まるとしかくという本屋を作ったら名前の由来をたくさん聞かれた話。
徳島県美馬市という、人口約27,000人の町の、町の中心地から山を少し上がった先にある、築100年の古民家に「まるとしかく」という泊まれる本屋をオープンしました。
2023年1月の終わりにオープンしてから約1年。
「まるとしかくってどういう意味なの?」という質問は、「なんで徳島なの?」と同率1位くらいの頻度で聞かれます。
それならいつかちゃんと文章にしてみよう、と思ってはいたものの、そうそうにお店がやっていけなくなったらとんでもなくダサいので、様子を見ること1年。
なんとかやっていけそうなので、書いてみます。
ところで私の名前は「未来」といいます。未来と書いて「みく」と読みます。
私が子どもの頃は、まだまだ珍しい名前で、まず初見で正しく呼んでもらえたことはありません。
毎度毎度、「みらい」か「みき」のどちらかで呼ばれて、その度に「あ、いえ、みくと読みます」と訂正します。
これが名前を読まれる度に起こるので、大げさでなくこれまでの人生で1000回は訂正してきたと思います。
りょうこちゃんとか、かなちゃんとか、あゆみちゃんとか。
幼馴染はかわいくて、決して初見でもたつかせない名前をお持ちだったので、なんで私はみくなんだと。
大人になり、いい名前だね、と言われることも時々。
そうなのかなぁ、社交辞令かなぁと思いつつ、「ありがとうございます(張り付いた笑顔)」までがセットになっていきました。
褒め言葉だということは分かるけど、それまで私がこの名前とともにあった思い出を振り返ると、まっすぐ返せない。
40代に差し掛かろうというある日、様々なタイミングが重なり、徳島に移住、さらにゲストハウスと本屋をオープンすることになりました。
徳島には知り合いも親戚もいない。会う人みんな初めまして。
こんなに知らない人ばかりの環境に身を置くこともなかなかないわけで、
一生分の自己紹介をしたんじゃないかなというくらい、ペコペコして、自分のことを一生懸命喋る日々が続きました。
そんな中でふと、気づいたことがありました。
今日は自己紹介がうまくいったぞ、という日と、そうでない日があることに。
その違いはなんだろう?ともう少しかみ砕いて考えてみると、
自分の名前を堂々と言えている日とそうでない日
と言い換えることもできそうだなと。
堂々と相手を見て、
「内田未来です!よろしくお願いします!」
と言えている日は、前を向いていて、私やれる!と思っていて、いわば希望を見ている精神状態のとき。
でももちろん、自信がなくなっていたり、今日は家に引きこもっていたい、という日もあります。
そういう日は何かが喉に引っかかる感じで、「あ、内田です。こんにちは。」などと言ってなるべくそそくさとその場を去る。
「未来(みらい)」という言葉そのものにはポジティブな意味はないものの、どこか前を向いていて、背筋はピッと伸びている印象、を与える気がしませんか。
その言葉のイメージに負けてしまうときは、わざと名乗らないようにしているのかもしれない、と。
ということは、もしかして、名前ってバロメーターになる?
電撃が走ったような気づきでした。
うわ、名前ってツールなんだ、
一生付き合うものだから、体の(心の)一部として機能してくれたらめちゃくちゃ心強いんじゃない?
こんな風にずっと助けてくれていたんだ。
その瞬間、ずっと気後れがあった自分の名前に初めて感謝の気持ちが生まれ、添い遂げる覚悟ができました。
それ以来、名乗るときに、私はちゃんと未来です、と言えているか、その時どんな声の張りで、トーンで、表情で、心持ちで、いるかを確認するようになりました。
名乗りたくない日が続くときは要注意。堂々とできているときはいい調子。
40年も経って、やっと一心同体になれただけでなく、
名前は親からのプレゼントと言うけど、その通りだった、と感謝の気持ちがわいてきました。
そんないきさつがあり、自分のお店や会社を作るときには、
何か揺らぐことがあっても、必ず立ち戻れる「ツール」として機能してくれる名前がいいと思っていました。
やりたいことをやっていたとしても、絶対にどこかで揺らぐ瞬間はやってくる。
それは事業がうまくいかなくて、安直な決断をしそうになる瞬間であったり、大変だからと楽をしようとする瞬間であったり、
もうやめたいと心折れる瞬間であったり。
絶対にやってくる。
2週間後かもしれないし、3年後かもしれない。
もう大丈夫だと安心した15年後かもしれない。
そういうときに本来の場所に立ち戻らせてくれる名前だったら、いいかもしれない。
名前は自分で名乗るだけじゃなくて、人に呼んでもらえるものでもある。
そうだったそうだった、ちょっとブレちゃっていたな、軌道修正しよう、と思い起こさせてくれる名前ならば、すごく心強い。
・・・と、そこまでは思い至ったものの、
肝心のその名前が思いつかない。
一生懸命頭をひねってみるも、クソダサイ名前しか出てこない。(もう思い出せないけど、全部クソダサかったです、ほんと)
もうお店をオープンする日は迫っている。
やばい。
あーもー本当は自分で考えた愛着ある名前がよかったけど、
お金を払ってプロに頼むかぁ、餅は餅屋かぁ、
と思ったその矢先、
朝起き抜けにふいに、
「まるとしかく」
という言葉が浮かびました。
ぞくーっとしました。
それだ。
もともと私は、本屋を開業する予定は全くありませんでした。
本も本屋さんも大好きだったけど、=自分がやる、という構図にはならず。
とても敷居が高く、選ばれし者だけが足を踏み入れられる領域だと思っていたからです。
(それは今も思っている)
だけどどんな事業をやろうとも、決めていたことがありました。
それは、そこからちゃんと「循環」を生む、ということです。
➡長いので続く。
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