見出し画像

『少女☆歌劇レヴュースタァライト』を私が見てしまったから

 それはツイッターの、スペースでのことだった。

「少女☆歌劇 レヴュースタァライトって知ってますか?」

 その時、私の運命の歯車は狂って………いや、噛み合ってしまった。

少女☆歌劇 レヴュースタァライト 【無料】第1話 舞台少女 _ フジテレビの人気ドラマ・アニメ・映画が見放題<FOD> - Google Chrome 2021_10_21 21_06_56

 そういえば見ていない。まず、そんな感想がしっくり来た。私が『少女☆歌劇レヴュースタァライト』(以下、レヴュースタァライト)の存在を知ったのは3年前のTVアニメ版放映時だった。移動中とか暇な時間に見ようと3話分くらいをdアニメストアでダウンロードして、そのまま見ることもなく、いつの間にかdアニメストアでの公開は終了していた。

 かつて見ようとしていた作品であったことは、思いのほか簡単に私を視聴へと踏み切らせた。もっと言えば、いつでも見られるからという免罪符がいつの間にか無くなっていたことに焦ったのかもしれない。その日のうちに私はFODというチケットを手に入れて、客席に腰を下ろした。ワクワク、ドキドキ、キラめき。3年前確かに感じていたその感情は再生産され、炉に注がれた。かみ合った歯車は小気味よく動き、緞帳を静かに上げ始める。開演のブザーが鳴った。

少女☆歌劇 レヴュースタァライト 【無料】第1話 舞台少女 _ フジテレビの人気ドラマ・アニメ・映画が見放題<FOD> - Google Chrome 2021_10_21 21_18_29


 途中退席は、許されていない。



 私の心を最も大きく震わせたのは、大場ななだっただろう。第99回聖翔祭で演じた『スタァライト』、”過去”の『スタァライト』に執着する彼女が、”未来”の『スタァライト』に愛執する彼女であることに気づいたとき、私は自らの失着を悟った。私が日常の象徴だと勝手に思っていた彼女は、アンバランスな非日常の上で器用に踊りながらそれでも笑顔を絶やしていないだけであった。

 そしてそのロンドという大掛かりなステージギミックでさえ、大場なな個人の舞台装置であり、レヴュースタァライト全体からすれば些細な遊び心にすぎないと知った時、私はとっくにこの作品に、大場ななに落ちていた。彼女のやけに目を引く白い舞台衣装に、あの天堂真矢すら軽く屠るその姿に、幾度繰り返してもそれでも、その一瞬を写真に収め続けるその姿に、目が離せなくなった。私はそんな彼女を応援………しなかった。

 それどころか私は、”大場ななに負けて欲しい”と、そう願ったのだ。

 そう時は経たずして、神楽ひかりと愛城華恋に立て続けに負けることで、大場ななのロンドは終わりを迎えた。私はその時、立ち上がって拍手をしたい気分だった。大声で良かったねと泣きながら語り掛けてあげたかった。やっと未来に進めたねと、誇らしかった。客席から高みの見物で、そう思った。

 だからこそ、あのキリンが第四の壁を越えてこちらを見据えた時、私はただ「クソったれ…」と小さく呟くことしかできなかった。”二層展開式少女歌劇”とはよく言ったものだ。私とキリンは結局、同じ穴の狢…いやキリンだった。私の目にはかつて、キリンが舞台少女の運命を翻弄する巨悪に見えていた。だけれどあのキリンは、そう何もしていなかった。彼はただ待っていただけだ、その胸を焦がす予想もつかない運命の舞台を、その舞台の中央に立つ運命の舞台少女を、ただ、ただただその首を長くして。ああそれは、3年越しにレヴュースタァライトに出会い、心を囚われた私と、何が違うのだろうか。

 結局私は全てを分かった気になっているだけだった。彼女たちを悲劇のヒロインに仕立て上げて、その救いを奇跡と捉えていた。でも違う。彼女たちは自らの意志でその運命を歌劇の炉にくべたのだ。トップスタァに一人しかなれないことも、舞台少女にとってトップスタァがただ唯一の夢であることも、そんなのは当然のことなのだ。歌劇に運命を捧げた少女たちの、当然の決まり事なのだ。だからこそ、彼女たちの罪はただ一つ、運命を、青春を、人生を、その全てを捧げて掴むべき歌劇の栄光を、たった数日の剣戟で、得ようとしたことだけだ。だけどそれを何故責められるのか、彼女たちの人生のレヴューをたった12話のアニメで得ようとしている私なんかに。

運命の日を待つだけの私たちへ

 とりあえずTVアニメ版12話とロンドロンドロンドは見終わった。きっと「分からない」事はたくさんある。それでも”劇場版”を見なければならない、それだけは「分かります」

 ほとんどの劇場が上映を終了した中、10月29日、運命の日が訪れる。

 舞台少女の死、赤く染まる星、遠く鳴る電車の音と、いまだ見えぬ地平の彼方。

画像3

 舞台『スタァライト』、塔にも、星の光にも見えるそのアイコンは、今私には地平線まで延びる果てのない道行に見えている。その先に何があるのか、それは彼女たちの運命の結末足り得るのか。それを知るまで私は、この客席から立ち上がることが出来ない。立ち上がってはいけない。

 わずかに傾いていた王冠は、今亭々と頂点でキラめいている。

 だからどうか、許してほしい。私は、虹色のレールがどこまで続くのか、それを知りたいだけなのだ。

スクリーンショット 2021-06-07 19.23.59

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?