あなたはこうやって結婚生活に失敗する(8)の2

翌土曜日。ご主人は休日でしかも久しぶりにどこにも出かけませんでした。リビングでゴルフクラブを磨いているご主人にあなたは話しかけます。

「進学のことだけど…」

あなたの言葉にご主人は応じます。

「そのために今日は空けておいたんだ。それで?」

あなたは最初、最近の息子さんの生活ぶりや気持ちについて話します。それは息子さんが「ご主人を避けている」のが感じられたからです。その日も朝から部屋に入ったきり出てきていませんでした。

ご主人は、あなたから「息子さんの気持ち」を聞いたあともなにも感想がないように言いました。

「それで進学はどうなってるんだ?」

あなたはご主人のその対応に不快感を持ちましたが、心の中にしまいこみ、受験における息子さんの成績について話しました。

今の成績では、やはり進学校に合格することは難しいこと。そしてそれは担任の先生にも言われていること。現実的な対応として合格確実なところを目指さざるを得ないこと。

ご主人があなたの話を聞きながら段々と苛立ちを強めていくのが、あなたはわかりました。しかし、いくら苛立ちを強めようが現実は変わりません。あなたは話を続けました。

最後まで聞き終えたご主人は落胆と苛立ちが交じり合った言葉で言います。

「やっぱり、おまえに子供の教育を任せていたのは間違いだったな。でもおまえしかいないんだし…」

あなたは親として無能者の烙印を押されたように気持ちになります。うつむいているあなたにご主人は追い討ちをかけるように言葉を続けます。

「会社の同僚の子供たちはみんな一流高校に進学してるぞ。みんな母親がしっかりしてるんだ。俺だけ、子供が三流高校じゃ出世にも影響するよなぁ。それにしてもどうしてあんなに勉強ができないんだ?」

あなたは自分が馬鹿にされるのは我慢できます。けれど息子さんの人格をも貶めるような言い方には我慢がなりませんでした。そして、ご主人のあまりにも侮蔑した言い方に息子さんがかわいそうに思えてきました。ご主人は、あなたのそんな気持ちなど察するようすもなく話を続けます。

「とにかく今からでも塾でも予備校でもなんでもいいから最善を尽くせ。それでも駄目なら潔くあきらめるよ。一応、一流高校も受験だけはするように担任の先生には言っといてくれ」

あなたは息子さんに「とにかく高校さえ決まればあとはお父さんもわかってくれると思うから」と言い含め、勉強に追い立てます。

そして、受験シーズンが迫りました。息子さんはご主人に対する反発もあり今ひとつ勉強に身が入らないようでした。しかし、それでも試験日はやってきました。

…結局、いわゆる滑り止めと言われる二流高校には合格しましたが、ご主人が言うところの一流高校には合格できませんでした。それはある意味、当然でもありましたが…。そしてその結果をあなたも息子さんも事前に予想していました。それでもあなたは息子さんを励ましました。

「高校の名前なんてどうでもいいのよ。大切なのはどれだけ充実した高校生活を過ごせるかなの。精一杯、高校生活を楽しんで」

あなたの励ましの効果があったのかもしれません。入学当初は気落ちしていた息子さんですが、なにか打ち込むものを見つけたようで次第に高校生活に活力をみなぎらせて通うようになっていきました。

それに比べてご主人はいつまでも息子さんの通う二流高校にこだわりを持っていました。主人に言わせますと「誰でも受かる学校」ですから「学校としての価値がない」と思っているようでした。ですから、ある意味、ご主人は息子さんが楽しそうに高校に通っていることを快く思っていないようでした。

あなたはご主人のそんな思いを息子さんに悟られないように苦心をします。息子さんのやる気を失わせたくなかったからです。あなたは、ときたまご主人に「そんな思い」を変えてくれるようにお願いします。しかし、ご主人は世間体を気にするばかりで考えを改めようとはしませんでした。

そんな状況の中、息子さんが一学期の成績表を持ってきました。なんと学年で3位に入っていました。あなたは息子さんと喜び合います。あなたはなにより息子さんが楽しそうに学校に通い、そして成績が伸びていることがとてもうれしかったのでした。

その夜、あなたはご主人に息子さんの成績を報告します。あなたは期待していました。ご主人が息子さんを見直してくれることを…。

深夜、帰宅したご主人は着替えをするために真っすぐに部屋に行きました。あなたはご主人のあとを追い部屋に入ります。着替えているご主人に満面の笑みを向けます。あなたの笑顔を見てご主人が言います。

「どうした? うれしそうな顔をして」

あなたは息子さんの成績表を手にして話しかけます。

「見て、学年で3位だったの」

あなたはご主人に成績表を渡します。ご主人はしばらく見ていましたが、表情を変えることなくあなたに成績表を返します。そして一言…。

「所詮は、二流高だからな…」

あなたは成績表を受け取るとご主人の言葉になんの返答もせず部屋を出ます。部屋のドアを閉めてあなたは台所に戻りながら決意をします。

離婚しよう…。

あなたはこうやって結婚生活に失敗します。

子供に対する接し方、さらに言うなら「どのような人間になってほしいか」という子育て論が違うなら夫婦間における関係も信頼感のないものになってしまいます。子供はあなたたちを見て育つのです。信頼し合ってない両親が子育てをする資格はありません。

つづく。

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