M&Aやグループジョインは、もっと自由であっていい
マネーフォワード取締役執行役員、マネーフォワードビジネスカンパニー COOの竹田です。
2021年12月1日、マネーフォワードは、社内向けAIチャットボット『HiTTO』を運営する株式会社HiTTOさんのグループジョインを発表しました。
はじめて『HiTTO』というサービスと会社を知った瞬間から、なぜか勝手にとてもご縁を感じ、「絶対にご一緒したい!」と思っていました。その夢が叶い、グループジョインというスタートを切れたことを、本当に嬉しく思っています。
今回のグループジョインは、マネーフォワードグループとしては5社目となります。
これまでのマネーフォワードのグループジョインを振り返ると、株式会社クラビス(2017年)、株式会社ナレッジラボ(2018年)、スマートキャンプ株式会社(2019年)、株式会社アール・アンド・エー・シー(2020年)と、毎年仲間入りしてくださる会社との縁に恵まれてきました。
私個人としては、2017年11月にクラビスの取締役として、マネーフォワードグループへジョインする立場を経験し、その後の4社については、マネーフォワードの取締役として、グループへ迎え入れる側として、関わってきました。
もっと遡ると、マクロミルの時代には、当時業界第一位だった自社と業界第二位だった会社のPMIも経験しました。そのときの話については、こちらをご覧ください。
一般的なM&Aで言えば、買われる側を一回、買う側を複数回経験していることになります。
今回は、そんな私がグループジョイン(M&A)を通じて感じたことをお伝えします。
クラビスとして、マネーフォワードにジョインした決め手
2017年、私は株式会社クラビス取締役として、マネーフォワードにグループジョインしました。
クラビスは、代表取締役CEOの菅藤さんが2012年に創業し、「STREAMED」という会計事務所向けの自動記帳サービスを展開している会社で、私は2016年から経営に携わっていました。
当時クラビスでは、独立会社として資金調達しながら進んでいく方向以外に、業務資本提携の方向も検討していて、実際いくつかの企業からお声もいただいていました。
様々な選択肢の中で、最終的にマネーフォワードにグループジョインする決定をしたのは、一言でいえば、「実現したいミッション、ビジョンや目指す方向が同じだと思った」からです。
当時の「STREAMED」は、数は多くはなかったものの、素晴らしい会計事務所様からご評価をいただけるようになり、徐々に認知も高まっている状況で、ありがたいことに複数の会計ベンダーから、業務提携のお話を頂いていました。一般的に考えれば、弱小スタートアップが今後の販路を拡大していくためには、市場シェアを大きくとっている「王者」と組むことが勝ち筋です。
しかし、結果的に私たちはマネーフォワードにグループジョインする道を選びました。一番大事なのは、いまの資産の大きさよりも、描く未来の資産を手に入れられる具現化力なのではないか、と思ったからです。
グループジョインは、買った会社と買われた会社の連携ではなく、まったく新しい会社をつくるということ
マネーフォワードグループにジョインして、最初に思ったのは、「マネーフォワードがうまくいかないと、クラビスもうまくいかない」ということでした。
というのも、当時、マネーフォワードの事業推進本部(全国の会計事務所と共に企業のDXを推進する組織)が少し苦しい状況になっていたのです。一般的にも、マザーズ上場を経た一区切りと捉えがちなタイミングで、退職が相次いでいたり、事業のフェーズと目標設定にズレが生じていたり、また世の中的なクラウド会計に対する反響も、一時的な踊り場のような様相もあるなど、あまりいい状態ではありませんでした。
この状態でただ待っていても、理想のシナリオは実現できないと感じ、まずはマネーフォワードを元気にするために、菅藤さんと共にマネーフォワードの課題に向き合うことにしました。
当時を振り返って改めて思うのは、「会社と会社が連携しながら考えるのではなく、完全に一体となって考える」のが大事だということです。
たとえば、A社とB社が一緒になった時、A社としてB社の業績向上を、B社としてA社の価値向上を考えるのが一般的だと思うのですが、そうではなくて、全く新しいC社ができたと考えるべきなんです。そうすると、AもBも関係なく、Cがうまくいくためにはどうすべきなんだろうという当事者意識の発想になります。
菅藤さんも私も、過去に一度統合の経験があったので、まったく新しい会社という観点で判断をするという勘所はある程度分かっていました。
そしてそのとき、マネーフォワードからも、君島さん(現クラビス取締役)と、山田さん(現マネーフォワードビジネスカンパニー CSO)がクラビスとのPMI担当として参加して下さっているのですが、二人も全く同じ考えでした。
特に以前からその領域の業務に関心があった君島さんは、STREAMEDをマネーフォワードの事業推進のメンバーが提案できるようになるためにはどうしたらいいのかを徹底的に考えていました。率先してセミナーを企画して登壇したり、誰よりもSTREAMEDのことに詳しくなろうとしていました。そして山田さんもその動きを大いにバックアップしてくれました。
君島さんも山田さんも、グループとして全体を考えたときに、いま必要としているお客様がたくさんいるSTREAMEDをきちんとご提案できる体制作りが、一番の注力ポイントだと判断した結果の動きだったんだと思います。
同じグループ会社になった上で、全体を見渡した時に何のレバーを引けば一番効果が高まるのか、どうすれば全体がうまくいくのかをシンプルに考える、それこそが、グループジョインがうまくいく正攻法なのだと思います。
信頼関係は交渉過程から
クラビスの後、マネーフォワードとしては4社のグループジョインを経験したわけですが、いずれのケースでも痛感したのは、信頼関係構築は交渉過程にポイントがあるということです。
M&Aの交渉過程には、当然価格の交渉もあります。買う側はなるべく安く、売る側はなるべく高く売買しようとするものなので、時には緊張感漂う雰囲気になることもあります。過去に私が経験した中でも、話し合いは終始穏やかだったのに、出された契約書はめちゃくちゃ厳しい条件が並んでいる、なんてこともありました(笑)
また、最終交渉は社長同士のみ密室で実施し、現場である程度詰めた条件がいちいち反映されずに時間ばかりかかったりするケースもあります。
その点、私がグループジョインの交渉をした際のマネーフォワードは、交渉に必要な経営陣はどんなに忙しくても、必ず出席しますし、必要とあらば柔軟に情報の共有範囲をコントロールして現場のメンバーが同席することもありました。
予定時間内に話が終わらない時も、できるだけその場で調整して、可能な場合は当日のうちに続きのMTGが行われたこともありました。スピード感を持って、とことん向き合うスタンスだったのです。
また、マネーフォワード側から「ウチの発展のためにこうして欲しい」という要求はなく、「一緒になったら、(クラビスが)これくらい良くなったり、伸ばせるんじゃないか」という話が中心でした。
ジョインしてから知ったことですが、マネーフォワードには、カルチャーの一つに「Respect(感謝と尊敬を忘れずに、誰に対しても誠実であり続けよう。)」を掲げています。交渉過程でも、まさにこの相手への「Respect」が前提にあったんだなと感じました。
このように交渉の過程から、信頼関係を構築できているからこそ、PMIのフェーズがスムーズにいくのだと感じています。
HiTTOさんジョインへの期待
今回のHiTTOさんのグループジョインに際しては、私も交渉段階で代表取締役 Co-CEOの五十嵐さん、木村さんとお話をさせていただきましたが、最初に直感的に感じたご縁を改めて確信する機会になりました。
こうして、木村さん、五十嵐さんが経営の仲間に入ってくださったこと、優秀な仲間がどんどん増えることを非常に嬉しく思っています。マンガの「ワンピース」じゃないですが、また1人、また1人と強力な仲間が増えていく感覚です(笑)。
プロダクトとしてのシナジーで言うと、まずは当社のHRソリューションのユーザーさんに感動いただける機能拡充ができるのではないかとワクワクしています。
給与・勤怠・人事管理といったサービスに、HiTTOのチャットボットが連携すれば、従業員の体験を劇的に高めることができますし、人事労務担当の方からすると、社員からの問合せを自動化することで仕事の質を高められるはずです。
HiTTOという強力なプロダクトが加わったことで、私たちが提供しているプロダクトの価値をさらに大きく高められる可能性を感じています。
グループジョインの経緯や、『HiTTO』のご紹介については、山田さんがnoteを書いていますので、ご覧ください。
また、HiTTOの五十嵐さんも、今回のグループジョンに際しての熱い思いを綴っていますので、是非ご覧ください。
グループジョインとその先の未来
国内SaaS市場は年平均成長率約13%の成長を維持しており、2025年には約1兆4,607億円と、2020年度比約2倍へ成長する見通しと言われています。(スマートキャンプ株式会社「SaaS業界レポート2021」より)
当社が提供する「マネーフォワード クラウド」は、特定の部門や機能に特化した「Horizontal SaaS」ですが、特定の業界に特化した「Vertical SaaS」も続々と新しいプロダクトが誕生しています。
たくさんのSaaSスタートアップが出てきていますが、本当の意味で世の中をアップデートしていこうと思ったら、単体のサービスだとどこかで頭打ちになったり、成長曲線が寝て来たりするタイミングがきます。
すると、ほかのSaaSと連携してより複合的に課題解決をしようとしていくとか、貴重なデータを複合的に活用して新しいプラットフォーム事業を展開するとか、そういった連携が随所で起こるはずです。
そういう意味では、いまライバルだったりするSaaSプロダクトも、人々の暮らしを良くしようという目的のためには、「仲間」と捉え、なんなら一緒になっていった方が目的を達成することができそうだと考えることもできます。
いまは、切磋琢磨する相手だったとしても、より日本や世界をアップデートするためには、どこかのタイミングで手を組んでいく方がその実現ができるのではないか。
一昔前までは、M&A/買収/グループ傘下に入るといったことは、「負けた」とか「身売り」というネガティブな言葉で捉えられることの多い事象でした。
しかし今は、「M&A」というのは会社のミッションやビジョンを実現するための一つの手段なのではないかと思います。
この先の未来、シンプルに世の中をアップデートするための手段として、M&A/グループジョインといった手法により、様々なSaaSと連携しながら一緒にやっていくことは、もっと自由であっていいし、あるべきなのではないでしょうか。
今後も、人を、企業を、社会をフォワードしていくために、あらゆる手段を検討しながら、たくさんの仲間とチーム一丸となって、前に進めていきたいと思います。