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YOUNG WIZARDS 〜Story from 蘆屋道満大内鑑〜を考え続けた10月(後編)

ストーリーや各キャストの演じた役の印象など、前編はこちら

脚本や演出面で印象的だったこと、面白かったこと


・童子丸と槐の照明の違い
童子丸はやや暗め、槐は明るめに照明が当たるように演出されていた。単純に、役の違いを視覚的に表現するためとも思えるが、童子丸目線の(晴明が思い出している)母の姿を表現するため、童子丸のときの鬼頭さんの照明がやや暗くなっていたのかもしれない。

・葛の葉狐・玉藻前(朴さん)の立ち位置
宮野さんの真後ろになる位置に、朴璐美さんの立ち位置が設定されていたのが、普通の舞台なら晴明と道満の間にあたるセンターに近い位置に設定しそうなのに何故だろうと思っていた。まさか最期のシーンで、晴明が葛の葉を背負っているように見える位置になるとは…。

・九尾の狐のしっぽ
童子丸と葛の葉の思い出は冬が多く、葛の葉の後ろに聳え立つ雪山が、玉藻前が九尾の狐として本性を出したとき、親玉のしっぽ(一番太い)になるように作られていて、セット転換のない朗読劇ならではの見せ方だなぁと思った。

あと、道長が賀茂忠行から聞いた晴明の生い立ちの話で「不慣れな畜生の手にして、その子を育てた。口で咥えては泣かれ、しっぽで撫でてはあやし…」と語るところがあるが、二幕冒頭にそのシーンを表現したと思える狐のしっぽが揺れるような光の演出がある。歌詞の意味や音楽のテーマを知る術がないので予想でしかないが、二幕冒頭の曲の一部では晴明と母の暮らしと別れを表現していたように思う。

・藤原道長の一首
『この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたる ことも なしと思へば』

3人の娘を天皇や皇太子の后とした道長が、得意満面に詠んだ歌とされているもの(新解釈もあります)が、狐を炙り出すために晴明が用意して、無理やり道長に詠ませる歌となっていたのは面白かった。このシーンでの晴明と道長との掛け合いがとても好きで、藤沢さんの作り出した道長みたい人が本当にいたなら、歴史を勉強するときもっと興味を持てたかもしれない。(歴史苦手マン)


物語の考察


考察、と書いてしまうととても難しい印象になるんですが、アーカイブを観ながら色々考えたことがあるので、そのまとめ。個人的解釈なので、「こんな考えもあるのか…」くらいの気持ちで読んでいただけると有難いです。
藤沢さんにお話を伺える機会があるなら、どんな思いで書かれたのか聞いてみたい。(何のコネもない)

晴明は狐の子だったのか

ヤングウィザーズの物語を素直に受け止めるのであれば、葛の葉が最期に晴明へ伝えたこと(育ての親だが、生みの親ではない)=狐の子ではない、ということになると思うのだが…

では、晴明があれだけの能力を持つまで成長したのはなぜか?
才能のない陰陽師、安倍保名(道長談)が連れてきた子の母は誰なのか、晴明は誰の力を受け継いでここまで強くなったのか、と。

「蘆屋道満大内鑑~葛の葉」では、保名の婚約者(死別)に似ている妹に化けた白狐が、保名と夫婦になり晴明が生まれるというお話で、晴明は狐の子として描かれてる。(参考サイト:歌舞伎 on the web)
https://enmokudb.kabuki.ne.jp/repertoire/2222/

晴明と玉藻前(九尾の狐)とが対峙するシーンで、玉藻前が「(葛の葉が)我が肉片なれば、汝は我が子なり」と言うと、晴明がこれまでにないほど感情的になり嫌悪感を込めて「黙れ!」と叫ぶ。

これを玉藻前の中で見ていた葛の葉が、晴明が自分の子(九尾の狐の子)であることを事実として受け取ってしまったのなら、ずっと心に闇を持ったまま生きることになるかもしれない、これからも人間の世界で晴れやかに明るく生きていてほしいと…晴明を思いやったからこそ、最期に伝えた優しい嘘だったのかもしれない。

もしそうなら、そのこと(カカ様の思い)を晴明は気がついていたんだろうか…。人の姿に化けることができなくなった葛の葉を背負い、「誰も自分たちを親子だと思わない」と、童子丸(晴明)との出会いを語る葛の葉に、晴明はカカ様と呼び、「これでいいではありませんか、これが私たちではありませんか。ずっとずっと、これが私たち親子ではありませんか」と伝えるのは、嘘だと気づいていても葛の葉は紛れもなく自分の母である、親子であると伝えたかったからなのか。

それとも母の言葉を真実と受け止めて、それでも自分たちは親子だと思っていると葛の葉に伝えたかったのか。

どちらだったとしても、晴明にとってカカ様は、夜の闇の中で輝く月のように、ずっと自分をやさしく見守ってくれている大切な存在なんだろうなと思った。

道満にとっての晴明

「やっぱり俺がいねぇとだめだな、晴明」「俺がいなければ、あいつは闇に迷うてしまう」と、兄弟子である道満が晴明を守るようなセリフが多いが、晴明が狐を殺せたことをきっかけとして、道満の態度に変化が生まれる。
晴明が狐退治の件から道満を(道満は強い→心の鬼も強い→狐に喰われることを心配して)遠ざけてしまうことで、狐の子かもしれない晴明にとって、自分は必要がないと道満は感じ、心に少しずつ黒い種(鬼)を宿していく。

幼い頃、土蔵に閉じ込められて泣いていた道満、そこに晴明もいて話しかける。自分より年下だと知ると晴明を守ってやると言うが、このとき本当は寂しくて一人ぼっちだった道満が、晴明という心の拠り所を見つけた。

玉藻前に、自分の出生のことや晴明に対する思い(嫉妬・嫉み)を言われたとき「俺はあいつが大好きだ。あいつがいなければ、俺は闇に落ちていた」と叫ぶ。これまで晴明を守ってやっていると思っていた道満は、この時やっと自分の本当の気持ちに気づく。道満こそが晴明を必要としていた、と。

九尾の狐の腹のなかで晴明と再会したとき、晴明と初めて出会った幼い頃のような道満に見えたのは、自分の本当の気持ちに気づき、だからこそ晴明を守ってやりたい、助けてやりたいという思いから。

「狐の子だっていいじゃないか」と晴明にいつか言ってあげたかったという道満は、同じように自分の生まれや育ちのことも、自分の中でちゃんと消化することができたのではないか。

受け手によって様々な解釈が生まれる藤沢朗読劇

藤沢さんの脚本は伏線が多く、観るたびに新しい気づきを得る作品なのですが、そこに加え今回は特に様々な解釈が生まれたように思う。

上記に書いた2つの考察以外だと、
槐が最後に頼光に「泣いても良いか?」と問い、泣き出すシーン。泣くということは、花として散ることであり、それは式神としての役目を終えて消えてしまうということなのかも…?とか。
晴明を庇うシーンでの、「花とて誰かひとりの為に咲き、誰かひとりの為に散りたいのじゃ」という槐のセリフからそんなことも考えたり。

道満と晴明が初めて出会ったとき、「月が居るから暗闇は怖くない」と道満に言うのは、晴明は月を母と思ってずっと生きていたのかな…とか。
葛の葉と童子丸の別れのシーンで、「いつだって暗闇の中からお前を見守っている」と葛の葉が伝えたことを晴明は覚えていて、そこに繋がるのかも…と考えたり。

READING HIGHが目指す3.5次元の舞台とは、少し思い描くだけで、少し信じるだけで、観る側の空想力によってどんな世界へも行くことができる。SNSなどで見かけた感想や解釈もいろいろあって面白かった。


村中俊之さん率いるバンドメンバーの存在感


READING HIGHに欠かせない、村中さんの音楽。
これまでの作品は海外のお話ばかりだったので、チェロ奏者である村中さんが和テイストの作品にどんな音楽を作り出すのか、この朗読劇の情報が出たときからずっと楽しみにしていた。

観劇前に各キャストのコメントPVで、その一部を聴くことができたのですが、これがもう…何なんだ、あの人(語彙力消失)
村中さんらしさもしっかりあるし、その中に和楽器も上手く取り入れていて、音の選び方が(と書いて、表現として合ってるのかわからないんですが…)、その時代をもちゃんと感じることができるもので…
当日、生演奏が聴けることが楽しみ過ぎて、キャストコメントを何回もリピートしてしまったくらい。

もちろん当日も、オープニングから作中、二幕の導入にエンディングまで、藤沢さんのあの世界観に見事に溶け込んでいたし、何ならアーカイブ視聴のとき、オープニング流れた瞬間にあの物語が走馬灯のように脳に流れて、何も始まってないのに号泣するという、どえらい情緒となっていた。

ボーカリストや演奏者の方々の誰もが主役級で、音のひとつひとつに輪郭があるように思えた。絶賛ロス中の私の脳内に、まだはっきりと残っているし、思い出しては口ずさんでいる。


最後に

READING HIGH 5周年という記念すべきこの公演を、実際に現地で観劇することができたこと、本当に嬉しかったです。

円盤も予約済み、発売は2023年6月14日。(…遠い!でももう発売日がわかってるのは有難い…!)


最後になってしまったんですが、衣装がね…自分好み過ぎたことも、お気に入り作品になった要因の一つです。
メインキャストお二人のコメントPV貼っておきます。
中村さんも仰ってるんですが、ちゃんとレイヤーを重ねてるというところも衣装デザイナーさんのこだわりを感じるし、それぞれのキャストさんに似合う色を選んでいらっしゃるところも良い!


またまた大ボリュームになってしまったレポ。
自分用忘備録のようなnoteなのですが、最後までお付き合いいただいた方がいたのであれば、心からお礼を。

ありがとうございました。

来年の公演予定である、READING HIGH 5周年企画第2弾も楽しみです。

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