あなたはこうやって結婚生活に失敗する(6)の2
翌日の午前中、あなたは洗濯を終え掃除をしながら考えていました。いえいえ正直に言うなら反省をしていました。すぐに「反省」という言葉が出ないのは結婚後のあなたの生活環境が影響しています。
あなたは寿退社後、専業主婦をしていました。会社勤め時代と最も違うのは上司がいないことです。あなたを管理する、押さえつける人がいないことです。あなたを叱ったり注意する人がいないことです。たとえ、お風呂の水を溢れさせても、ご飯を焦がしても、電気代の支払いを忘れても誰からも怒られたり責められることはありませんでした。あなたは家庭の中で王様でした。王様は「反省」などする必要はないのです。
そんな立場のあなたでしたが、そこは賢明なあなたのことです。自分を見つめることも忘れていませんでしたので自分を戒めることも知っていました。そこがあなたの賢明なところです。掃除をしながら「考えていた」と言ったあとに「反省をしていた」と言いなおした所以です。
あなたは昨晩のご主人への言葉遣いを反省していました。幼稚園への提出物に頭を悩ませていたことが原因ですが、あなたはご主人に「八つ当たり」をしてしまいました。いくら「イライラして」いたとはいえご主人に対しては失礼なことでした。あなたは今晩のメニューをご主人の好物にしておかずを一品増やそうと思っていました。
その日の晩、ご主人の好きなポトフを出しました。子供たちもどちらかというと好きな部類でしたので大好評でした。けれどご主人はそれほどうれしそうでもなく淡々と食べていました。ご主人への償いの意味で増やしたエビフライもそれほど反応するわけでもなく普通に食べていました。
あなたは食事の途中からご主人の反応に少し不満でした。それでもその気持ちを表に出すこともなく普段どおり振舞っていました。しばらくするとあなたはご主人が食事をするときに口から出る音が気になりだしました。
ズズズズズ…。
ポトフのスープをすする音です。最初はそれほど気になるほどでもありませんでしたが、時間が経つにつれ音が大きくなったように感じてきました。するとご飯を食べたときの噛む音までが気に障るようになってきました。…もちろんあなたは口に出しては言いませんでした。
その日以来、あなたはご主人が食事をするときの音がとても気になるようになってしまいます。それでもあなたは一言も注意をしたことはありません。あなたは自分が「気にしすぎ」、と言い聞かせていました。なぜなら今までそのようにして7年間共に暮らしてきたのですから…。
その後、2週間くらい経った頃でしょうか。
あなたはご主人の洗濯物を洗濯機に入れるときちょっとした戸惑いを覚えている自分がいることに気がつきました。今まで一度も感じたことがない感覚です。あなたは自分自身に驚いていました。
あなたはここ2週間を振り返ります。
あなたはご主人と笑顔で話していないことに気がつきました。そうです。あの貧乏ゆすり以来、あなたはご主人と楽しく会話をしていなかったのです。ご主人は普段と変わらなく接していたかもしれません。しかし、あなたの心の中の接し方は間違いなく以前とは違っていました。
部屋の掃除をしていたときご主人の靴下がタンスの前に置きっぱなしにされていました。あなたはご主人の靴下を見て嫌悪感を持ちました。するといろいろなことが目につくようになりました。
鼻をかんだあとのティッシュをゴミ箱に入れないこと。食事のあとの爪楊枝をテーブルに置いたままで席を立つこと。…あなたは急にご主人がつまらない男性に思えてきました。
それでも3ヶ月辛抱しました。実家の母にも相談しました。母はあなたを責めました。当然です。
「たったそれくらいのことを辛抱できないのは『おまえが悪い』」
とまで言われました。もちろんあなたもそれは理解しています。大人の女性がとる態度ではありません。けれど、あなたはどうしても我慢できなくなっていました。
あなたはご主人と同じ空気を吸っていることさえ我慢ならないほどご主人に対して冷めていたのです。人間はいつも論理的に行動できるわけではありません。人間とは感情に支配されることもままあります。あなたは思い出していました。
「旅先で始まった恋は地元に帰ってきて冷める」
あなたはこうやって結婚生活に失敗します。
お金がなくて「買いたいものも買えない」とか「遊びにも行けない」などという物理的に辛いことは夫婦なら辛抱できるものです。しかし、精神的に辛いことはどうしようなく我慢できるものではありません。例え一時期、お互いに愛し合っている期間があったとしてもその期間が永久に続くことは稀です。「あばたもえくぼ」は新鮮な愛があるときにしか通用しないものです。
つづく。
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