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ピーター・スワンソン『だからダスティンは死んだ』よむよむ

5作目。いつも通り、創元推理文庫、訳は務台夏子、装幀は鈴木久美。原書タイトルはBefore She Knew Him. 解説はミステリ書評家の村上貴史.
献辞はガレラーニ家3世代のみなさん(特にメーガン)に捧げられている。(どなたかはわからない)この作品はエピグラフなし。でもお話の最後に感謝を捧げてたくさんの方のお名前が書かれていた。たぶん取材などされたのかな、と予測。

物語は二組の子供のいない夫婦(ヘンとロイド、そしてマシューとマイラ)がご近所のパーティで出会うところから始まる。そういえば、スワンソンの作品の主人公は皆子供のいない人物だ。

私は今回の主人公ヘンに惹かれた。精神病を抱えた版画家で思い込みや衝動もかなり激しい、でも賢くて勇気もある。もしかしたらスワンソン作品に出てくる作品の中で一番好きかも。第1作のリアナや第2作のリリーもかっこいいと思ったけれど、ヘンが一番人間ぽい女性のような気がする。

で、これはべつに訳の問題と私は思わない、日本語の女性が使う言葉の攻撃的な言葉がいまいちなものしかないことの問題だと思うんだけど、ヘンの「くたばれ」はどうだろう?ヘンはモノローグでは、「〜だわ」を使っているけど、マシューやジョアンナには「くたばれ」って言葉を使ってる。でもいるかな「くたばれ」という人。モノローグで「〜だわ」という女もあんまり想像できないけど。「おとといきやがれ」並みに聞いたことない。でもほかになんていう?日本語で?女の人が罵倒する時の適切な言葉って難しいな。「本当に最低」とかか。英語はまだ確認していないけどエフワードと推測。結構むかしからフィクションの「わ」についての議論があると思うけど、これ、現代女性にはリアリティはないけど、お話の中ではっきりと誰がしゃべってるかわかる効果はある。でももう、取っていいのじゃないか。

私はヘンがダスティンの時間に拘って調べている様子を読んで、最近読んだミシェル・マクナマラのノンフィクションを思い出した。素人ながら、殺人犯の捜査にハマって行く様子が描かれているのだけど、ミシェルとヘン、ちょっとここが似てるなあ、なんて。それから、ご近所で殺人疑惑というとちょっとアメリカドラマの「デスパレートな妻たち」も思い出す。

マイラは二日酔いのあと、イブプロフェンを4錠飲む。もう私はここでスワンソン味の味わえるようになりました。イブプロフェンと言えばジョージも飲んでいたし(第1作)それから、コービンも(第3作)飲んでいた。イブプロフェンは普通多くても3錠だと思うので、とにかくスワンソンの作品の登場人物は、正気に戻る努力をしようとイブプロフェンを4錠飲む。(なかなか取り戻せない)

圧巻なのはマシューとヘンとの対面場面、殺人事件ものでこんな、二人の正直な邂逅なかなかないと思う。(その前の、マシューが、ヘンの作品を気に入るってところもよかったな)村上の解説にもあるがヘンの犯罪歴と病歴がこれを可能にしているのだよね、うなりました。


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