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茶香炉のご縁

前回はパリと香りのお話しをさせて頂いたが、今回はお江戸の緩やかで温かな縁のお話しを。

GEN GEN AN幻をスタートさせる時に、どうしても店に置きたかったものがあった。

それは、オリジナルの「茶香炉」と「ガチャガチャ」である。

事業をスタートする時に、皆さんなら先ず、そんなものは置かないと言われるだろうが、何となく置かなければならないという変な使命感が湧いて、そこは仲間達にも容認してもらった。
結果的に、それが今の色々な取り組みには欠かせない、お茶と香りという二つの要素へと育ってくれて、この場を借りて、内心ホッとしていることを打ち明けておく。

さて、香りの話しへと繋がる大きな要素となる「茶香炉」だが、実は、そこまで古くは無いと思えるその道具は、今では和の飲食店などで目にする機会が少なくなっている。

では何故? 渋谷の街の茶屋に、どうしてもこの道具が必要だったのか。
正直なところ、完全なノリであった。
一昔前の茶屋の店先から漂う茶葉を焙じた香りが、日本有数のKHAOSな街に漂ったら面白いのでは?という流れでの思いつきではあったが、不思議とどうしても必要だと仲間たちに力説していた自分がいた。

今思えば、茶と香りの親和性や、MABOROSHIへと繋がる縁や関心を無意識に感じ取っていたのだと思う。
気付けば、クリエーターやアーティストに茶香炉を少しづつだが、愛用品として求めてもらっていた。海外の方には、「重いから今度にしましょう」と、こちらが提案しても、「手荷物にしてでも持って帰りたい」と、何人もの方に同じ事を言われた。

自分は元来”茶の専門家”では無い。ただ、お茶を通して生まれる豊かな間と、その本質に対しての探究心は、自分でも度が過ぎているなとは感じている。

しかし、結果的にこの茶香炉から漂う香りこそが、正にそれを象徴する存在であった。
そして、人生の最も大切な出会いの一人となる表現者との巡り合いも、この茶香炉がもたらし、育んでくれた。

彼とは不思議な縁ではあるが、自分を生かすことの意味をその都度気付かせて貰える存在であり、この数年の中で自分の変化や、新たに縁を頂いた素晴らしい友人たちをも、もたらしてくれた。

2019年の秋に、パリで他の表現者たちと共に過ごす機会を得た自分は、ここでもそれまでのパリとは一味違う経験を数多く得た。

滞在の終盤、オランジュリー美術館を後にして、エッフェル塔を間近にセーヌ河畔を散歩していた時、たわいも無い会話の中で「何か一緒にするなら”香り”が良いよね」と、ひとこと言った。

自分が「香りとお茶の味わい」を話し、彼は「香りと音楽」を話して、共に香りの魅力との親和性に惹かれていた。それは互いに未知の世界ではあったけれども、茶香炉がきっかけで生まれた対話であった。

こうして、約10年のパリとの出会いの中でぐるっと一回りして、多くのプロフェッショナルたちの”辻”として、香りのプロジェクトMABOROSHIはスタートしたのである。

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