見出し画像

オリコンHD(JASDAQ/2498) 2021/9 Q4本決算精査

(追記)3.IR照会メモを追記

 オリエンタルコンサルタンツホールディングス(以下オリコンHD)の2021年9月期Q4本決算が開示されました。当記事において決算の内容を精査したいと思います。あくまで個人的見解に基づき記載しておりますので、誤認等もあるかと思います。お気づきの点などございましたら、ぜひツイッターからお気軽にご指摘を頂ければ幸いです。

画像1

  参考記事として、前回決算記事と総会レポート記事を再掲しておきます。

1.サマリ

 増収増益決算となり、特に利益伸長が強い状況となっています。これで、同社は10期連続営業増益となります。

画像2

 今期は同社としては珍しい下方修正を一度していましたが、そこからみると上振れの着地となっています。過去の修正履歴はマネックス証券さんの提供する銘柄スカウターが便利なのでこちらを参照します。

画像3

 Q3決算時に一度上方修正したものの、その後、同社のサーバーがランサムウェアによるサーバー攻撃を受けた事に伴う関連対応費用を計上する事となり1ヶ月後に下方修正をしています。売上も検収時期の兼ね合いで下げておりました。結果としてはそこから見れば上振れとなっています。

 また、今後の収益の源となる受注の状況もみておきます。

画像4

 21/9期で大きく落ち込んでおり、これをみると大丈夫か?という事になります。ここ3期の四半期推移を国内と海外を分けてみておきます。

画像5

画像6

 これをみると、国内は底堅く推移をしており、特に公共系も多いことから4-6月となるQ3の計上が多くなりますが、今期はこの部分が好調だったようにみえます。前年はコロナ禍初期であったことから伸びが抑制的であったこともあり余計に今期が伸びたような印象となります。この辺りは(グロースという意味でみると)今後も大きく伸びるというわけではないものの、強靭化計画等計画が5年先まで延長され予算措置が取られることにもなっているため、今後も堅調な推移が続くものと思います。
 また、海外については、19/9期や20/9期で大型案件があった事がわかります。これはフィリピンの軌道インフラ関連(鉄道)ですが、その受注計上後はコロナ禍の影響を受けて受注額は低位となりました。しかしながら、今期をみてみると、確かに大きな案件はないものの、逆に1年を通して以前の大型案件がない程度のベースはコロナ禍併存の中でも計上出来ている事となります。同社では中期経営計画の中で、重点化領域というものを設定していますが、海外分野でも様々な幅出しを行っていくような姿勢がありますので、今後復調してくれるものと期待をしています。
 なお、受注高全体でみると減少はしていますが、それでも今期の通期の売上が680億に対して計上した受注高は740億となっており、今後の収益の源泉が不足していきそうという兆候はなく、会社側も受注残高は引き続き高い水準で推移という説明がなされています。大型案件の効果などもあって推移だけをみると心配にもなってしまいがちですが、私としては懸念を抱いておりません。

 また、今回の本決算の際に示された22/9期予想において、25/9期に設定していた数値目標を超過することとなったため、(利益は21/9期実績で既に到達)一旦25/9期の予想を増額しています。

画像7

 ここでの売上+100億、営利+10億はとりあえずえいやーで積んだものと思います。事実、22/9期中に新たな中計数値目標を改めて設定すると宣言されています。超えちゃったので、とりあえず体裁保つために最低限のミニマムとして仮設定したという類のものだと思います。業績予想を作成する時に超コンサバティブな癖のある会社ですからね。で、そういう思想の中で営利率を5.0%へあげてきているのは注目だと思っています。絶対的な水準としてはいわゆる競争優位性の優劣のひとつの判断とされる10%ないの?とかなりそうですが、長らく3%程度で推移していたところから、大型案件等の収益効果やコロナ禍で一時的な費用減等が顕在化しやすく持ち上がった4%台の利益率をさらに上げてきているあたりも会社側の状況を示しているようにも感じます。
 いずれにせよ、中計はこの1年をかけてじっくり定性的な戦略も含めて再定義した上で新たな目標を示すようですから、続報を待ちたいなと思います。

 そして事業成長の継続を示してくれている会社側の還元部分ですが、今期も増配が続いています。直近5年で2倍以上に増えていて、地味に結構配当金は増えています。しかもこの株価水準で配当性向は僅か17%とまだまだ改善余地があります(実際に会社側が態度を変えてくれるかはまた別問題ですが)。これに加えて還元という観点とESOP等の運用面から自己株買いも入っています。

画像8

 22/9期のガイダンスについてですが増収増益予想となっています。

画像9

 経常利益については営業外の為替損益は考慮していないため、21/9期に計上した為替差益分が反動となり減益とみえています。また、当期純利益はランサムウェアの対応による特別損失の計上により21/9期は伸長が抑制されたために逆に伸長率は段階利益より増益率は大きくなっています。

 また事業環境としても受注環境は堅調な状況の見立てのようです。

画像10

 海外についてはコロナ禍の影響には注視が必要ながら改善傾向が続くようです。まだ改善途上のようにもみえますが、変異株の動向などでも影響の時間軸はまだ不確実性はありますが、国策でもあり、また新興国の状況もマクロでは変わりませんからね。

画像11

 国内/海外共に伸ばしていきますということですね。海外が不透明感もありますが、敢えてこの説明をつけていますね。

 というわけでランサムウェアの攻撃を受け、特別損失を計上するに至るという事故はありましたが、それでも事業は堅調であり、今後の見通しも明るいという状況です。ただ、事業内容も財務面も地味過ぎて、かつ流動性もないということで株式市場からは敬遠される要素満載です。

2.決算説明会の様子

 私も現地で出席したかったのですが、リモート参加の上、本業の合間だったもので質問は出来ませんでした。ですが、現地のアナリストらの方からの質問がそれなりに寄せられていたので、こちらを紹介したいと思います。私が片手間で聞いていた内容を脚色しているので、間違いも多いと思いますが。

Q
 受注環境は好調な見通しが続くとのことだが、今後の注力分野は?
A
 国内においては①~⑤を重点化事業として掲げている。国内はこれらをほぼ同程度の重要度と捉えて、従来通りの戦略に基づき成長を志向していく。

画像12

 海外については、国家プロジェクト(道路、鉄道など)を展開してきている。そんな中で今後はこういった大型のプロジェクトに加えて新たな分野の開拓というテーマに取り組んでいかねばならない。その観点で⑤~⑩をあげている。

画像13

Q
 2030年に向けたビジョン策定を今期中に進めるとのことだが、どのようなキーワードに基づき策定されるものか。
A
 国内の資料の革新、挑戦、変革があたる。
 革新の中では、総合事業と銘打っているように、従来の個々の案件の取り組みをより統合させ大きな包括的な案件として扱えるような取り組みが重要になってくると考えている。インフラ構築における部分最適から全体最適への追求という社会的要請に適合していく必要性を感じている。
 挑戦という中で、官民連携、事業経営という文脈の中で一般的なコンサルタント事業のように受託を受けてコンサルをするという枠組みを中心してきた中で今後は自らが投資をして事業を創造していくことを高めていく事を志向したい。
 変革については、DXの力でより構造を変えていく事がテーマになってくると認識している。

Q
 オミクロン株の発生やこれに伴う入国制限など再び影響を懸念するような声もある。収束が中々見通せない中で、企業経営として海外事業の捉え方として、よりローカリゼーションを高めて運営するか、あるいは国内回帰して国内に集中するといった経営上の判断を迫られてくる事も見聞きする。御社として海外事業についてどのような方向で判断をされていくのか。
A
 オミクロン株も含めてコロナ禍の影響は当然ながら当社経営に影響がある。そして当然の事ながらこういった影響を加味してどういう姿を目指していくのかという事を構想している。従って、影響があるから国内にシフトするとか、海外の戦略を変更するというようなことは考えていない。もちろん国内は国内で成長させるし、海外は海外でこういった影響を受け止めながら、その中でも成長を志向していける経営を志向していきたい。

Q
 2030年のビジョンを描かれるということだが、25年の中計の数値も売上800億と上方修正されてきた中で、1000億という目線も期待できると思うのだが所管を。
A
 現時点でまだ決まってないからなんともいえないが・・・
 これまでの成長の軌跡をたどって頂ければ、自ずと質問の数値は設定していくことになるのではないかと・・・(空気感)。

Q
 21/9期に発生した特別損失の件は、22/9期にもまだ生じるものなのか。
A
 セキュリティ対策としてしっかり投資をして対応していく事が大事と考えている。そして引き続き、岩盤なIT基盤の構築ということを専門家の皆さんの助言を受けながら構築していく事も含め、特損は22/9期も一定程度発生する事を見込んでいる。当然、業績予想にも反映しており、こういったコストも想定してもなお、過去最高益更新を目指すというガイダンスを示している。

Q
 コロナの影響に関して、御社は他社と比してあまり業績影響を受けていないようにみえるくらい右肩上がりで順調だと認識している。金銭的な影響がどの程度あったのかなど教えて頂きたい。
A
 コロナの影響を受けてないのではとのご指摘だが、当社もコロナの影響を受けている。ただ、具体的にどの程度の影響があったかを数値で回答するのは難しい。
 特に当社では海外事業での渡航制限やあるいは現地でのロックダウンなどによる工期を止めざるえないような状況等の影響がみられた。とはいいながらも様々な工夫を凝らしてなんとか運営をしている状況。オミクロン株の影響も当然ながら懸念はされるものの、これまでの経験などもあるため、引き続き工夫をしながら運営を続けていきたい。

Q
 自己株式の買い付けを行われているが、これを行った背景を教えて欲しい。配当による還元が低い部分での補完的な意味合いがあるのか、あるいは需給的な兼ね合いもあるのかなどお示し頂きたい。併せて、今後もこういった政策を続けていくのか思いがあれば教えて欲しい。
A
 自己株の買い付けは今後も継続していきたい。ひとつはESOPの制度導入をしていることもあり社員への福利厚生という観点、もうひとつとして株主への還元という意味合いを念頭にしている。

画像14

Q
 ROEについてどう捉えているか。業績目標数値を達成していくとなると、現状の配当政策では利益剰余金が積み上がりROEは低下するのではないかと思える。せっかくの成果であってもROEが下がってしまってはもったいないのではないか。
A
 利益成長が続く中で、ROEをどこまで維持させていくか、数値的にこれ位という固定的なものを意識はしていないが、自己株等も進めていく中で、バランスをみながら資本政策をとっていきたい。

3.さいごに

 同社は建設コンサル会社として海外ではトップ、国内でも日本工営に次いだ規模で事業運営しています。そして国土強靭化という国策で今後も5年間で15兆円という膨大な予算措置がなされている業界で事業を行っています。この予算規模感自体は大きく成長するものではありませんが、必要性に鑑みて予算化されている安定的な業界ともいえます。
 そんな中、多くの同業会社がある中で、比較的率先してDX投資や人材育成への投資も重ねており、規模感としてもホールディングス会社として大きくなってきています。海外ではリーダー企業となり、多くのODA案件はもちろん、民間案件も獲得するようになっています。
 また、地方のインフラ構築と地方創生は相性がいいわけですが、同社は自己勘定で投資を行いカフェの運営や酒造所への投資等を通して率先して自らが地方創生のいちメンバーとして参画されるような動きをとっています。建設コンサルタント会社が、地方創生の地域の基点をインフラ構築するだけでなく、自らがその中で投資を行い店舗等を持つというのはユニークですし、その背景には「社会価値創造」という事を愚直にやろうとしている事に源泉があるように思います。

 投資妙味という点では、成長としてみると2桁%の成長を続けるような業界でもないですからグロースとしては当然みられませんし、だからといって高配当と言える状況でもありませんのでいまいちかもしれません。優待もクオカードを発行してますが、特段注意を引くような内容でもありません。JQ上場ということもありますが、地味で流動性も極端に低いです。
 とはいえ、マネックス証券さんのチャート画面で比較してみると対TOPIXで10年比較してみると優位なんですね。

画像15

 個人投資家で保有されている方をあまり知りませんし、顧客満足調査のオリコン(4800)さんの方が圧倒的に人気だと思います。なので、今後大きく株価が騰がるとか、配当や優待を楽しめるというようなカタリストなど思い当たりませんが、今後も弱小株主として応援していきたいと思います。

(追記)3.IR照会メモ

 IR照会内容もメモに残しておきます。

・営業CFの減少は過去の前期には大型案件(フィリピンの軌道系と思料)における未成業務受入金が増加したものの、当期においては当該費目が減少したことによるもの。期中の検収タイミングによるものであり問題なし。

・受注損失引当金の増額は受注残高の増加に伴うもので、特段のリスクが高まっている状況ではない模様。

・海外は従来の軌道系インフラを中心とした大型案件を中心とした活動から、それだけに留まらない活動領域を広げる活用が重要と認識。そのため、新領域の受注拡大を志向しており、既に足元では新領域での受注拡大が寄与し始めている状況。今後は軌道系インフラの強みを生かしながら、非ODA案件も含めた活動を行っている。そのために海外においても重点化領域を設定したものである。

・特損は22/3期も生じる可能性がある(※説明会では社長は発生ありと明言されました)が、それを含めても利益伸長の成長を続けられるものと考えている。

・DX活用は重要な戦略であり様々な活動を続けている。一方で、足元では国や自治体もDX活用の必要性の認識は広がっているものの、まだ本格的な機運の高まりということは実感としてまだなくて大きな受注環境の変化はない。しかしながら、一部の自治体に全体最適を志向した提案やPoC活動を実施する事で、その成果事例を他の自治体さんなどから引き合いが強まっている実感がある(つまりまだ具体的な受注成果としては目に見える成果にはなっていないが、DX活用事例の成果が積み上がる事で、横展開意識の強い自治体などからの引き合いには手応えがあるということですね)。

・このような手応えがあるため、今後のDX活用が拡がっていく事に備えて重点化事業を再定義して事業推進への備えを進めている。加えてこの領域は自社グループ内の連携だけでなく、異業種の外部法人との連携も進めており、最適な体制を構築するよう取り組んでいる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?