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プライバシーとデータ利活用を両立する「分散型IoTプラットフォーム」開発者と語るデータ活用の未来について

先日プレスリリースさせていただいた「分散型IoTプラットフォーム」に関するオンラインイベントを開催しました。当日のイベントには、行政、ITベンダー、医療機器・精密機器・コンシューマー向け機器などのメーカー様にご参加いただき、分散型IoTプラットフォームのデモを紹介しながら、今回の取り組み内容について説明させていただきました。

今回のイベントでは、パネルディスカッション内容が特に面白かったので、一部抜粋して紹介させていただきます。イベントのフルバージョンは下の動画からご覧いただけます。

パネルディスカッション

パネリスト
・CollaboGate Japan株式会社 CEO 三井
・テセラ・テクノロジー株式会社 事業推進室室長 小山
・ルネサス エレクトロニクス株式会社 IoT・インフラ事業本部 前村
ファシリテート
・CollaboGate Japan株式会社 COO 内田

内田「さっそくですが、今回ご紹介した「分散型IoTプラットフォーム」が変えていく未来についてパネリストの皆さんと議論したいと思います。それぞれの目線で、「分散型IoTプラットフォーム」が普及していく2025年、2030年はどのような未来になっていると考えていますか?それでは、前村さんからお聞きできますでしょうか?」
前村「そうですね。今回のデモでいうと、搭乗ゲートにあたる検証側のIoT機器の部分、あるいはユーザーのスマホ、証明書を発行する側の末端には、何かしらIoT機器が登場するようになると思っています。先程の事例でいうと、ワクチンを摂取した瞬間に証明書が発行されるような未来になっていくと思います。私は、コラボゲートさんの掲げている「なめらかな」という部分が好きで、そういう世界を作るために、あらゆる末端にIoT機器が実装されていくんじゃないかと思う。2025年の近未来のイメージとしては、そうしたIoT機器がいろんな生活に普及していく。その中で「分散」「自律」がキーワードとしてあります。実際にIoT機器の間では、データのやり取りが裏で行われています。たくさんの自律したIoT機器の間を流れるデータが自律的に流通することで、データが主役となり、さまざまな新しいサービスが誕生していくのが2030年ごとの未来ではないかと考えています。
内田:自律分散的にデータが流通するとはどういった世界なのかパッとイメージしにくいと思うんですが、三井さんから具体的なイメージを教えてもらえますか?
三井:インターネット空間から考えると、人もマシンもモノには差がないと思います。どれも識別子を持った一つのピアだと考えると、とてもイメージしやすいはずで、僕らはスマホのアプリからデータを取引して、何かしらのサービスを享受しています。これがIoT機器の場合も、データを取引して、自律的にゲートが開くなどの事前にプログラムされた動く仕組みがあると考えられます。なので、自動販売機のような機器が街中に広がっていくイメージを持っています。事前にプログラムされた自律的に動く機器が街中にあふれていくようになると思います。プログラムされた機器が街中にあふれている世界を考えた時に、これらのデータを中央に集めて管理していくことが現実的ではない。なのでピアとピアが自律分散的にデータ交換できるような新しい仕組みや規格が必要になると考えています。
内田:120円を入れると飲み物が出てくるような機器が街中に溢れているような世界ですね。自動販売機化する街を作る上で、テセラ・テクノロジーさんの視点からは、IoT機器やソフトウェアとしてどんなブレイクスルーが必要でしょうか?
小山:実際、データ量が増えていくことは間違いないと思います。そのなかで、データをセントライズすることで、利用者の安心・安全の面での破綻が生まれてしまいます。なのでこのデータ処理に関する安心・安全を担保していかなといけないという点が大きな視点としてはあります。

データやネットワークの他に、それぞれ個性のあるIoT機能の実装が必要になってきます。例えば、ルネサスさんのMCUを使ってベースとなるものはできるが、ここに付加価値を付けなければお客様の機器としての意味があまり生まれないと考えています。付加価値を実現する上で、テセラ・テクノロジーのような小回りのきく、技術で対応できる会社が貢献できると考えます。

なにがブレークスルーかと問われると、無線機能やさまざまなチップなどの手足をうまく使っていくようなインテグレーションが価値を生み出す。分散型IDやデータ取引の仕組みをうまく統合して実装していくことに出番があると考えています。アーキテクチャーの面ではコラボゲートさん、ベースのIoT基盤の面ではルネサスさんと協力することで、新しい価値を生み出せると考えています。
三井:面白いですね。小山さんは以前、物流の領域での相性がいいのではとおっしゃっていましたが、もう少し詳しく教えていただけますか?
小山:そうですね。例えば、物流の世界だと、モノのトレーサビリティを確保しつつ、安心・安全を担保するという意味で、モノと機械が自律分散的にデータ取引する意味が出てくると思います。モノ自体にデータがくっついおり、改竄されていないという意味で安心・安全を担保できるような仕組みが、この分散型IDの非常に相性がいいケースだと感じています。
内田:ありがとうございます。自動販売機のような自律的な機器が増えていく中で、ルネサス視点でのMCU事業としての挑戦はありますでしょうか?
前村:数のイメージを共有しておくと、IoT機器は現時点でも世界で100億のオーダーで存在しています。2025年までに500億、2030年までには1兆個まで増えていく。人口の増え方よりもはるかに大きな増え方です。さらに機械なので、人間がやり取りするよりもはるかに多くの頻度でデータを取引することになる。その中で、半導体に求められるものは、半導体の中で処理できるものに関しては中で処理すること。いまは半導体の中でも機械学習やAI処理できる製品を準備している。三井さんの話にあったプライバシー情報は半導体の中で処理して、できれば外に出さないような仕組みが応用として求められていくと考えています。
小山:そうですね。端末側に処理機能が入ってくるのはすごいことで、かつ安価になる方向だと思う。いろんな機能がはいってくると、使いこなすことが難しくなってくる。このような状況の中で、分散型IDの仕組みをみんなが使えて簡単に統合できるような仕組みを提供することが重要になってくると思う。
三井:とても面白いですね。Edge Computingの文脈では、シリコンバレーの投資家として著名なアンドリーセン・ホロウィッツのPeterさんが、過去15-20年サイクルでコンピュテーションモデルが変わってきていることを説明されていたことを思い出します。2000年前後はクラウド化。クラウドの波に乗れない企業は衰退していった。2020年から20年は知性がエッジ側に移行する。すでに僕らのポケットにはスパコンが入っていて、1兆個のIoT機器が生活に普及していく時代に、知性をエッジに持たせないと計算処理が追いつかなくなる。このコンピュテーションのモデルが変わっていくという技術トレンドを読み込まないと、経営的な意思決定を誤ることになると考えています。エッジコンピューティングと分散型IDとデータ処理に関するこの議論は、まさに1990年代後半にクラウドについて議論をしていた状況と似ていると思います。非常に刺激的ですね。
内田:知性がエッジにシフトしていくトレンドは加速していきそうですね。将来1兆個のデバイスがインターネットにつながりデータ取引する世界で、消費者が便利な生活を享受するために欠けている重要なミッシングリンクとはなんでしょうか?三井さんどうですか?
三井:そうですね。物流だと、サプライチェーンの工程ごとにシステムがつくられて、デジタルIDやデータが分断してしまうという問題がよく起こります。同じ工程で区切ってもブランドごとに導入するシステムが異なるとこうしたデータの分断が発生してしまいます。これは、モノやマシンが自己主権的にデジタルIDを管理する次世代型WEBを前提にマーケット構造やグランドデザインを構築していないことで生まれている歪みとも言えます。この歪みは物流だけではなく、スマートシティやデジタルガバメントに取り組む企業に共通しているイシューです。こうした課題と一つ一つ向かいながら、同時に、オープンでグローバルなインフラとしての仕組みを実装することがとても重要な仕事だと感じています。なのでCGの目線では、グローバルでオープンなデジタルID基盤が、最大のミッシングリンクだと捉えています。
小山:今回の取り組みでは、Decentralizedが一番のキーワードとして重要だと感じています。いまは中央集権的にもつなげていくことができると思うが、その方法では、セキュリティやプライバシーの観点で限界があります。このデータリスクの問題を解消できないことに気がついている方とそうではない方がたくさんいる。ここにはやく辿り着けるかが一つのマイルストーンだと思います。今回の協業をベースに、プラットフォームとしてのオープン化を進めて、知見とセットで広げていくことが重要だと思います。
三井:その通りだと思います。一方で、IoT機器としてテクノロジーのチャレンジ(ミッシングリンク)はありますか?
前村:「分散化・オープン化」と、もともとのIoT機器としての組み込み機器として問われている問題は分けた方がいいと思います。オープン化という文脈では、競争領域と協調領域を明確に定義するべき。協調領域ではみんなでオープンに一緒に取り組みましょうというもの。まさに分散型IDの理念とフィットする取り組みで、これを広げていくことが、スムーズにつながる世の中の土台となると考えている。この中でIoT機器に求められる機能としてはどうやって信頼を担保するかという点に尽きると考えているRoot of TrustをIoT機器としてどのように担保するのか)。これまで話題には上がっているが、半導体メーカーとしての機器メーカーとしてもなかなか踏み込んで取り組めていない状況がある。これを今回の取り組みをきっかけに、同じ方向を向いて取り組めていければと考えている。これまではクラウド側でセキュリティ技術が成長してきましたが、今後エッジ側が主役になる世界では、エッジデバイスでのセキュリティ機能が求められます。
小山:こうしたセキュリティや高度化していく機能に対して、低消費電力を抑えるハードやソフトウェアの設計が基本のキになっていきますね。
三井:ありがとうございます。Root of Trustの議論に加えて、マーケット視点ではIoT機器のプライバシー保護も大きな問題になっています。Amazon Ringなどの家庭用カメラは監視カメラのデータを警察に共有していることで大きな批判を集めており、このようにプライバシーに配慮したデータの処理方法を事前に設計しないと、販売数にも直接的に影響している事例が出てきています。
内田:プライバシーに関する問題も、クラウドの時代には同意を広範に取り付けることで解消してきましたが、同意の十分性など観点で疑問視され始めていますね。ある意味、このプライバシー保護の圧力も、知性がエッジに移行するドライバーとして働いていると思います。

一方で、本日で話しているような先端テクノロジーと一般消費者の間にはまだまだ距離があると思います。ルネサスさんのようなインフラを担う立場だと、どのような情報のインプットがあると、今後の仕様設計などに活かしていけるでしょうか?
前村:ルネサスは、サプライチェーンの中でも川上、市場から一番遠い位置にいます。これまで市場ニーズの変化を直接取り入れるということはできていませんでした。しかし、市場が変わることを待っていると、アクションが遅れてしまいます。さまざまなレイヤーのプレイヤーとオープンに一緒に取り組んでいく必要があると感じています。その方法を探すという意味でも、今回のコラボレーションを通じて、答えを探していきたいと考えています。
内田:ありがとうございます。さまざまなプレイヤーということで、どんな人たちが、ステークホルダーとなることで、安全でなめらかなデータ流通基盤をつくっていくことができるでしょうか?2030年から今を振り返った時に、ステークホルダーのみなさんと一緒にいま解決するべき課題や共有するべきことはなんでしょうか?
三井:愛ですね。。。愛が必要だと思っています。自分たちの子供や後世に残したい社会基盤を考えた時に、超自然的に、監視・コントロールされる世界を望まない方が多いと思っています。SDGsやESGのような指標がたくさん出てきていますが、もっとシンプルに内発的な動機で考えてみてもいいと思っている。すでに僕らの生活は豊かで、日本に住んでいて困ることがない。より良い社会ってなんだということをたまに考える。自分の場合は、半径5mの人が幸せになるサービスやあるいは社会構造について考えることが多い。これはなんというか、愛を前提に考えるってことだと思います。
前村:半径5mというキーワード。どこから取り組むか、同じ愛や考えを持っている人たち取り組める単位で取り組むことがとても大事。昔からスマートシティのようなものがなかなか前に進まないのは、同じ想いを持った当事者同士が見えない大きな単位でことが取り組んでいることが原因じゃないかと思っている。顔が見える街の単位や隣近所でやってみるところからスタートするのがいいと思う。電力の融通でいうと、隣近所から電力を融通できるということから始めてみる。同じ想いを前提にしているので、トラブルなく進めていきやすいと考えている。技術のいいところはこれをスケールすることが、やりやすい。小さな単位でスタートしてこれがフラクタルに拡大していくイメージ。結果的に国や地球を纏うと、幸せな地球ができると思う。
小山:テセラ・テクノロジーとしても電力の領域に取り組んでいる。前村さんのお話にもある通り、いきなり大きな単位で取り組むのではなく、小さなコミュニティから取り組んでいくことが今やるべきことだと考えています。かつ、分散型IDなどのアーキテクチャーを考えた上で、小さなコミュニティから取り組むことでスケールすることがとても大事な考え方だと思います。
三井:おっしゃる通りだと思います。実際に、物流領域での取り組みの中で、実際に倉庫を単位とする、顔が見えるプレイヤーを前提に議論するとたくさんアイデアが生まれます。これがグローバルSCMだと、なかなか具体的なアイデアが出てこないし、プロジェクトを前に進めることが難しくなります。取り組める良いサイズに落として進めていくことがとても大事ですね。

質疑応答

Q: 顔の見える範囲で取り組みを切り出す。これをスケール・横展開するために必要なことは?

三井:データを保有することの経済合理性を考えていくと、ほんとうに個人情報を一箇所に集めることが正しのか?氏名や顔写真を保有することが競争優位性になるケースがあるだろうか?Data is gold、データをかき集めることが優位性につながるというバイアスを外して、一度自分の頭で考えてみてみる。どのようにデータを活用するとユーザーに付加価値を提供できるか?そのためにほんとうに個人情報は必要なのか?考えてみることが大事だと思う。先の顔が見える取り組みの大きさと、スケールした際の経済合理性の両面から検討していくことがとても重要だと考えている。
小山:そうですね。スケールするという文脈だとオープン化というキーワードが戻ってくると思います。

Q: 分散型IDと金融サービスの関係についてお聞きしたいです

三井:ありがとうございます。時間がないので端的に。金融領域では、KYCが一つデータアセットの利活用が二つ目です。身近な銀行でいいますと、銀行1行あたりAML/CFTに対応するためのKYC/CDDのコストが年間60億円、日本全体で3兆円くらいのコスト規模感です。消費者が自身の証明情報を持ち運び、誰もがその証明情報を検証できるようにすることで、この検証コスト規模をかなり圧縮できるのではないかと考えています。二つ目にデータアセットの利活用です。例えば地方銀行にはかなりリッチな住民のデータが集まっています。しかし、この個人情報を消費者に還元する形でうまく利活用することが難しいという側面があります。この二つの問題はいずれも個人を中心としたデータ還流の基盤をつくることで解決できると考えています。こちら金融と今回のテーマとなっているIoT機器との関係でなにかございますか?
前村:金融はどちらかというとデジタルに閉じていくような流れですので、無理矢理、IoT機器に紐づけると、ブロックチェーンの世界でのトークンエコノミーがあると思います。IoT機器がお財布をもって自律的に決済する世界があると思います。一度中央に預けるのではなくて機器同士が直接価値を交換する未来があると思います。高速にやりとりできるようになる。この機器を介したマイクロペイメントの世界線において、分散型IDは信頼の起点になると思います。
三井:最近流行りのNFTの世界でもそのデジタルコンテンツを保有している本人確認性が問題になっています。現実世界で広がっていくには信頼の再構築が必要になると考えています。
内田:パネリストの皆様ありがとうございました。本イベント終了のお時間も近づいて参りました。ぜひテクニカルな質問やビジネス的な取り組みについてより詳しく議論した方はこの後のネットワーキングイベントにもご参加ください。それでは皆様本日はお時間をいただきありがとうございました。

まとめ

IoT機器の普及シナリオから、時代に強く求められていく分散型IDとデジタルな信頼について、IoT機器として求められるRoot of Trustとエッジの知性化について、ビジネスとして顔が見える大きさでの取り組みや内発的動機となる愛について、バラエティに富みながらも非常に深い議論になったと思います。

今回紹介した内容に関心をお持ちいただいた方、ぜひ気軽にお話させてください(下記のプロダクト・ページからお問い合わせできます)!


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