あなたはこうやって結婚生活に失敗する(14)の2
ある日。あなたが会社から帰ってくると奥さんもお子さんもいませんでした。あなたは奥さんに携帯電話をかけます。
奥さんはすぐに出ました。そして「すぐに帰る」と告げました。あなたはとりあえずスーツを着替え奥さんの帰りを待ちます。
しばらくすると奥さんが帰ってきました。そのとき、奥さんの表情がイラついているのがわかりました。
「どうした? なにかあったのか?」
奥さんはなにも言わず、晩ご飯の準備を始めました。仕方なくあなたはお子さんと遊んで待つことにしました。
晩ご飯の準備が終わり食べ始めますと、奥さんが突然に話しはじめます。
「なんか今の生活、貧乏くさいわよねぇ」
あなたは奥さんの顔を覗き込みます。
「どうした?」
奥さんは、あなたが帰ってくるまでお友だちの家にいたそうです。そして、自分たちの生活との違いを思い知らされていたのでした。奥さんは、お友だちが持っているブランド品の洋服やバッグなどを見せられたのでした。たぶん、お友だちも決して見せびらかすつもりはなかったのでしょう。女性の性向として自分の洋服や装飾品を他人に見せたりすることはよくあることです。しかし、ときとしてその何気ない言動は見せた相手の心に波風を立たせます。
「最近、仕事の調子はどうなの?」
奥さんはまるでビジネスコンサルタントのように突然の質問をしてきました。あなたは曖昧に答えました。
「まあまあかな…」
「お仕事頑張ってね。そしてお給料がたくさんもらえるように出世して」
昔なら、奥さんは決してこのような台詞は口にしなかったでしょう。しかし、最近はこのようなニュアンスの台詞を口にすることが多くなっていました。
あなたは、今までなら奥さんのそうした台詞はやり過ごしていました。しかし、最近の度重なる奥さんのそうした発言にあなたはつい言い返してしまいます。
「なんか最近のおまえ、昔と変わったよな」
「そうかしら…。私は自覚ないけど」
あなたは奥さんの話し方が気に入りませんでした。「うすらとぼけた」言い方だったからです。あなたはつい強い口調になりました。
「つき合っていた当時、俺たちは人生観が一緒だったろ。もう忘れたのか?」
「なんのこと?」
「お金や出世なんかより、人生にはもっと大切なものがあるって言ってたじゃないか」
あなたはしゃべりながら少し気恥ずかしさも感じていました。若いアイドルが歌う歌詞に出てきたり青春ドラマの主人公が口にしそうな言葉のように感じていたからです。
奥さんは言います。
「なんか青白いこと言うのね。でも、現実問題としてお金がないと満足な生活できないのよ。青春ドラマみたいなこと、その年になって言わないでよ」
あなたは箸を置きます。
「おまえ、本当に変わったな…」
あなたは奥さんを見下した目つきをしていたかもしれません。そのことが奥さんの心を尚更苛立たせました。
「あなた、現実を見て。私のお友だちの生活を見ているとお金は大切なもので必要なものなの。そのためには会社で出世する必要もあるし、友だちの旦那さんは転職してお給料3倍になってるのよ」
「そういう生き方を否定していたのがおまえだろ。だから俺は結婚したんだ」
あなたはそういうと勢いよく外に出て行きました。
結局、その日あなたは深夜遅くにこっそりと帰ってきました。別に飲みに行ったわけではありません。ただ、昔と変わってしまった奥さんと同じ空気を吸っているのが嫌だったのです。深夜の街を歩き回っていました。
あなたは、奥さんが目覚める前に会社に向かいました。
あの日の出来事はあなたたち夫婦の関係に溝を作ってしまいました。もし、どちらかが折れたなら二人の関係は修復されたかもしれません。しかし、あなたは奥さんを許すことができませんでした。奥さんを許すことはあなたの人生観を変えることになるからです。
奥さんにとってもあなたを受け入れることができませんでした。いつまでも青春時代と変わらない考えでいるあなたと一緒に暮らすことはできないと考えていました。
いつしかあなたたちは会話をしなくなりました。もちろん寝室も別々になりました。奥さんはお子さんと6畳間に寝て、あなたは4畳半の部屋に寝るようになりました。家庭内は寒々とした雰囲気が漂っていました。夫婦の関係が悪化しているのはお子さんにも悪い影響を与えます。お子さんはあまり笑わなくなりました。無邪気さもなくなったように感じます。
あの日から3ヵ月後、あなたは覚悟を決めて奥さんに伝えます。
「俺たち、もう限界だよな。子供にもいい影響ないし。結婚生活、解消しようか」
あなたはこうやって結婚生活に失敗します。
同じものを見て同じように感じる、思う。言葉を変えるなら「価値観が同じ」と言えるでしょう。最初は同じ価値観を持っていた二人がときの流れとともに少しずつずれて行く。これは仕方のないことです。人は、ときが流れ年を重ねるにつれて変わっていきます。その間に、たくさんのいろいろな経験をすることによって影響を受けるからです。これは「いい」「悪い」の問題ではありません。ただ一つ言えることは、若い頃に感じる「価値観の一致」はあてにできないということです。
つづく。
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