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明るく元気に 出発進行

少し前の平日の夜に、京都市内からぼくの住む町へ電車で帰った。

途中の駅で乗り換えがあって、一番前の車両に乗りこんだ。田舎だし、それなりの時間なので乗客はまばら。席について発進を待っていると、ものすごく元気な声が聞こえてきた。

それは運転手さんが、出発前の計器のチェックを行う声だったんだけど、あまりにも元気で、かつ丁寧に行っていたもんだから、ぼくは鼻でフフっと笑ってしまった。

面白いな、新人さんなのかな。その元気も今のうちだけだろうな、って。

電車は出発して、次の駅に着いた。

「ホーム、右よし!左よし!ホームよし!!」

という大きな声での指差呼称があって、ドアが開く。

出発時は、

「出発進行!ドアよし!ホームよし!進行!!(最後にもう一度)ホームよし!!」

という確認があって電車が動き出す。

それらをきっちりすべての駅で行っていた。


途中いくつか無人駅がある。無人駅で降りる場合は、乗車券の確認をしてもらうために、乗客は一番前の車両の一番前のドアから降りる。

その電車が最初に止まった無人駅で、乗車券の確認のため客席側に顔を向けた運転手さんを見て、ぼくは驚いた。彼は新人さんでもなんでもなく、40代くらいの男性だった。

これまた大きく元気な声で、「お待たせしました!」と言い、降りていく客ひとり一人に対して「ありがとうございました!」と素敵な笑顔で声をかけていた。

その姿を見て、

「な、なんだこの胸の高鳴りは…!?これはもしかして…恋…?相手は男なのに?オジサンなのに?ぼくにもOL(おっさんずラブ)の世界に飛び込む時が来てしまったの?」

とは全くならなかったんだけど、乗り換え時にその人を鼻で笑った自分を恥じた。

思うにその運転手さんは勤続20年は超えているはず。それなのにいまだにあれだけの熱意をもって業務にあたっているのは、ものすごいことだ。ほんの少しでもそれをバカにしたような気持ちを抱いてしまったのが恥ずかしい。

平日の夜22時くらいで、乗客は運転手のことなんて全く気にも留めない。寝ているか、スマホをいじっているひとがほとんど。そんな状況でも運転手さんの仕事ぶりはブレずに変わらない。

きっとこの仕事が大好きで、誇りを持っているんだろうな、と思った。その姿勢から学べることはたくさんある。


ぼくの降りる駅も無人駅なので、彼に切符を渡して降りないといけない。だからぼくは、運転手さんほどに素敵ではないけれど、へたくそな笑顔で「ありがとうございました」と言って電車を降りた。


今日もありがとう、またね。



「スキ」が元気のみなもとです!