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社長、ITに詳しい人のアドバイスを鵜呑みにしないでください。特に「組織の基盤型ツール」を選ぶときは

(2021/6 追記)

以下の内容は、動画で YouTube でも公開しています。文章を読むより、動画の方がいいな、という方はこちらをどうぞ。

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この記事は、そろそろウチもITツールとかを導入しないといけないのかな...と考えている、中小企業の社長さん向けです。

意外なことに、あなたの周りの「ITに詳しい人」アドバイスを求めると、失敗につながるかもしれません…という内容です。
ITツールの導入に失敗すると、やっぱりウチにITは向いてないのか...と思いがちですが、それは単にやり方を間違えただけです。
中小企業こそ、ITを活用して、人と時間を大事な仕事に集中することが大切なので、御社にあったITツールを選んでほしいと思います。

この記事の内容をざっくりまとめると…
・ITツールには「特定業務の効率化型」と「組織の基盤型」の2種類があり、それぞれ選び方が違う。あなたの周りの「ITに詳しい人」の経験は役に立たないかもしれないので注意が必要。
・組織の基盤型ツールを選ぶときは、現場の人が使えるかどうかが最重要。現場の人に試してもらい、彼らの感覚を重視する。
・現場感覚を重視して選んだら、ITに詳しい人には「作戦づくり」で活躍してもらうのが良い。

2種類のITツール

ものすごく大雑把に分類すると、ITツールには大きく分けて2種類あります。

1つは、特定の業務を効率化するためのツール。
例えば、決算のための経理システム、給与計算システム、販売管理システム、予約管理システム、シフト管理システムなどが、これに当たります。kintoneで脱エクセル!は、こっちです。
こういったITツールを導入する目的は、すでに社内で実施している特定の業務を効率化すること。そして、多くの場合、そのツールを利用する人(部署、職種、担当者)は限られていて、全社員が使うわけではありません

もう1つは、組織の基盤となるツール。
勤怠管理システム、情報共有ツールなどが代表的な例です。LINE WORKSやサイボウズOfficeは、こっちです。kintoneで勤怠管理システムや社内ポータルを作る場合はこっちになりますので注意してください。
最大の特長は、先ほどの例に比べて、ツールを利用する人が非常に幅広く、ほとんどの場合で全社員になることです。
そして、利用できる業務の範囲も非常に広いため、導入の目的やツールを使いたい業務が関係者によってマチマチになりがちです(この点への対策は後述します)。

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「ITに詳しい人」にアドバイスを求めるときの注意点

世の中のITツール選びのポイントは、特定業務を効率化するツールを選ぶ際の話に偏っている気がしています。これは、日本のIT産業の大半が、特定業務を効率化するツール(アプリケーション)の開発に偏っていたこと、組織の基盤となるツールの方が数が少なく経験者が少ないこと、といった要因が考えられます。

なんにせよ、多くの「IT識者」や、皆さんの周りの「ITに詳しい人」の経験の多くは、「特定業務効率化ツールの選定・導入」であることが非常に多いのです。
私の経験からも、「組織の基盤ツール」を導入しようとしているときに、周りの「詳しい人」にアドバイスを求めたが、実は的を得ていない、ということが往々にしてあるので、「危ないな」と感じています。


ツール選びのポイントが違う

皆さんも聞いたことがあるだろう「よくある選び方」は、機能の〇✖表を作って製品を比較したり、ちょっと大掛かりなプロジェクトだと、社内業務とのフィットギャップ分析をしたりする方法です。
実はこれらは、すべて「特定業務効率化ツール」向けの話だと思ってください。

すでに実施している社内業務を効率化するのだから、その業務に適合しているか(フィットするか)を重視するのは当然で、その適合度について機能比較するのも当然です。

既存のやり方を廃し、ツールがもたらす新しいやり方に合わせる場合も同様です。自社のAという業務を、ツールに合わせて変えていこう、どういった形にすればよいか既存のやり方を分析し、新しいやり方を設計していく。これも結局は、自社の業務とツールとの適合性を見ているわけです。

ところが、こういったやり方を「組織の基盤になるツール」選びにも当てはめてしまうと、不幸が起きやすいのです。
いわゆる「現場に使われないシステム」が生まれます。

「組織の基盤型ツール」を導入するときに大事なのは、
ズバリ全社員が使えるかどうか、です。

基盤にするのだから、どんなに機能が優れていても、現場で働く大多数の社員が使えなければまったく意味がありません。
基盤型のわかりやすい例は「電話」です。一部の人しか使えない「電話」を想像してください。ある人が掛けても、ある人は受けられない。これでは基盤になっていませんね。
基盤型のITツールも同じです。一部の人しか使えないようでは意味がないのです。「ITに強くない人でも使えるか」が、ツールを選ぶ上で極めて重要なポイントなのです。

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組織の基盤型ツールの選定は、現場中心に試しまくる

では、「組織の基盤型ツール」は、どう選べばいいのか?

結論は、現場の人に試してもらうことです。

つまり、トライアル(お試し利用)がもっとも重要です。
機能要件、セキュリティ要件、価格などなど気になる点は多々あると思いますが、それらは決め手ではなく、一次選考のフィルターとして考えます。
したがって、最低限の要件を満たせば一次選考通過でかまいません。

最低限の要件で一次選考したら、あとは現場の人に使ってもらいましょう。場合によっては、別の人に違うツールを試してもらい、同時に2~3個を試すのもアリです。4~5つのツールを試用したお客様もいらっしゃいましたし、すごいお客様は90種類以上のツールを試したそうです。
それくらい重要なのです。

どんなに機能が優れていても、あなたや、社内のITに強い人の感覚で、ツールを選ぶのは危険です。
現場の人が「これなら私たちでも使えそう」という感覚を持てないツールを選んではいけません。実際に使うのは彼ら彼女らですから。

たしかに現場の人は、そのツールの機能をすべて使いこなせないかもしれません。基本的な知識が不足しているかもしれません。
だからこそ、彼ら彼女らに試してもらう意味があるのです。
彼らの仕事はツールを使いこなすことではなく、そのツールを使って仕事をすることです。仕事を進めるが主で、ITツールを使うことは副です。だからこそ、「私たちの仕事に使える」と思えるかどうかが、極めて重要なのです。


ITに強い人にお願いするのは「作戦づくり」

では、社内のITに強い人の出番はないのか、というとそんなことはありません。彼ら彼女らが活躍するのは、現場の人が仕事で使うための作戦を立てる場面です。
組織の基盤型ツールは全社員が利用することになるため、社内への影響が非常に大きいです(対して、特定業務効率化ツールの影響は、一部の部署・役職の人に限定される)。
せっかく現場の感覚を重視して選んでも、トライアルに参加していない人の方が多いでしょうから、出だしでつまづくと、やはり「使われないシステム」になりかねません。
ツールの選定も大事ですが、実は導入の作戦の方がもっと重要なのです。

新しい仕事のやり方を設計する、それに合わせて事前にツールを設定しておく、ツールの中でサンプルを見せる。

こういったことを、現場の人に任せると、混乱しがちです。せっかく使えると思ったのに、やっぱりダメだった…と挫折しないようにしたい。
ここは、ITに強い人に作戦を立ててもらいましょう。

現場が使うためのハードルを下げるにはどうすればいいか?
社内への説明をどう進めると良いか?
社内の誰を味方につけるとうまくいきそうか?
まず、どの仕事からはじめるか?
どの部門・役職からはじめてもらうか?

社長とITに強い人が一緒になって、こういった作戦を立てていくことをお勧めします。
社長の号令で一気に行くのがいいのか、現場リーダーに任せた方がいいのか、若手主導にした方がいいのか。
これは、会社によります。社長さんなら、その感覚値があると思います。

また、「組織の基盤型ツール」は利用できる範囲が広く、さまざまな目的が入り乱れやすいのが特長です。あらためてヒアリングをしてみたら、社長と管理部長とシステム課長が、全然違うことを考えていた、ということもありました。
一度にたくさんのことを始めると混乱するので、まずどこから始めるのか。その作戦も、社長とITに強い人のタッグで考えておきましょう。

こういった作戦が決まると、ツールの設定や、社内への説明方法、サンプルや資料づくりなどがスムーズに進みます。

社内に適任者がいない?
そんな時こそ、「知り合いのITに詳しい人」に相談してください。
ツールを提供しているメーカーは、御社の業務に精通していません。御社の業務を多少なりとも理解している人が、御社の特長を「ITツールに合わせて通訳」することで、メーカーも適切な回答ができるようになるのです。

ITに詳しい人にお願いすべきは、ツールを選ぶことではなく、現場の人が選んだツールを社内に導入する作戦づくりなのです。

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まとめ

ITツールの選定や導入に不慣れな社長さんであれば、知り合いのITに詳しい人にアドバイスを求めたくなると思いますが、その人が「特定業務効率化ツール」の選定や導入を得意としてきたのであれば、そのアドバイスはちょっと的外れかもしれません。

中小企業(スモールビジネス)が輝くためには、ITの力をうまく活用するのが不可欠です。「組織の基盤型ツール」の選定・導入での失敗を避け、御社にあったツールを選びができるよう、参考にしてもらえればと思います。

・ITツールには「特定業務の効率化型」と「組織の基盤型」の2種類あり、それぞれ選び方が違う。あなたの周りの「ITに詳しい人」の経験は、特定業務の効率化ツールに偏っているかもしれないので注意が必要。
・組織の基盤型ツールを選ぶときは、現場の人が使えるかどうかが最重要。現場の人に試してもらい、彼らの感覚を重視する。
・現場感覚を重視して選んだら、ITに詳しい人には「作戦づくり」で活躍してもらうのが良い。

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