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『なつかしの味』

私の母方の田舎は福島県の須賀川にあった。子供の頃、夏休みになると毎年田舎に帰り、近所の友達とカブトムシを捕まえたり、公園のプールで水遊びを楽しんだり、かくれんぼをして遊びまくった。あの頃の夏は、今でも鮮明に覚えているくらいに猛暑だった。上半身裸で駆け回り、真っ黒に日焼けして、肌がひりひりした。時折、水風呂で涼を取ることもあった。

ある日、扇風機の前でドラえもんの第3巻を読んでいると、野菜売りのおばあちゃんが現れた。「ごめんなはんしょ」と言いながら、玄関に野菜を並べ始めた。うちのばあちゃんが奥の部屋から出てきて、「今日は何があんだい?」と声をかけた。私は興味津々で、並べられた野菜を見つめた。真っ赤なトマト、キュウリ、ナス、キャベツなどが美しく陳列されていた。特に目を引いたのは、黄色ではなく、白や紫、黒い粒が多彩に並ぶトウモロコシだった。トウモロコシが大好きな私は、ばあちゃんにおねだりして、この特別なトウモロコシを手に入れた。うれしくて、しばらくちゃぶ台の上で転がしながら眺めていた。

その夜、夕食には鰹のたたき、炒めたナス、そして色とりどりのトウモロコシが並んだ。初めて口にしたこの特別なトウモロコシは、甘さは控えめだが、もちもちとした食感と濃厚な風味が特徴的で、一口食べただけで感動した。「ばあちゃん、このトウモロコシうまいね!」と言うと、ばあちゃんは「んだ、もちトウモロコシってゆんだぁ」と教えてくれた。

今では、スーパーで手に入るトウモロコシはほとんどが甘い品種だ。夏が訪れるたびに、その特別なトウモロコシと野菜売りのおばあちゃんの思い出がよみがえる。もう口にすることはできないかと思うと、その味への恋慕が募るばかりだ。

この話を書きながら、ふとインターネットで「もちトウモロコシ」を検索してみると、なんとっ!オンラインで販売されているではないか!これは中国が発祥の特別な品種で、甘さは控えめだが、もちもちとした食感が特徴で、満足度が高いとのことだ。特定の農家が栽培し、ブランド名は「もちもち太郎バイカラー」と新旧入り混じった変な名前になっている。しかし写真を見る限り、外観は当時のままだ。50年以上の歳月を経て、復活した「もちトウモロコシ」。名前は変でもその特別な味わいは変わらないことだろう。今から再会を楽しみにしている。まってるぞ、もちもち太郎バイカラー!


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