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その道の先に、幸せはあるか?

何がしたいかは、自分が一番よく知っているのかも、というはなし。

新卒で入社した会社は大手銀行のIT子会社だった。

会話の反射神経がのろくて面接が苦手な私にとって、飾らない言葉を受け止めてくれた、恩のある会社だ。

OS、M/D、基盤…初めて目にするような用語しかない世界に圧倒されながら、身に着けようと努力して、必死で食らいついていたと思う。

安定した給料と充実した福利厚生。当たり前のように、ずっとこの会社で働いていく未来だけが見えていた。


PCにかじりついて、慣れないプログラミングを組み、残業ばかりの毎日。

気づけば休日の度に、気分転換のショッピングに出かけるようになっていた。

IDEE SHOPやシボネ、LIVING MOTIF…。
東京にはセンスのいいお店が星の数ほどあって、そんなお店で気になったものを少しずつ買っては、自分の部屋(当時は寮に住んでいた)を居心地よく整えるのが、何より楽しかったのだ。


ある日丸の内の雑貨屋で出会った、ボートの形のキャンドルホルダー。スウェーデンの作家 リサ・ラーソンがデザインしたもので、素材も形も色もモチーフも、すべてが完璧で、ひとめぼれだった。

当時12,000円。その場でポンと出せる価格ではなかったけれど、初めてのボーナスをもらった直後、真っ先に同じ店に向かった。

自分の稼いだお金で、こんなにも好きだと思える宝物のようなものを手に入れた。買ったばかりのボートを抱きしめて眠りたいくらい、うれしかった。


それから2年経って、ますます求められる技術は難解になり、資格をいくつ取得しても追いつける気がしなかった。複数のプロジェクトの進行を任され、何もわからない、何もできない自分に日々苦しんでいた。

ふとしたきっかけだったが、「このままこの会社で年をとって、スマートに仕事をこなせるようになって、給料もたくさんもらえるようになったとして、それで私は幸せだろうか」という問いが頭に浮かんだ。

問いに対する答えは「No」だった。

どんなにお給料をもらえて、たとえ尊敬される立場になれたとしても、この道の先に私の幸せはないと思った。

その頃Twitterでフォローしていたのは、インテリアショップのアカウントや素敵な雑貨を紹介する人ばかり。展示会の情報が流れてくるとうらやましくて、会社のトイレでため息をついた。

4年目に入ったばかりの頃、新卒で拾ってもらった会社を辞めた。


そしていま私は、北欧雑貨の店で、Webショップの運営担当として働いている。

リサ・ラーソンの陶器や、イッタラの食器、マリメッコのファブリックに囲まれて、展示会に出かけて発注の計画をたてて、日々忙しくしている。

Webショップの担当を任されたのは、もちろん履歴書に書かれた「応用情報技術者資格」という文字のおかげ。北欧雑貨屋店員の応募者の中で、さぞ異彩を放ったに違いない。

会社員時代、たくさんのショップを見て買い物をしたことが、今度は今の仕事に役立っているから不思議なものだ。

お給料は激減してあの頃みたいに買い物はできなくなったけれど、リサ・ラーソンのボートは今も部屋の一等地にあって、それだけで満足できる。


会社に行きたくないと毎朝泣いていた私に伝えてあげたい。

道は一つじゃないよ。

どんな働き方が自分にとって幸せか、ヒントは自分の中にあるよ。

今がんばっていることは無駄にならない。必ずどこかで繋がるよ。


そして同じことを、時が経ってこれからのことを考え始めてる、今の私にも。

どうやって生きていくのが自分にとって幸せなのか、きっとヒントは今の自分の暮らしの中にあるのだ。


#社会人1年目の私へ

#コラム
#会社



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