多様性の高いチームのリーダーになったら「自分のトリセツ」をつくるといい
少し前に「上司に『いいね』とは、いかがなものか」みたいな話があると、見かけました。
それもまた組織文化なので部外者があれこれ言っても仕方ありませんが、私は絶対にそこでは働けないな、と思いました。
さて、そんな話を横目で見ながら、外資系企業では比較的一般的だけれど、日本企業ではあまり見かけない考え方を思い出しました。
Manage up という考え方です。
一般的にマネジメントというと、部下・メンバーを対象として考えますが、Manage up というのは「上司を管理せよ」という意味です。
私は、上司が外国人だったことが何度かあるのですが、多国籍チームの運営に慣れた外資系企業のマネージャーは、メンバーを管理することに力を注ぐだけでなく、メンバーが自分をうまく使うためのコミュニケーションに気を遣っています。たとえば、
こういった「自分のトリセツ(取扱説明書)」をちゃんと作って、新しいチームメンバーに伝えるんですよね。
はじめて、こんな話をされたときはビックリしましたが、探り探りその人のスタイルを理解していく無駄がなく、とても仕事がやりやすかったのを覚えています。
似たようなバックグラウンドの人が多い(多様性の少ない)日本企業では、このような「トリセツ」の必要性を理解しにくいと思いますが、共通のバックグラウンドがない人が集まる(多様性のある)グローバル企業では推奨される行動です。
なにしろ、以下の図で明らかなように、多国籍チームでは本当に何から何まで考え方がまるっきり違う、ということがありえますから。
図は、金沢大学 先端科学・社会共創推進機構のページより。原典は、エリン・メイヤー(2019)、異文化理解力、英治出版
さらに、忘れてはいけないのが、この図はあくまでも「一般論」であり「傾向」であって、ここに「個人差」が加わることで、さらに異なるマップができあがります。そうなると、さすがに「言わないと分からないよね」という状況になので、やはり「トリセツ」が必要とされるわけです。
実は、日本人しかいない日本企業であっても、「トリセツ」が求められるケースはどんどん増えていると思っています。
さまざまな研究で、異なる国で育ち、異なる言語を操るとしても、同じ世代の人たちは似たような価値観を持つ傾向にあるとされています(ジェネレーションY、ミレニアル世代など)。
これは逆に考えると、同じ国で育ち、同じ言語を話すとしても、世代差による価値観の違いが大きく、とても「同じバックグラウンドを持つ人たち」とは呼べない、ということです。
さらに、日本の労働市場においては、新卒一括採用と企業内教育の慣習が非常に強いため、新卒時の教育(研修だけでなくOJTも含む)が会社観や仕事観に与える影響が非常に大きいです。これによって、育ってきた環境が違うと、同世代であっても仕事に対する価値観がまったく違う、ということが起こります。
このような背景がある中で、転職は以前よりもはるかに一般的になり、中途採用者が増えることで、一見すると同じようなバックグラウンドを持ってそうなのに、ふたを開けてみると全然違う価値観を持ち、仕事のやり方も全然違う人が集まる職場が、あちこちに生まれています。
自分のトリセツを作るためには、自分の弱点や嫌な部分にも向き合わなければいけません。また、自分を相対化して見る必要があります。
ひとりではなかなか難しいのですが、そんなときのコツは一緒に働いたことがあるメンバーから直接フィードバックをもらってしまうことです。
ここには「こういう質問や依頼が来るかもしれないけど、それはただの興味だったりするから、プッシュバックするか、うまいことかわせ」という意見もあるかもしれません。そういったコメントも含めて、一字一句修正せずに、チームメンバーに公開する。これがフィードバックをくれたメンバーに対する敬意であり、それがまたチームメンバーとの信頼を強めることになる......そうです。すみません、私はここまでやったことはないです。
転職組が多かったり、世代差が広かったりして、多様な価値観を持つメンバーのチームリーダーになった方は、「自分のトリセツ」を作ってみましょう。メンバーが自分をうまく使えるようにすると、自分にとってもメンバーにとっても仕事がやりやすくなると思います。
前段だけでずいぶん長くなってしまったので、部下がうまく上司を扱う(Manage upする)コツについては、明日ご紹介します。
いただいたサポートはありがたく次の記事制作に役立てたり、他のクリエイターさんの記事購入に使わせていただきます。