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これからの士業の世界~ぼくがかんがえたさいきょうのせんりゃく~

行政書士の谷内田です。
久しぶりに、真面目に士業の将来について考えてみました。
2019年12月18日時点で谷内田が考える、士業の未来です。
士業といっても僕は他士業のことまで深く考察できているわけではないので、大きく行政書士の未来という括りでお伝え出来ればと思います。

報酬の自由化

おおむねどの士業も2000年代に業務報酬の自由化が進んできました。
参考までに各士業の報酬が自由化された年を一覧化しておきます。
・弁護士⇒2004年
・弁理士⇒2001年
・司法書士⇒2003年
・税理士⇒2002年
・行政書士⇒2000年
・社会保険労務士⇒2002年
・土地家屋調査士⇒2003年

なぜ報酬が自由化されたのか

報酬額が自由化される前は、各士業について規定をした士業法の施行規則等に、報酬額基準表が記載されており、故に各士業者は各々の業務について、自由な報酬設定ができないとされておりました。
そんな中、公正取引委員会から、各士業のこれら報酬額基準表は、独占禁止法に抵触するという指摘が入りました。

このような経緯から、2000年代初頭に次々と報酬額基準が撤廃されることになりました。

報酬が撤廃された後の世界

例えば行政書士なら、1枚いくらみたいな基準があった訳ですが、これが撤廃されて、書類の枚数に関係なく、報酬額を設定できるようになりました。
とは言えこれまで自由な値決めをしたことの無い世界ですから、多くの事務所は従前の報酬額規定を参考にしながら値決めをしていました。

報酬額の自由設定=自由競争ですから、士業の人たちはお客さんを獲得するための方法論を考えるようになります。
士業の仕事というのは、法律を扱う仕事なので、他者との差別化や商品開発が難しいといわれています。
法律上決められた手続きを代行するというのは、一般的に外から見ればA事務所とB事務所の違いが見えにくいものです。
違いを認識するために一番わかりやすい指標が、数字=つまり報酬額です。
そこで、他者との差別化を図るために、士業の世界は価格競争に突入していきます。

今や多くの定型業務が価格破壊と言われるほどに報酬単価が下落しているのは、士業の方であればご存知の通りです。

価格競争の結果としての現在地

報酬額が自由化されて価格競争に突入し、多くの定型業務はその相場が下落していきました。
例えば、会社設立などは、0円でやりますと謳っている会計事務所等もあります。
もちろんこれはキャッシュポイントをずらした戦略なので、その後の顧問契約で回収するというものなのでしょうが、それでも、0円です。

行政書士業務でいえば、宅建業免許の新規申請を5万円以下の金額で受けているところもあります。
多くの事務所が取り扱っている業務であればあるほど、レッドオーシャン化して、価格競争に流れていく傾向にあります。

もちろん手続きを依頼するクライアントからすれば、良い品質のものが安く手に入れば文句ありません。
ですが、低単価商品を売って生活していくためには、件数をこなさなければならなくなるため、零細事務所が低単価で業務受注をしている場合は、どうしても業務品質が低下していくことになります。

ここでいう業務品質の低下は、書類作成のレベル、行政担当者との折衝、あるいはお客様への報告等について、雑になっていくということです。
それでも本来の目的(許認可の取得)が出来れば問題ないと考えるクライアントもいるでしょうが、往々にしてそのようなところは、許認可の取得についてもスムーズに進まなくなる可能性を含んでいます。

零細個人事務所が案件数を抱える=一人で処理できる能力値を超えてしまう=書類作成や手続が後回しになる=許認可取得までの時間が大幅に遅れる
という、考えてみれば当たり前の悪循環に陥っていくわけです。

士業法人化の流れ

多くの士業に言えることですが、現在の士業の世界は徐々に法人化、大規模化していく流れが出てきています。
法人の強みというのは言わずもがな、スタッフを抱えて、定型業務を分業化して、大量案件をこなすことができるということです。
もちろんそうではない、少数精鋭の傭兵集団みたいな法人もありますが、基本的には法人化=業務効率化=定型業務の大量消費です。

そして、これからもこの士業法人化・拡大化の流れは止まらないと、私は見ています。
単純な手続業務、定型業務というのは法人化した事務所が広告を打って獲得していくでしょうし、定型業務しかできない士業は、法人がM&Aして飲み込んでいく。
既にその兆しは出てきています。

高度複雑化した世界

2000年代から、インターネットか一般化して、今では1人1台とまではいかなくても、多くの人々がその手の中にスマートフォンを持っていることも当たり前の世界になりました。
また、世界的にも経済水準が上がってきていて、国境を越えた移動というのも珍しくない時代です。
個人が多様な価値観や多くの情報を発信して、それが受け入れられる空気感も生まれています。

こうした世の中の動きの中で、個人や企業が抱える問題というのは非常に高度複雑化しています。
特に、法律に基づく手続きというのはインターネット等の電子的な世界や、あるいは外国人による手続きというものを想定していないものもまだまだ多いため、時代に法律が追い付いていない、法律の制定当初では想定もしていなかったような事態が起きて、現在の法律では解決できない問題というのも多く生まれてきています。
今まで誰も経験したことの無いような、未知の課題について取り組まなければいけないという場面に、これから我々は多く出くわすことになるのです。

AIは士業にとっての脅威なのか

これもなんだか使い古された議論のようになってきましたが、AIの台頭で士業の仕事は無くなってしまうのか問題というのがあります。
これに関しては、AIが機械学習のできる部分については、当然無くなっていきます。
ただ、それは逆に言えば機械でもできる仕事が無くなっていくのだから、それは喜ばしいことだと思います。

思えばインターネットが出てきた時も、クラウドサービスが始まった時も、同じような議論があったと思います。
ではそれで人間がする仕事が全くなくなったかというと、未だに人が手作業でやっている部分というのは多く残っています。
結局のところ、AIは人間にとって対立する存在なのではなく、協力あるいは分担して、便利で豊かな生活を実現していくためのツールでしかないのです。
この認識を持っていれば、AIが士業にとっての脅威という発想はそもそも出てこないです。

定型業務はAIや大規模事務所に

これまでも述べてきていますが、機械や大規模事務所が得意なのは、そのルーティンワークです。
そして、そのルーティンワークを大量生産・消費していくことです。
大量生産・消費すればスケールメリットで当然価格も安くなっていきます。

機械的な、単純作業というのは、今後間違いなくAIや大規模な組織に吸収されていきます。
町中の零細事務所の職人が手間暇かけて、宅建業免許の申請書類を書き上げていくというのは、ゼロにはならないでしょうが、多くの人からは求められない作業になります。
誰がやっても変わらない作業であれば、安い方が良いでしょう。
個人零細事務所が単純な書類作業を安く請け負ってもデスマーチになるのは、先に述べたとおりです。

そうしたら、個人事務所は死んでいくしかないのか?
と思われるかもしれません。
その問いに対しての答えは、半分は不正解で、半分は正解です。

価値のない零細個人事務所は淘汰される

これもずっと述べてきているところですが、単純作業しかアウトプットのない零細個人事務所は、これから生き残っていくことはかなり難しいです。

向こうに依頼すれば1杯500円でラーメンが食べられるところを、ウチは1000円で出します。
中身は同じですが、その代わり、ブランドものの器に盛りつけて、国産天然ヒノキの箸を用意して、イスは北欧からのアンティーク製品を用意しています。

ほとんどのクライアントはそんなこと求めていないし、中身が同じならば、1杯500円のラーメンを普通に食べることが出来たら、それで満足なのです。
中身に差をつけることが出来ない零細個人事務所は、あと10年もしたら淘汰されていくことになるでしょう。

個人事務所は強い

一方で、個人事務所には大規模法人にはできない動きが可能です。
まず、労働時間の縛りがありません。
組織では、昨今の残業時間規制の流れで、働きたくても働けないという現状があります。
個人であれば、労働時間は裁量なので、自分が満足のいくまで仕事に取り組むことが出来ます。

ズバ抜けて能力が高い人間であれば別かもしれませんが、多くの人については、仕事に対して真剣に費やした時間が増えれば増えるだけ、その能力値が高まっていきます。
これを客観的なデータをもって立証しろと言われても難しいですが、私が知る限り、経験則的に間違いないということが出来ます。
QOLとかワークライフバランスとか、確かに大事なのですが、もし個人の能力値を高めていこうと思うのであれば、やはりある程度、時間を投資することが必要です。
時間を投資して個人の能力値を高めて何をするのか。
それは、誰にも負けない研究領域、専門領域を作るということです。

他の人には再現できない何かを身に着ける。
個人事務所が機械や大規模組織と差別化をするには、再現性が無いことをしていくしかない、というのが私個人の考えです。
再現性が無いからこそ、他者との差別化につながる。
そして、クライアントから選ばれる。

業務効率の悪いことはしない、ルーティン化する、再現性のあるものを実行していく。
世の中こういった流れがあり、私自身はこれを否定するつもりはないです。
もちろん無駄な動きやコストはカットした方が良いに決まっているし、仕組化できるものは仕組化して負担を減らしたい。
そう思うのは当然だと思います。
一方で、こういった効率化や仕組み化、再現性のあることというのは、結局のところ、機械や大規模組織が得意とすることなのです。
個人事務所がこの方向性に走れば、まず勝ち目はありません。

だからこそ、徹底的に時間をかけて専門性を高めて、自分独自の研究領域を持つことが必要なのです。

AIが台頭し、大規模組織が増えるのは、むしろ個人事務所にとっては喜ばしいことだと、考え方を変えるべきです。
なぜならば、誰でもできる仕事が無くなって、私にしかできない仕事に注力できるからです。
私にしかできない仕事が何なのかは、それはもう個人個人が頭をひねって必死に考えて、見つけて、作っていくしかありません。

私は士業の世界に飛び込んでまだ5年ちょっとですが、5年前に見えていた世界と、5年後の今の士業の世界、全く違っているといっても過言ではないです。
これが、5年後、10年後になれば、それこそ全く違う世界になっていることでしょう。
今から10年後に生き残れる士業になるために何ができるのか、それを真剣に探究していければと思います。

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