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小売トレンド:昨年の調達額トップ領域はロールアップ型EC?市場動向と今後の動き

i-nest capitalの濱吉です。

最近、EC業界でロールアップ型ECといった言葉を聞くことが増えてきた印象で、タイトルにもなっている通り、2021年にロールアップ型EC領域で調達された資金は120億ドル以上(VC、PE、機関投資家などから)とも言われており、今後もこの流れは続いていくと思われます。そこで、今回はロールアップ型ECの市場動向と今後の動きについて書いていこうと思います。

小売トレンド(今回):ロールアップ型ECの市場動向と今後の動き
小売トレンド(次回予定):ECインフラ領域の個別企業事例、投資、買収動向

ロールアップ型ECとは何か

ロールアップ型ECとは、AmazonをはじめとするECマーケットプレイス上で事業を展開するサードパーティを買収し、経営管理や販売ノウハウを提供することによって、さらに売り上げをあげ、利益を得るモデルを展開する事業モデル。
例えば、有名どころだと、ロールアップ型ECの先駆けとなったThrasio(現在約200のブランドを買収)や、ビジョンファンドから調達を行っているPerch、Tiger Global Management、Target Globalから調達を行っているBrandedなど挙げていけばキリがありませんが、現時点で分かっているロールアップ型ECの企業数はグローバルで80を超えています。

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様々なファンドが参入:

この領域には、様々な資金提供プレイヤーが参加しており、資金を提供しているのはPEファンドや成長投資家だけでなく、アーリーステージのVCファンドもこのゲームに参加し始めています。以下は、Pitchbookが発表した、eコマース事業への投資を最も積極的に行っているベンチャー・ファンドのデータです。

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VC投資家が一緒に設立する例:

・FoundersFundのKeithRaboisが2021年3月に、Atomic(ベンチャースタジオ)のJack Abrahamと組んで、ロールアップ型ECのOpenStoreを共同創業。OpenStoreは、2021年7月にシリーズAでKhosla Venturesをリードに$30Mを調達。4ヶ月後の11月にシリーズBでGeneral Catalystをリードに$75Mを調達するなど設立してから数ヶ月で$100M overを調達。

・元SoftBank Investment Advisersのマネージングパートナーであり、Oud Capital ManagementのCEOを務めるMichael Ronenもフランスでロールアップ型ECのBRANDEDを共同創業。BRANDEDは、2020年12月にシードでVine Ventures、Vine Venturesから資金を調達(調達額不明)。2021年2月にシリーズAでTarget Globalをリードに$150Mを調達。

なぜ今なのか?

Eコマースの起業が爆発的に増えている中、成功した独立ブランドが増え、多くのブランドは、個人または小規模のチームによって運営されており、多くのブランドが数百万ドルの収益を上げるまでに成長させています。しかし、多くの場合オーガニックな成長(比較的緩い)を維持するか、より早くスケールアップするために資金を調達するか、買い手を見つけるためにブローカーと協力するかの選択肢しかなかったため、理想のイグジット手段がなかったのが実情です。そういった課題がある中で、Eコマースのロールアップ会社は、もう一つの選択肢、すなわち迅速でシームレスな売却を提供することで課題を解決することができます。この流れが主にロールアップECモデルの成長タイミングの理由です。

Amazon以外でのロールアップモデル

AmazonプラットフォームでのロールアップECは80を超えていますが、Amazon以外のプラットフォームでも同様のモデルが浸透しつつあります。例えば、ShopifyプラットフォームでのロールアップモデルのOpenStoreや、家電用電化製品のロールアップモデルのBerlin Brands Group、Shopify、Magento、Rakutenでの買収を中心に、Tokopedia、Lazada、Shopeeなど様々なプラットフォームでの買収を行う Una Brandsなど色々なロールアップモデルECが出てきています。

ロールアップECの運用方法:

多くのロールアップEC企業は、これらの運用方法で運用しています。

・買収したいEコマース商品カテゴリに関する投資論文が存在(以下は例)
1)規模が十分にある:プラットフォームによって異なるが、通常TTM(trailing twelve month)収益で100万ドル以上の商品
2)最低限のブランド運用期間:1~2年以上の運営実績と財務内容があり、一貫した成長を遂げている
3)収益性がある:一般的に10%以上の利益率を求めている
4)カテゴリー:ほとんどのプラットフォームは、日用品を買収トレンドに左右されないブランド(アパレルなど)を求めている
5)レビュー評価:少なくとも4つ星の平均評価(顧客に愛され、支持される製品)

・AmazonやShopifyなどのマーケットプレイスを横断的に調査
・勝ち組ブランドを見つけ、買収/合併
・PEファンドのように、バイアウト・ビジネスに資金を提供し、投資
・プラットフォーム非依存型または垂直統合型
・テクノロジー、インフラ、データ分析、運用ノウハウ、資本、スケールメリットをフル活用し、一括して成長させる
・アグリゲーターの運営と規模拡大に関するより具体的な戦略
・インバウンドアプローチ:売却を検討しているブランドオペレータは、レビューのために積極的に情報発信。ほとんどのロールアップ・プラットフォームは、このためのフォームをウェブサイト上に用意している
・アウトバウンドアプローチ:ロールアップ企業は、興味深いブランドを特定し、オペレータに連絡することを任務とするBD担当者を社内に抱えている

地域別企業:

地域別で見てみると、アメリカが38社、イギリスが12社、ドイツが8社がトップ3ですが、アメリカでの企業数がずば抜けていることが分かります。
日本では、Forestが唯一の国内発ロールアップECとして出てきています。

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米国:

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イギリス:

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ドイツ:

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ロールアップ型ECの魅力

・成長する空間のインデックス化: ある意味、これらのプラットフォームはインデックスファンドのようなもので、そのパフォーマンスはアマゾンのサードパーティセラーの成長に追随してくるもの

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・あらゆる専門家が中に入って支援することで価値の最大化が測れる:このモデルは、有望なブランドに「ジェット燃料」を注いで、そのパフォーマンスを最大化するというアイデアであり、独立した販売者として、調達や製造、商品ページのデザイン、Amazonのアルゴリズムに至るまで、すべてのエキスパートであることはほぼ不可能。そのためブランドは、クラス最高のリソースを共有し、専門家チームを活用することで、コストを削減しながら、大きな成長を実現できる

・リスクの少ないビジネスモデル:このビジネスモデルは、コワーキング、スクーター、超高速配達など、VCが支援する他の資本集約的なカテゴリーよりもリスクが低く、これらのブランドは、単位経済性が高いだけでなく、すでに利益を上げており、多重裁定取引の候補となっています。その結果、これらのブランドが損をする可能性は低いと言われています。ただ逆にアップサイドもそこまでないとも言われています

ロールアップ型ECの懸念点

・競争がブランド価格を押し上げる:Thrasioのようなプラットフォームの成功は、資金力のある数多くの競合他社を刺激し、ブランドに対する「供給熱狂」を生み出しています。Thrasioのメディア情報によると、かつてブランドはEBITDAの2倍で取引されていたが、現在は3-6倍以上で取引されているとのこと。この分野にはもっと多くの資金が投入されて始めているため、この倍率は日に日に上がり続けていく可能性はあります。ロールアップ・プラットフォームは、買収したブランドを販売しない一方で、ポートフォリオのEBITDAは、エグジット(IPOまたはM&A)時の評価に影響してくる可能性があります
参考)約4億円を調達したロールアップECのBenitagoは、他のアグリゲーターが提示する価格に勝てるようにスタンディングオファーを提示

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・Amazonへの依存:ほとんどのロールアップ・プラットフォームは、Amazonで販売するブランドを買収し、1つの流通チャネルに大きく依存することが多いため、アマゾンの検索アルゴリズムが変更されると、製品の可視性とパフォーマンスが突然大きく低下する可能性があります。また、アマゾンは、成功したサードパーティセラーのデータを使用して、より低価格の模倣品を開発していることが分かっており、レベニューの低下に影響する恐れがあります

・出口機会+公開コンプ:ロールアップ・プラットフォームの最終的な展開はまだ未定であリ、M&Aは一つの選択肢ですが、誰が買収するのが自然なのかは不明な状況。Eコマースへのさらなる多角化を目指す従来のブランド保持企業(P&G、Clorox、Colgate-Palmoliveなど)なのか。また、大きな規模まで成長したロールアッププラットフォームには、株式公開も選択肢の一つ。上場企業のコンプの多くは、プラットフォームが個々のブランドを買収する際の倍率よりもプレミアムで取引されています(TEV / EBITDAの列と上記の3~6倍を見てください)。これは、収益規模が大きい企業ほど高い倍率を得る傾向があるという、倍率の裁定原理によって説明することができます。しかし、これらの企業はまだハイテク企業のように評価されていないのが現状。

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実際のバリューアップ

ロールアップECのMeramaは、3年以内にブランドを10-20倍に拡張するためのプレイブックの概要を公開しています。

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実際のバリューアップ事例:

Thrasio
ペット用品:
・AngryOrange→ペットを飼っている家庭向け柑橘系消臭除菌スプレーを提供するブランド。Angry Orangeは、質の高いブランドコンテンツがないにも関わらず、1個22.95ドルで1日100個以上売れていた商品。

実績:
直近1年間の売上高は250万ドルから2310万ドルへ増加。2019年から2021年10月までの月間平均クリック課金売上高が1,860%増加。
バリューアップ施策:
・買収する以前は業務用として展開していた製品をコンシューマー向けにも展開。そのためAngry Orangeの全製品をリブランディングすることに。
1)デザインの変更
バリューアップ責任者のジョンは、Angry Orangeの既存のボトルが魅力的でないと感じており、「まるでベイプショップにあるようなボトルみたいだ」と言っているほど消費者には到底受けそうなデザインではなく、信頼を得られていなかった。買収後、Thrasioのデザインチームは、約70種類の新しいラベルを作成しましたが、ジョンはどのラベルも気に入らなかった。ジョンいわく、アマゾンは例外的に視覚的なメディアだと言っており、消費者はパッと見で見て買うことが多い。その為ページをスクロールする時、何が消費者の目を止めさせるのか?マウスカーソルはどこで止まってしまうのか?ジョンは、ボトルそのものの色を変えることで、消費者の足を止めるような商品、Angry Orangeを作ろうと考え、ボトルの色を変えることに価値があることを証明するために、ジョンはPickFu(消費者調査プラットフォーム)を利用。PickFuで800人にアンケートを取った結果、新しい明るいオレンジ色のデザインが、人々の購買意欲を高めるという結果が出てきたため、その結果に合わせてデザインを変更。Angry Orangeの新しい商品画像がAmazonで公開されると、一夜にして売上を劇的に伸ばし、ユニットセッション率が35%から42%に上昇、1日あたりの平均販売個数は160個に増加(以前は100個)。さらにThrasioはこれに乗っかり、デザインを一新したすぐに使えるAngry Orangeの新製品を開発/販売。2週間で、売上はゼロから1日約200個まで増加(0→200)。

2)販売チャネルの増加
Thrasioのマーケティングチームは、Amazonでの出稿だけでなく、FacebookやGoogleといったAmazon以外のトラフィック生成チャネルからの成長も推進。消費者の関心が高いことから、Angry OrangeがDTCチャネルでも成長する素質があることは明らかで、2020年3月以降、総売上の21%に寄与しています。Thrasioのマーケティング施策には、インフルエンサーマーケティング契約も含まれており、これは著名人の推薦を得るように発展。また、Select Target、Walmart、Ace Hardware、True Valueなどのオフライン店舗への展開も拡大。

今後の動き

現在の多くのロールアップEC企業はAmazonプラットフォームを軸として事業展開していますが、Shopifyの流通額(約12兆円)も年々凄まじいスピード感で伸びており、かつShopify専用やその他同様のEC制作プラットフォーム(Magento、日本だとBASEなど)で活用できるインフラツールが増加しており、現時点でShopify専用ツールだけで6,000以上のツールが存在しています。

結果的にAmazonのFBAのような機能が他のプラットフォームで誰でも簡単に利用できる(Shippoなど)ようになっている/なる為、他のプラットフォーム上でも規模が大きくなればなるほど同様の動きが出てくるのではないかと思います。


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