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電子的な都市について考える

はじめに


とあるつながりで、名城大学の「都市と人」「都市の再生」という授業の開発に少しお手伝いさせていただいた。
それがきっかけで、「都市」と「情報」について興味を持つようになった。そこで文献を調べてみると、多様な各論としての都市の議論はあるものの、サイバー空間(本書ではコンピューターの中の、インターネットの中のという意味で利用する)の全体に対して言及されているものが意外に少ないのではないかということを考えるようになった。

そこで現実的な都市を起点として、このサイバー空間上の都市とも呼べる概念を整理してみたいと考えている。
この記事は、その導入として着想の起点について記載するものである。

インターネット上に都市は存在するのか?


「都市」とは一体なにを総称したものなのだろうか?
言葉の定義に困った時は、定義を活用する情報源にあたるところがスタートだと考えて調査してみた。しかし、いくら調べても見つからない。どうやら国際標準となる定義はないようである。

調査の初手から困ってしまうことになるとは。。

しかし、同時におおよその概念で近いものとしては「人が集まった地域」であるということがわかった。本調査では、この考え方を起点として、今後の調査と考察を進めていく方針とする。

「人が集まった地域=都市」という概念を用いて、Twitter, Tiktok, InstagramなどのSNS、オンラインサロンといった集まり、Amazonのようなマーケットプレイスといったサイバー空間上のサイトやコンテンツを見ていくと、どうも「人が集まった」という観点においては概念に合致するように見える。もちろん、サイバー空間に「地域」という概念は存在しないため、そのまま「都市の1種である」と定義していいものかは議論となる部分であろう。しかし、「人が集まって営みを行う」という行動様式を鑑みるとSNSに始まる人の集まりも、一つの都市とも考えられる。

ここでは、これらのサイトをどのように都市として概念を論じていくべきなのか、そして現実世界の都市とどのようにリンクしていくものなのかを考察し、モデル化していきたい。

都市機能とサイバー空間の類似性と相違性

都市は、機能的には居住地域、商業地域、工業地域からなるという説があり、本稿ではこれを起点に考えてみる。

まず「居住地域」について考える。居住地域とは生活そのものであり、衣食住と人のコミュニケーションを担うものと考えられる。そう考えると、Twitter, Tiktok, Instagarm等のSNSはこの居住地域に近いのかもしれない。ここで興味深いのはFacebookやTwitterだけをみても、小さい国を上回る規模の人がアクティブユーザーとして活動しているということだ。そう考えるともはや都市というよりは、一種の国とみなして議論をしたほうがいいのかもしれまない。そして、この領域にはメタバースの概念も関係してくると考える。これらの要素を取り込みながら、人のコミュニケーションを基軸として、物理的な都市のコミュニケーション、サイバー空間のコミュニケーションとの類似性について歴史と先端技術の両面から個別に考察をしてみたい。

次に「商業地域」を考える。こちらも同様の傾向がみられ、電子商取引のサイト、例えばAmazonおよびそのマーケットプレイスについては説明するまでもなく国を超える規模となっている。また、例えば国内衣類大手のZOZO TOWNは2020年の売上高が1474億円とされており、小規模の市区町村の「小売」の年間販売額の規模を超えている規模となっている。この規模の比較を行ってみた際に、この「サイバー空間上の商業地域」は都市の商業地域として考察しないことは、はたして正しいアプローチなのだろうか? 税やキャッシュフローの観点では電子商取引も1つの物理的な店舗として制御されているが、ここではそういった「結果的に集約されている」ものではなく、起点となる人の営みと行動様式を中心に、別途、考察してみたい。

そして、最後に「工業地域」である。サイバー空間上では物理的な製品を生産することはできない。しかし、電子的な製品は、Webサービス、編集された動画、3Dモデル等、既に多数生産され、世の中に価値を提供している。
この電子的な生産工程では、単独のコンピューターやサーバーの中でソフトウェアを駆使して構築するもの、あるいはクラウドプラットフォーム上でシステム自体を構築するもの、と多数のバリエーションがあると考える。
その中でも、現実世界の工業地域に近い形態のサービスは、Amazon Web Services(AWS)を筆頭としたシステム基盤から提供できるクラウドベンダーではなかろうか。これらのクラウドは、自らすぐ利用できるサービスだけではなく、サービスを開発したいユーザーのための電子的な基盤としてサーバーや各種のリソースやサービスを提供している。この形態は、1種の工場地帯とみなせるのではないかと考える。
なお、この領域もほかの地域と同様に、物理空間の都市の市場規模を超える部分がある。世界中にサービスを提供し、ハイパースケーラーと呼ばれるほど大規模に成長したクラウド提供事業者と、小さな都市の工業地域の規模を比較する点においては、数字を出すまでも無いと考えられる。さらに、このクラウド上のリソースは、既に天文学的な規模となっているのみならず、その上で構築されるサービスは、電子商取引だけに限らず、銀行、医療、電子政府など、従来の都市で人の生命線になる商品も開発できる内容にまで拡大している傾向にある。では、このクラウドベンダーの提供するプラットフォームを工場地域とみなしたとき、従来の都市の機能とどのような点で類似し、また異なるのだろうか。こちらについても別途、考察してみたい。

ここでは都市の機能性の面で荒く比較してみた。その結果、サイバー空間上のサービスの一部は、都市の機能との類似性のみならず、市場規模の観点でも都市と同等あるいはそれ以上の能力をもっている箇所があることがわかる。すなわち、サイバー空間上のサービスを一種の都市としてみなして、議論するのは一定の価値があるのではないかと考える。

その一方で、従来からそのまま適用できないものもある。

サイバー空間のサービスについては、物理的な空間に位置する「都市」とは異なる要素がある。

代表的な例は、サイバー空間のサービスは物理的な土地に対する依存度が極端に低いボーダレス環境であることは例を上げるまでもなく理解できるであろう。 そう考えると、都市としての1つの単位や、地域性による違いをどのように議論すればいいのか、という課題が発生する。
こういった、類似性と相違性を踏まえながら、サイバー空間上の「人の集まり」=「都市」をどのように考え、境界線の概念を作っていくべきなのかを今後議論していきたいと考える。

物理的な都市とサイバー空間は互いに連携する

このサイバー空間の都市と現実空間の都市は、互いに連携して成り立っている。この相互連携については、現実に起きたものをSNSにて拡散してコミュニケーションする現実の都市の出来事をサイバー空間に反映されるケース、逆にサイバー空間で生まれたバーチャロイドがアイドルとして現実の都市の中でライブを行うケース、あるいは現実の都市に住む人々が各種センサーで収集した放射線データをサイバー空間で可視化し、現実の人々の行動を促すようなデータ循環型のケースなど、多様なバリエーションが存在する。

この文脈で提唱されてきたのがスマートシティであり、そのさらに具体的なレイヤーに近い都市OSの概念であろう。この分野については、今後詳細な解説とともに考察していきたいと考えている。ただし、本稿ではこれらをテクノロジー視点から考察していくのは避けていきたい。テクノロジーや実装の視点から入ることはすなわち、Howから考えるアプローチになりやすく、本来の「人の集まる場所=都市」という概念に対する本質的な問いが言及しづらくなるためだ。そのための、本稿では、ゴールデン・サークル理論に基づいたwhy.what.howの順で整理していきたいと考える。

そして、この考え方でwhyを問うときに有効なのが、デザインの考え方だろう。著名な書籍「誰のためのデザイン?」で語られたユーザーを意識する考え方、特にアフォーダンスは役立つであろう。そこからの具現化として「デザイン思考」を取り入れながら、考察することで都市の新たな視点が見つかるかもしれない。現状、残念なことにデザイン思考を単なるフレームワークと考えられている人もいるので、解説が必要と考えているが、ここでは詳細の記述を割愛する。

いずれにしても、人間中心に見た場合、この物理的な都市とサイバー空間上の都市の相互連携の関係があることはこれ以上の説明は必要ないだろう。ところが、これらの関係をデータの側面でしか捉えられていないようにも見える。本来であれば、あたかもComputer Visionで提唱された仮想空間(VR)と現実空間の間にMixed RealityやAugumented Realityの概念と同様に、互いに状態がシームレスに遷移し、いくつかの混じり合った空間を往復に近いモデルがあっても同じくはないと考える。

そこで、本稿のでは都市と情報の関係を概念として包含する混合された都市、すなわちサイバー空間上の都市と物理的な都市、その状態が混合されたMixed City ともいえるシームレスな環境をどのようにモデル化して都市を計画していくべきなのかを議論していくことが重要になると考え、市場調査と考察だけではなく、新たなモデルについても、考察・言及していくことにする。

物理的な都市とサイバー空間を統合する概念Mixed Cityとそのアーキテクチャの提唱


居住・商業・工業のあらゆる活動はこれらのMixed Cityという大きな概念の都市アーキテクチャの中で行われると考えられ、これらの知識を持った上で都市の計画をたてることが重要になると考える。

その意味で、既に実存しているにもかかわらず、うまく概念を整理できていない、このMixed Cityという概念について、人の営みという歴史を基軸に、従来の都市とサイバー空間上の都市、それらがシームレスに連携するMixed Cityについて調査、考察していきたい。
そして、今後の都市計画や都市の中の営みで活用されるべきリテラシーになるのかについて、調査と研究を進めていきたい。

Mixed Cityという概念に限らず、この分野はおそらく数十年後の未来においては、あらゆる人が生活する常識的な基盤として学ぶための第一歩となる学問となるポテンシャルがあると考える。

ここでの調査や考察は、1つの仮説として今後の礎となれば幸いである。

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