。

このプロジェクトの特徴は,「産」「官」「学」の連携にあるという。
・産
 地元産業界が,インディーズゲーム開発者にマーケティング技術をレクチャーしてくれる。具体的には,投資家に対するプレゼンの練習をさせてくれたり,投資家を紹介してくれたり,そして作ったゲームでいかに収益を上げるかといったところについて相談に乗ってくれたりする。こうしたサービスは通常なら料金が必要になるものの,「Sweden Game Arena」ではなんと無料。ただし,作ったゲームをどうマネタイズするかを数字で示すという視点が求められるという。

 まさしく、これ…! こういうものが日本にもあれば、インディゲームが売れなかった話を聞いても、ああまでショックを受けずに済むのでは。無料でとは言いませんが、インディーズゲーム開発者にマーケティング技術をレクチャーしてくれる人がいて、プレゼンの練習の場があれば、1人で開発者が背負い込むことにならないはずです。しかも、これは町おこしの一環としてやっているので、ここでサービスを利用することが町に歓迎されているし、開発者同士の交流もあるんですよ。オフィスも実質無料で貸し出してもらえるし、地元のシェブデ大学にはゲームデザイン学科があるし、イベントも開催される。ここに住みたい、ここでの生活は楽しそうだと思わせてくれます。

 続いて、韓国インディゲームで、私の見聞きした例を、ご紹介しましょう。まず、タワーディフェンス&デッキビルディングの『Ratropolis』(ラトロポリス)。Steamで、早期アクセス期間を経て、2020年12月22日に正式発売。

 このゲームは大学の実習で企画されたものです。ソウル市にある私立大学、西江大学校(Sogang University)2018年1学期のプロジェクト。大学のホームページに、学生のプロジェクトを公開しているページがあります。
https://www.soganggame.ac.kr/egallery/?idx=608

 追記:ここの大学の学生プロジェクトから『Last Light』もスタートし、CRESTがパブリッシャーとなって日本向けローカライズされた。

 韓国には、「Tumblbug」というクラウドファンディングがあります。
 ビデオゲーム部門のリンクを貼ります。すでにSteamで発売されているインディゲームがたくさんあります。なんだか、韓国インディゲームのほうが恵まれた環境のような気がするのは、私だけでしょうか…。

 『Ratropolis』は、597人の後援者を得て、目標金額450万ウォンに対し、集まった金額が約1541万ウォン(342%)。日本円で144,7万円くらいです。ファンディングに成功するまで、メンバーは学業とアルバイトを平行していたため開発に遅れが生じていましたが、開発進捗65%ほどの時点でこのクラウドファンディングを実施したそうです。
 2018年7月 ファンディング完了
 2019年11月 Steamで早期アクセス開始
 2020年12月22日 正式発売

 私が日本語翻訳をお手伝いした『Hotel Sowls』は、「Tumblbug」でファンディングに成功し、美大の卒業制作として、在学中にSteamの早期アクセスで発売されました。開発者2人は、それぞれがいったん企業に就職する道を選びましたが、長い人生のなかで、再びインディゲーム開発をするチャンスはあるでしょうし、すでに『Hotel Sowls』を完成させて、Nintendo Switch版の移植もされたという実績は、立派なものです。
 『Hotel Sowls』でお世話になったパブリッシャー、CFKは、『QV(キュビ)』というパズルアクションゲームを発売していますが、その開発会社izzleは、大学の授業で企画した『Dimension Painter』をリメイクして、『QV(キュビ)』を作りました。大学卒業後、起業するにあたって政府の資金援助を受けたと、インタビューで答えていました。資金面では厳しい時期があったようで、下請けの仕事などもやっていたようですが、初期メンバーとほぼ8年間いっしょにやってこれたそうです。学部の同期5人と、あとから合流した2人は大学の後輩と知人だそうです。

 

  私が求めているのは、こういう環境です。大学でのゲーム制作経験国内のクラウドファンディング、それと起業支援。マーケティングに関する相談ができること。スウェーデンのシェブデのように、産・官・学の連携ができれば、素晴らしいと思います。こういう環境であれば、もうちょっとインディゲーム開発に希望が持てるのではないかと。
 『KONSAIRI』の一件で思ったのは、開発者を取り巻く環境がもっと整備されるべきで、みなさんには、そういう社会的要因に目を向けてほしいということです。海外のほうが、環境が整備されていると言っていいでしょう。それにならって、追いつくことは、一から築くよりもやり易いはずです。より良いインディゲームの未来を築くことができるかもしれないのです。スウェーデンのシェブデは、あそこまで20年かかっているそうです。一朝一夕に成し遂げられるものではありませんし、もしこの先、日本でこのような環境が実現しなかったとしても、私は、こういう成功例を知ることができて良かったと思います。今回、改めてそう思いました。
 売れなかったインディゲームを、「自己責任」で片付けてしまうのは良くないと思います。日本は、ある時期まで業界をけん引してきたゲーム先進国だったのに、スウェーデンのシェブデのような環境を作れませんでした。でも、何もやっていないわけではないし、まだこれから、インディーゲームのためにできることはもっとあるんです(追記:この記事を執筆したのと同時期に、次々と発表があり、インディーゲーム開発を支援する取り組みが増えてきました。)。
 2020年は、前述の「INDIE Live Expo」をはじめ、オンラインイベントが活況でしたし、そこから『天穂のサクナヒメ』のような大ヒットも生まれました。良い方向に前進しつつあると、私は期待しています。

最後にひとこと。

あきらめない、インディゲームの明るい未来を!!


2021/02/16追記。こちらの放送で取り上げていただきました。

 それと、ちょうど追記しようと思っていたんですが、マーベラスさんがインディゲーム開発者支援のプログラムを発表してました。産・官・学です。

(公式サイトより)
日本のインディーゲームを世界へ
「iGi」は日本初のインディー向けインキュベーションプログラムです。すぐれた作品を開発しているクリエイターを、産業・学校・地域自治体が連携し支援します。

 追記:2021/06/15に、5チームが選出されたとの発表がありました。ツイートの続きに、5チームの紹介もあります。

追記:2021/11/26に、第一回目の5チームの作品プレゼンテーションイベント「Demo Day(デモデイ)」が開催されました。公式サイトで映像アーカイブ配信中。


 2月12日のAUTOMATONさんの記事で、タイのインディゲーム『Timelie』の開発者インタビューも、すごく興味深く読ませていただきました。これも大学の学生プロジェクトでプロトタイプが作られて、のちにリメイクされたものです。記事では、開発者がタイのゲーム事情を語っていて、今年は「ゲーム開発を学ぶ学生が数多く大学を卒業するようになった」。少し前までと違い、支援する団体が出てきて「資金提供を受けたプロジェクトが今後続々と出てくる見込み」といった話も。

追記:2021/02/15 【講談社ゲームクリエイターズラボ】最終結果発表があり、7名のクリエイターが第1期ラボメンバーとして決定されました。

追記:2021/04/20 集英社・新規事業開発部ゲーム事業・映像事業開発課が、個人または少人数チームで活動をするゲームクリエイターを支援するプロジェクト“集英社ゲームクリエイターズCAMP”をスタートすることを発表しました。

大手出版社もインディゲームに興味を示しているというのは、追い風ですね。ゲームパブリッシャーとは、また違った分野に強みを発揮してくれるかもしれません。

3. その後の『KONSAIRI

KONSAIRI 情報 wikiを作ったり、2021/06/12にバージョン1.2となる大型アップデートと、大幅に値下げするなど、継続的に活動なさってます。


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