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会社はいくらで売れるのか・・・事業承継に悩む人の話を聞いた日のnote

継いでもらえるひとがいなくて会社をこれからどうしようかと考えている経営者にお会いすることが数年前から増えてきた。

後継者の目処が立たない、隣町の同業の〇〇さんが全国展開を図るメーカーに売却した。でもうちは何とか今までやってこれたし、おじいちゃんからの会社を誰かにあげるわけにもいかない。。。

そういった経営者の方からふと「うちって売ったらいくらになるのか教えてほしい。同規模の○○さんが売って長く旅行に出かけたから少し気になって。」と冗談交じりで聞かれることも増えてきた。自分の会社を売ることは以前は身売りと言って経営能力がなかったのだとさげすまれたが、今は第三者に買ってもらえるほど素晴らしい経営をしていたと評価も大きく変わってきたように思う。

私はM&A仲介ブティックは嫌いだが、彼らの発信するごみのようなダイレクトメールと営業姿勢は実際にM&Aを浸透させ、多くの人を救っている側面があるのは事実なのかもしれない。

私は事業承継は経営者だけでなく、従業員、顧客、仕入れ先がみなハッピーであるべきだという立場だ。その立場に立つとたくさんある事業承継の選択肢のうちにM&Aのみに関わって売り手と買い手双方から手数料を取って後は知ったこっちゃないという対応をするM&A仲介ブティックは幾多ある選択肢のうちのわずか1しか紹介せず、それを最善の方法であるかのごとく語る姿勢が嫌いだ。

タイトルで挙げた会社はいくらで売れるのかという者に対する問いだが、中小企業ではおおよそ純資産に1~3年分の経常利益を足して算定される場合が結局のところ多い。忘れないうちにタイトル回収をして冒頭の結びとする。

1.事業承継の現状

日本は高齢社会に突入しているが、中小企業の経営者も例外ではない。経営者の年代別ピークは2000年には50代であったが、2020年ごろから60~70代にスライドして大きく高齢化が進んでいる。その経営者たちの約6割に後継者がおらず、日本全体の不安の種となっている。

廃業件数も順調に増加しており、日本全体約386万社の企業のうち毎年約5万社が廃業している。その3割が後継者難を理由にしたものだ。

経営者には定年退職がないため、自身の年齢を自覚することはなかなかない。周りからも若いともてはやされ、実際にも70代、80代でも第一線で働いている方も多い。しかし経営者本人や家族の急な病気やケガなどのきっかけにより、先行きに不安を抱え、事業承継の検討をすることになる方がいる。

事業承継にはどんな形があるのか整理したい。
①親族内承継
経営者の子供などの身内に承継をしてもらうパターンである。身内に任せれば多少は心情面や長期間の準備期間がしやすく、相続等による財産、株式の後継者移転が可能となる。日本人の性質かはわからないが、自身が使えた主君の子であれば経営の正当性も感じることができるのも魅力ではないかと思う。

②従業員承継
文字の通り親族以外の従業員に継いでもらうパターンである。自身が実際に育てた部下の中から経営能力のある人を見極めることができる。また経営方針、社長の思いを一貫して継がせることができるのが魅力ではないかと思う。債務の経営者保証を部下に引き継がせられるのか、責任を渡す人がいないのが苦しいところであると感じる。

③M&A
社外の第三者に株式譲渡や、事業譲渡により承継をさせるパターンだ。身内に大きな負担をかけなくて済む。経営者は売却益を得ることができ、自身のセカンドライフの足しにすることおができる点が魅力なのではないかと思う。最近では事業承継ファンドに株を譲渡して売却益を上納するスタイルも発展してきた。

④廃業
もちろん選択肢の中に廃業もある。ヒトモノカネの経営資源や、取引先を信用できる同業者に引き継いでいき、よりよい退出を図っていく。

2.会社の値段の決め方

事業承継の仕方には上で挙げた通りいろんな選択肢があり、自分の思いを大切にした計画を立てて、いつまでに何をやらなければならないのかよく考えておく必要がある。実際はすごく複雑だがそんなの読んでも実際に読んでできるようにはならないのですごく簡単に書く。

ここではあくまで一選択肢としてのM&Aにおいてどのように会社の値段を決めるのか調べてみたい。会社の価値を図る方法はたくさんある。

①世間一般からみていくらが妥当か考える方法(マーケットアプローチ)

株式市場における株価や取引価額と基準に会社の値段を算定します。すごくざっくりいうと自社と同事業を行う上場企業のA社の株価が1000円を付けているから、A社の10分の1程度の経常利益を生み出す当社は1株100円として算定して計算しようというやり方で算定する。

②過去の情報をベースに将来の収入を予測しいくらが妥当か考える方法(インカムアプローチ)

将来または過去のキャッシュフローや損益から価値を算定するアプローチです。代表的な手法としてDCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)がある。企業が将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引いて算定をする。大企業においてはよく採用される手法だが、中小企業においてはそもそも将来のキャッシュフローが見込めない、現実的な計算が難しいことから使われることは少ない。

③企業の純資産をみていくらが妥当か考える方法(コストアプローチ)

企業の純資産の時価評価額等を基準に株主資本価値を算定する。貸借対照表上の純資産の額に数年分の経常利益を上乗せして算定をしていく。実際に中小企業のM&Aでは最も多く採用されている。
①のマーケットアプローチではそんな類似会社がそもそもないし、②のインカムアプローチでは将来のことを考えるとどうしても作る人により恣意性が増えて使えない、そこでコスト・アプローチでは資産との関連性が高く、再調達原価の観点からも評価が納得しやすいため中小企業のM&Aに使われているのではないかと思う。

これらの評価を基に売り手側、買い手側ともに会社がどれくらいで売買されているのかを認識しておく必要がある。

あと加えて考慮しておかなければならないのは買い手側がM&Aにより、売り手の事業を単体で運営するのか、既存事業とのシナジーを訴求したいと考えているのかでも売り手側の価値が変わってくる。単体運営の場合よりも既存事業とのシナジーがある場合の方がより買い手側にとっての価値も高いと思われる。

計算のアプローチの違い、相手のおかれている状況により変わってくるのがM&Aである。

経営者は常に孤独な仕事だ。従業員を必死で守るが、従業員には相談できないことも案外多かったりする。会社を売ったらいくらになるのかなという疑問はなかなか考えても聞ける人もいない。ただいろいろな選択肢があり、自社とステークホルダーにとって最善な方法を取ることができることを知って、戦略を練るだけでも心が少し軽くなると思いnoteに残す。


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