あなたはこうやって結婚生活に失敗する(11)の1

*女性編

結婚1週間

結婚式も盛大に終わり、そしてあなたたちはハワイへと新婚旅行に行きました。あなたは外国へ行くことも初めてならなんと飛行機に乗ることも初めてでした。あなたは飛行機に乗ることに少しばかり不安があったことも確かです。その緊張感からあなたはパスポートを持つことを忘れていました。もし、奥さんが家を出る前に持ち物チェックをしていなかったなら新婚旅行は中止になっているところでした。あなたは奥さんに尊敬の念を抱きます。ただ、あなたがパスポートを忘れていたことを非難する言い方に侮蔑するニュアンスが含まれているように少しばかり感じていました。

奥さんは旅行慣れしておりあなたの不安な気持ちとは反対にただただ新婚旅行に期待を膨らませているようでした。当然、飛行機の中でも機嫌がよくあなたにハワイの観光地の薀蓄を語っていました。そうです。奥さんは幾度目かのハワイ旅行でした。しかし、あなたは飛行機が離陸する際のあの緊張感がまだ抜けきれず、奥さんが話す内容の半分も頭の中には入ってきませんでした。奥さんはあなたのそのような心境を察することもなく機内食を残らず食べていました。

ハワイのホテルでも奥さんが主導権を握っていました。あなたはただ奥さんに言われるがままに従うしかありませんでした。あなたはまるで「自分が奥さんの召使のように」なっていることに少し不満を持ち始めていました。

日本人が訪れることで有名な、そしてそのほとんどの客が新婚夫婦で占められているレストランでのことです。

奥さんはとても満足そうに全てを平らげ、そしてあなたはと言えば慣れない食事に落ち着かないでいました。食事を終えたあと、あなたはトイレに立ちます。トイレの鏡で自分の顔を見るとやつれたような感じがしました。あなたは新婚旅行に疲れていたのです。それでもせっかくの新婚旅行ですからあなたは自分に言い聞かせるように「楽しもう」と思い直しました。

気分を変えあなたはトイレから出てきます。あなたは遠目から自分のテーブルを見ました。するとどうしたわけか、あなたの席に誰か見知らぬ男性が座っていました。あなたはテーブルを見間違えたのかと思い向かいの席を見ます。そこにはあなたの奥さんがあなたがトイレに立つ前と同じように座っていました。しかも奥さんは笑顔で楽しそうにあなたの見知らぬ男性と笑い合っていました。あなたは足早にテーブルまで急ぎます。もしかするとあなたの表情は怒りに満ちていたかもしれません。それはテーブルに着いたときの奥さんの言葉でわかりました。

「あら、あなた…。どうしたの? 怒ったみたいな顔をして…」

あなたは自分の気持ちを落ち着かせようと努めながらあなたの席に座っている男性に作り笑顔を向けました。あなたは精一杯「笑顔」のつもりでしたが、もしかしたらあなたの頬の肉は引きつっていたかもしれません。その証拠にあなたの席に座っている男性は軽く会釈はしましたが笑顔ではありませんでした。

奥さんが手のひらを上にして男性のほうを指しながらあなたに紹介します。

「こちら平松さん。私が前にハワイに来たときにお世話になったのよ」

あなたはどのように振舞うべきかわかりかねていました。ただ立ち尽くしていました。あなたは顔だけを男性のほうに向けました。あなたは男性を見ながら二人の関係を詮索していました。男性の年令はあなたより少し年上くらいです。浅黒く逞しい胸板があなたにコンプレックスを感じさせました。

奥さんが促します。

「あなた、ご挨拶をして…」

奥さんの言い方にあなたは「上から目線」を感じ、少しばかり屈辱感を感じます。それでも一応挨拶の言葉を口にしました。男性も足を組んだままではありましたが、笑顔で応えてくれました。しかし男性の目が笑っていないのをあなたは見逃しませんでした。

あなたは立ったままでした。あなたは周りの目が気になりました。今のこの3人の状況を見て、どちらを夫だと思うだろうか…。

男性が奥さんに話している言葉が聞こえました。

「それではまたいずれ…」

男性はあなたに軽い会釈をするとレストランの奥のほうに歩いて行きました。あなたは男性が座っていた席に腰掛けます。いえ、違います。その席は最初からあなたの席でした。

たぶん、そのときのあなたの表情が険しかったのでしょう。奥さんは自分から話しかけようとはしませんでした。あなたはグラスを飲み干しました。そしてグラスをテーブルに置くと奥さんの顔を見つめました。

「このグラス、僕のだよね…」

結局、レストランでは最後までお互いに一言も口を開きませんでした。その間、あなたは結婚する前に奥さんとデートしたときの「あのとき」の出来事を思い出していました。そうです、奥さんとデートをしていたときに見た「あのとき」の光景を思い出していました。

あのとき…。

つづく。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?