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ピーター・スワンソン『8つの完璧な殺人』よむよむ

6作目、いつも通り創元推理文庫。訳は務台夏子、装幀は鈴木久美。解説はミステリ評論家の千街(せんがい)晶之。エピグラフはなし。献辞はブライアン、ジェン、アデレイド、マクシーン、オリヴァー、ジュリアスという名の王たちと女王たちと王子たちに捧げられている。献辞はいつもさっぱりわからないけど、スワンソンにはお子さんがいらっしゃるという記述がないので、お知り合いや親戚の方たちのお子さんの名前をあげてらっしゃるのかなと思って、小さい子が嫌いっていう人がたまにいるけれどそういう方ではないようだなっていうことがわかる。

このお話、以下の8作のミステリ作品のリストが紹介され、ネタバレがあるかもしれません、と最初に書いてある。

『赤い館の秘密』A・A・ミルン
『殺意』フランシス・アイルズ(アントニイ・バークリー)
『ABC殺人事件』アガサ・クリスティ
『殺人保険』ジェイムズ・M・ケイン
『見知らぬ乗客』パトリシア・ハイスミス
The Drowner(邦訳なし)ジョン・D・マクドナルド
『死の罠』(戯曲、邦訳なし。および一九八二年の映画「デストラップ 死の罠」)アイラ・レヴィン
『シークレット・ヒストリー』(別邦題『黙約』)ドナ・タート
『アクロイド殺害事件』(別邦題『アクロイド殺し』)アガサ・クリスティ

これはみなさんどうしましたか。きっとこの本が発売された時、日本の書店では関連図書も一緒に並べたフェアがされたのではないだろうか。八冊読んでから望んだ強者読者や、もともとミステリファンでほとんど知っている方もいただろう。私はというと、この本を読む前に読んだことがあったのは、クリスティの『ABC殺人事件』と『アクロイド殺し』だけだった。で、たしかにこの二つの事件のことはわかってるので、その部分のおもしろさが倍増したのでほかの本も読んでみたいなと思い、読後に『見知らぬ乗客』を読んだ。でもハイスミスの他の作品に比べると主人公にドン引きしちゃってあんまり楽しくよめなかった。でも最初の鉄道での出会いシーンを思い出し、あのオンラインのシーンを思い出すなるほどと思わされます。

で、やっぱりでこのお話でとくに重要なのは『ABC殺人事件』と『アクロイド殺し』じゃないかと思った。(でもこれだけ知ってるから解像度が上がりまくってそう思ってしまうのかもしれない)とくに『アクロイド殺し』を知っていると、たぶん、けっこう最初の方でえ?ここじゃない?ってわかると思う。別にわかるのがミステリで重要ってわけではないと思うけど、
あの妻の行動の描写はあ…アクロイドかもって読者は思うポイントだと思う。

全くこの八冊を知らない人でも楽しめるとは思う。(アガサクリスティをあとで楽しみたいと思っている人以外)スワンソンは、ぼくは犯人のネタバレとかを気にしてミステリ本を読んでいないので、ネタバレされたくないという気持ちがわからないんだよね、とGoodreadsというアメリカのオンライン読書コミュニティで言っていた。やっぱりディティール好きなのだろうか。きっとそうだろうな。そうなんだよ。殺人事件の犯人や真実も大事だが、何食べてるかとか何に乗ってるかとかそんなことが同じくらい楽しいのだよね。

Goodreads で数年前までスワンソンは読者からの直接の質問に答えていた。その中で、この八冊はあなたのベスト8なんですか?という質問があり、そうじゃない、でもこの八冊がうまくお話を書くのに必要だったのでこうなりました。と正直に答えていらっしゃった。僕のベストは時によってかわるけど、こういう感じかなと述べていた。(2020年)

『レベッカ』ダフネ・ドゥ・モーリア
『そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティ
『死の接吻』アイラ・レヴィン
『シンプル・プラン』スコット・スミス
『レッド・ドラゴン』トマス・ハリス
『You』 キャロライン・ケプネス(最近のなら)
Hidden Bodies by Caroline Kepnes (最近のなら)

『レベッカ』は『時計仕掛けの恋人』のリアナの愛読書だった。でもリアナはいつ『レベッカ』に出会ったのだろうか。今回もマルコム がミステリ本についての考えを述べてるときに『レベッカ』は出てくる。『ゴーン・ガール』にも言及されててかなりはっきりした論評をしている、あくまでも主人公のミステリ書店店長のマルコムが。ちなみにマルコムは新卒で就職した書店のオーナーの奥さんに読むべき本のリストをもらっていて(ということはつまり)そのリストに、『レベッカ』もある。

同時代のミステリーはもう読んでいないものの、わたしもそのトレンドは常時追いかけている。ギリアン・フリンの『ゴーン・ガール』が業界を変えたこと、信頼できない語り手や、ドメスティック・サスペンス、人は誰かを、特に、いちばん身近な人間を本当に信じることができるのかという疑問を呈する小説が突如、人気を博したことも、わたしはよく知っている。わたしが読んだ書評のなかには、これが最近の現象であるかのような印象を与えるものもある。まるで、配偶者の秘密を知るというアイデアが斬新な作品の構成要件であるかのような、あるいは、叙述から事実を省くことが一世紀かけて造られた心理スリラーの基盤でないかのような。一九三八年に出版された小説、『レベッカ』の語り手など、自分の名前すら読者に明かさないというのに。

ピーター・スワンソン. 8つの完璧な殺人 (創元推理文庫) (Japanese Edition) (p. 112). 株式会社東京創元社. Kindle Edition.

『そして誰もいなくなった』は次の次のNine Livesで本格的に入ってくるのでこれは絶対必読。でも私はクリスティの本の中では『ABC殺人事件』と『アクロイド殺し』の方が好きだけど(探偵好きなだけかな)。『死の接吻』は『アリスの語らないことは』でビルが息子のハリーにプレゼントした本。『レッド・ドラゴン』は『ケイトが恐れるすべて』のアランが13歳の時に参加したサマーキャンプで読んでいた本だ。次のEvery Vow You Breakのアビゲイルも17歳でこの本を読んでいた。10代で読むべきミステリ本なのだろうか。(まだ未読なので)きっと他の本も小道具として使われていくのではと思う。


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