意思決定に関するよくある勘違い:とにかくメリット・デメリットを洗い出す

意思決定の記事で「メリット・デメリットでなく、リスク・リターンを考える」ことをお勧めしましたが、説明不足なところがあったと思うので、本noteで補足します。


複数の案を比較して意思決定する場面では、よく「メリットとデメリットを洗い出す」ことがおこなわれます。あなたも仕事で一度や二度はやってるでしょうし、もしかするとプライベートでもやったことがあると思います。

このやり方も悪くはないのですが、実は経営者やリーダーが大きな意思決定をするとき、メリット・デメリットで決めることはまずありません。

このあと詳しく説明しますが、これまで経験したことがないような未知の状況で良い意思決定をするには、メリット・デメリットではなく、リスクとリターンを考える方が良いのです。

例えば、転職するべきか?という意思決定をするとき、こんなメリット・デメリットが頭に浮かぶと思います。

メリット
・給与や待遇が上がる
・新しいチャレンジができる
・欲しかった「○○マネージャー」の肩書きがもらえる
デメリット
・期待に応えられるかわからない
・まったく違う環境に適応できるかわからない

どうでしょうか?決められそうですか?

こういった内容を並べたところで、同じ悩みでグルグルしてしまい、なかなか結論が出せない、というのはよくあるパターンです。

そもそも、メリット・デメリットがハッキリわかっているなら、たぶんそんなに悩んでいないはず。自分で洗い出したそのメリット・デメリットが合っているのかわからないし、そのトレードオフの度合いがわからないから、迷っているわけです。

人生に絶対の正解はありませんから、A案の良い面はB案の悪い面であり、どちらを選んでも良いことも悪いことも起き得ます。また、未来は予測できませんから、その案を選んだときのメリットやデメリットを考えても、あくまでも現時点での想像でしかありません。

さらに、メリット・デメリットが同じくらいなら、何もしないこと(現状維持)には何の損得も発生していないように勘違いしがちですが、これは2つの面で間違いです。

まず、何もしない(現状維持)という選択=意思決定をしています。意思決定をしていないつもりで、実はすでに意思決定しているんです。

次に、もうすでに意思決定をしているわけですから、その選択によってなんらかの結果(リスクとリターン)が生まれる状況になっています。何もしない(現状維持)を選択した場合、良い結果が出ることはあまり期待できません。むしろ何もしないことで、リスクが大きくなっているかもしれない。でも、それに気づきにくい。

未知の状況や未経験なことへのチャレンジなど、不確実性が高いなかで意思決定をするなら、メリット・デメリットではなく、リスク・リターンで考えてみることをお勧めするのは、こういった理由からです。


では、「リスク・リターンで考える」とは、具体的にどうやるのでしょう?

ざっくり言うと、こう考えます。

この案を選ぶことで、私は何を期待してるの?(どんなリターンを想定してるのか)
この案を選んだときに生じるリスクは何?
そのリスクをいまの私は取れる?


この考え方の前提は、世の中にノーリスク(ゼロリスク)の選択肢なんてない、ということです。

何かを得ようと思ったら、ノーリスクなんてことはあり得ないのです。リスクを取るから、リターンがあるのです。

「リスクを取る」と言うと、つい「ハイリスク・ハイリターン」を想像しがちですが、リスクにも大小さまざまあります。ハイリスク・ハイリターンの選択もあれば、ミドルリスク・ミドルリターン、ローリスク・ローリターンの選択もあります。あなたにとって良質な意思決定とは、いまのあなたにとって適切な選択だということです。

先ほどの「転職するべきか?」という例で具体的に試してみましょう。

転職のメリット
・給与や待遇が上がる
・新しいチャレンジができる
・欲しかった「○○マネージャー」の肩書きがもらえる
転職のデメリット
・期待に応えられるかわからない
・まったく違う環境に適応できるかわからない

これがメリットとデメリットを洗い出したときのイメージでしたね。洗い出してはみたものの、「これで決められる!」という感じはしませんよね。

そうなんですよ。メリットとデメリットという並べ方は「整理・分析」してる感は出るんですが、「決める」には力不足なんですよね。

それでは、リスクとリターンを考えてみましょう。

転職に期待しているリターンは?
・現職では得られない経験
・それによって得られるスキル
・現職比 20%アップの給与
・評価によってはストックオプションも
・欲しかった肩書き
・新しい人的ネットワーク
転職することで生じるリスクは?
・これまでのやり方が通用せず、期待されたパフォーマンスが発揮できない
・新しい仕事に慣れないうちに市況が悪化し、厳しい評価を受ける
・周りとの人間関係がうまくいかず、成果が出せない
・最悪の場合、短期間でまた転職することになり、職歴がイマイチになる

どうでしょうか?単にメリット・デメリットを並べたときよりも、決めるための材料になってきた気がしませんか?

期待しているリターンと、生じるリスクを洗い出したら、次に考えるべきことは

そのリスクを今の私は取れるか?

です。

例えば、すでに知り合いが多いとか、人間関係をつくっていくのは得意と思うなら、リスクを下げる対策が取れることになります。実務経験はなくとも、副業で似た仕事をしているので勘所はつかんでいると思うなら、対策ができるということです。

リスクに対してそこそこ対策が取れるし、仮にすべての対策がうまくいかず「最悪のシナリオ」になったとしても、「そのときはそのときさ!」と考えられるなら、あなたはこのリスクを取っても良いわけです。

逆に、「いや、知り合いゼロだし、先方の期待値が高すぎる気がするし、マーケット環境も悪くなってきてるよね。それに最悪のシナリオはちょっと許容できない」と思うなら、あなたはこのリスクを取れないということです。

リスクを取れない状況なら、リスクを取らない選択を、
ある程度のリスクを取れる状況なら、取る選択を。

そのためには、

  • いまの自分がどの程度のリスクを取れるのか、どの程度のリターンを望んでいるのかを考える。

  • そのリスクを下げるような対策が取れるかどうかを考える。

  • 最悪のシナリオを受け入れられるか考える。

メリット・デメリットを洗い出すよりも、こんな風に考えることで、良い意思決定ができるようになりますので、ぜひ試してみてください。

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