HiGH & LOW THE 戦国 THE 感想
!CAUTION!
この記事は前半が真面目な感想、後半がオタクの悲鳴で構成されています。
1.総論
エンタメとしての完成度、商流に乗るものとしての整い・調いについて
初見の際には、正直戸惑った。
「めちゃくちゃ楽しい!すごい!」という衝撃もあるものの、ところどころに引っ掛かりをおぼえ、終演後には同伴してくれた友人と「あれはなんだったのか」「あの部分のあの表現はどうか」などとツッコミ合戦をした。その部分についての引っ掛かりは、四度の観劇(大千穐楽の配信を含む)を経ても未だ完全には消えていないが、それでもなお、公演を重ねるごとに研鑽される技とエンターテインメントとしての完成度は素晴らしかったと思う。
私が引っかかった部分は、大きく分けて以下の3つだ。
設定
メッセージ性
日本語の語彙と文法
この辺りについて、詳しいことは後述させてもらいたい。
そうした引っ掛かりによって、商流に乗る物としての「整い」からは外れた印象を受けた。しかしこの作品は、HiGH & LOWシリーズへの、LDHへの、宝塚への深い愛と理解が溢れており(私はLDHについてはほとんどわかっていないので、その点については自信がないが)、「めちゃくちゃキャラクター理解の解像度の高い二次創作同人誌を読んだ時の胸の熱さ」を感じた。深い愛と理解に基づいたキャラクター同士の関係性やストーリー展開は、LDH・宝塚・ハイローのファンのための作品として100億点、と言いたい。
演者に贔屓のいる者へのファンサービスはもちろんだが、キャストには世界レベルのパフォーマーがゴロゴロいる。ただ「あの人が観られたので満足」では帰さない強さもあった。特にアクロバットスポーツの一種目であるトリッキングの世界チャンピオンを何度も獲得しているという桜井鷹さんのアクションは圧倒的だった。その桜井さんがメインキャストではなく(HiGH & LOWにおいては全員が主役というコンセプトではあるが、ネームドではない、という意味で)、後ろで派手な動きをしていても霞むことのないメインキャスト陣。その凄みよ!
そして、プロの技をこれでもかと浴びせられてはいても、舞台上での動きが雑然として見えることがない。どこで誰が、どのように戦っているのかがきちんと理解できる。
抑揚がありつつ、どのシーンも舞台全体が絵画のように美しい構図になっていて、退屈する瞬間が少しもない。
これには演者だけでなく、舞台監督、演出、美術、衣装、照明、音響など、裏方と呼ばれるスタッフの技術の高さもあるのだと思う。宝塚もそうした技術は高いはずだが(そもそも今回の衣装は宝塚のお衣装部の有村淳先生であるし)、HiGH & LOW THE 戦国においては特にその技の粋を感じることが多かった。
私がミュージカルを観る中で、大御所の演者が揃い、音響設備も良いであろう大手の興業であっても時々出会う、「耳が慣れるまで何を言っているかよくわからない」という現象が起こらなかった。幕が上がってからずっと、全キャストの台詞や歌詞が聞き取りやすく、しかしわざとらしさもない。滑舌はもちろん、台詞のスピードや抑揚が一貫して聞き取りやすいのだ。キャスト自身が役柄にしっかり入り込んでいても飲まれることなくそれが保たれているというのは、素晴らしいことだと感じた。
また、決して下手なわけではなかった殺陣や会話の間の取り方が、さらに洗練されていくさまを目の当たりにできたことも良かった。成長していくカンパニーの姿を、続編でまた観られることが今から楽しみでたまらない。
さて、ここから下は、感じたことを忘備録として羅列した、文章としてあまりまとまりのないものになる。
なお、筆者は宝塚歌劇のファンであるとともに、すぐに他ジャンルと絡めての解釈をしたり、圧倒されるものに出会ったたときに卑近なものに例えて自分の理解できるスケールに落とし込んでしまう癖がある。その点に関して不愉快な思いをされる方もいるだろうが、ご容赦願いたい。
2.衣装、音響、照明について
衣装
宝塚お衣装部の有村淳先生の力に、LDHのセンスが加わってすごくカッコいい!!!甲冑や和服の構造とディテール、役柄・キャストを際立てるデザイン、そして現代的なセンス(重要)!!!
最近の宝塚のショーでは、「万華鏡百景色」の現代パートのお衣装などが現代的なカジュアルウェアのかっこよさが舞台で映える形に昇華させられていて見事だったが、レトロを目指すでもないのにちょっと時代を遡ったデザインになっていることも多いので(もちろん観客の年齢層やショーの雰囲気を考慮してのものではあるだろう)、ちゃんとカッコイイの作れるんだぞ!!!というのを示された思い。
1789のアントワネットさまのカジノドレス並みのも見たーい
音響
剣戟の音をビッタビタに当てているのか?殺陣のタイミングを完璧に音に合わせているのか?いまメインとして見せたい立ち合いの動きに対してしっかり合っている。
キャストの声量に合わせてコントロールされているのか、糜爛さまのセリフはほぼ生声。
音楽や効果音のタイミングが、アドリブでどんなに乱れてもちゃんと戻ってくる。
照明
五蓋の説明の際、小ネタで瀬央さまに当てられる組カラーの照明の切り替えの速さよ!
音響と同じく、アドリブでどんなに乱れてもちゃんと戻ってくる。弧呂巣が下っ端とわちゃわちゃした後、剣を抜いた時に溢れる光とか。
3.ツッコミどころ
1.設定
【マルチバース要素入れる必要あった???】
今までのハイローシリーズの映像が流れたので絡むのかと思いきや、マルチバースらしき表現は黄伊右衛門の見る本能寺の変の夢くらいだった。
【戦国要素は???】
戦国要素は織田信長のみで、三国のトップがそれぞれ信長の残したとされる言葉を口にする。しかし、最も信長のパブリックイメージに近いであろう玄武にも、黄伊右衛門ほどの信長とのつながりが示唆されるわけでもない。魂の座標で繋がっているのは黄伊右衛門だけなのか?じゃあなぜ信長のセリフを言わせた???
「戦国」をタイトルに冠してはいるが、戦国というより「世紀末系異世界ファンタジー」という感じだった。前述したように戦国要素は信長のみであり、そこに方丈記と天下泰平が加わっているが、それぞれ
方丈記:平安末期〜鎌倉
天下泰平:(引用元として孔子の「礼記」ではなく徳川家康と結びつけるのならば)江戸
となり、いずれも戦国時代ではない。
以下に劇中で引用された歴史上・文学上の文言を列挙する。
須和国
人間五十年〜(メチャ早)
私は友近の「にん〜げん〜、ごじゅぅ〜ねん〜」で知ったので「はっや」って思った。
元は「幸若舞」という室町時代に流行した伝統芸能の演目「敦盛」の一節。
下の動画の2:00頃より該当箇所が観られます。
是非に及ばず
是非に及ばず(二回目)
尊武国
敵は隣国、須和国にあり
乃伎国
ゆく川の流れは絶えずして〜(鴨長明「方丈記」)
糜爛
言ってたはずだけど記憶飛んだ・・・
あと「太平の世を築く」ってラストで言ってたの誰だっけ・・・?
脚本載ってるタイプのルサンクを出してくれ頼む
HiGH & LOW THE 戦国(「戦国時代」とは言ってない)なのだから、こうしたところをあまり厳密に考えるのも野暮なのかもしれない。これを書きながら彼氏に「戦国なのに戦国要素が信長しかなくて・・・あと平安鎌倉江戸で・・・」とこぼしたら「武者ガンダムみたいなもんなんだろ」と返され、はらわたを突き破る勢いで腑に落ちた。
【斬ってるアレ、何???】
龍を斬ったって言ってたけど、斬ったのは龍の封印じゃないんか
2.メッセージ性:男性同士の恋愛へのスタンスについて
信長と蘭丸出しといて「男同士が見つめ合う先に未来はない」とか言う〜?(その世界を変えることができない苦しみが弦流を追い込んだとはいえ・・・)
ゲネプロでのバックハグ写真を見て、「おそらくシスヘテロの男性が、(男役の女性とではあるが)BL作品として打ち出されたものではない作品において男性との愛を演じる」ということに、実在する同性カップルをエンタメやギャグ、エロの物語中だけの存在ではないのだと世に語りかけてくれるのではないかという希望を持った。だが、湧水さまの歌詞にある「私と俺とがせめぎ合う」で、「えー、『実は女でした』オチにしちゃうやつ・・・?」と思ったし、もしそうだとしたら、弦流が死に追いやられるほど思い悩んだことが軽くなってしまう。そして湧水さまが弦流の耳元に囁く仕草、万が一あれが性別の開示だとしたら蛇足が過ぎる。
でも「きっと来るぞ、男と男が見つめ合う時代が。きっと来る!」と言う湧水さまのお声の力強さがとても頼もしいと感じた。
(弦流のお衣装が帯締めと、袴の上部が帯揚げにも見える形であるし、苗字が「姫川」なのを見て「うーん、ド受け!」とか思ってしまうBLオタク心も確かにある。そういう狙いを持っての名付けと衣装デザインか?)
3.日本語の文法や語彙、読み
「風化されし龍」、「欲する」の読みが「ほっする」ではなく「よくする」になっている、など
4.続編で明らかになる?気になってるところ
袁空国と佐峨国について
劔黄伊右衛門が「キザン」と呼ばれていたが、「キエモン」がなぜ「キザン」になるのか。「キザン」に漢字表記はあるのか。
龍の封印を斬る時に言いかけた、糜爛が従うものとは何だったのか
影森さまのスチールのお衣装とメイクが、今回の舞台では全く出てこなかった、明らかに糜爛側のものである
ここから下は「蛇足」として、有料で以下の項目が読めるようになっています。
続編に期待すること、という名の願望の垂れ流し
中の人かわいい(芝居の中やカーテンコールで印象に残ったポイント)
FGOやMCU、椎名林檎のオタクとして
ご購入いただけましたら、今回の公演のDVDと、続編のチケットの購入に充てさせていただきます。
読んでね。
蛇足①:続編に期待すること、という名の願望の垂れ流し
LDHキャストと宝塚キャストのデュエダン(できれば宝塚キャストリードで)(でも男同士の、どちらがリードでもないタンゴとかも好き)
ゴリゴリに宝塚っぽい総スパン衣装のLDHキャスト。背負い羽根は流石にやりすぎだけど、片羽根とかめちゃくちゃ似合うと思う
戒と颯斗に羽根扇持ってもらいたい。絶対かわいい
弦流くんにはフリルたっぷりのブラウスとかもね、着てほしいですね
LDHキャストの黒燕尾群舞
蛇足②:中の人かわいい
ここでは、芝居やカーテンコールの中で演者自身のキャラクターに惹かれた出来事を記録しておきたい。
1/31
マイ初日。アクロバティックな合戦シーンでは斬り飛ばされる動きなどにみられる身体能力の高さが圧巻。ただ、殺陣の中での剣の扱いについては(男性陣には刀剣乱舞に出ているキャストも多い中でなお)日本物をこなしてきた宝塚キャストは振り抜くまでの動き、刺し貫いた時の切先の向きなどまで気が配られており、やはり群を抜いて見えた。そしてそれに並び、尊武国の玄武(RIKUさん)・白銀(浦川翔平さん)のトップコンビ?トップと二番手?が上手かった。やはり刀鍛冶の国であるのだ、という説得力を感じた。(刀鍛冶は刀振る人とは別だけどそこはそれ)
2/14
戒(うえきやサトシさん)のバレンタイン・キッス。かわいい。
実は「今日はバレンタイン公演だから、誰かバレンタイン・キッスとか歌ってくれないかな、うえきやさんとか」って期待してた。ありがとう。
2/22
戒の「うたいます!」再び。猫系替え歌を連発するも、今日は猫の日であるという説明は特になし。絶対伝わってない人いる。かわいい。
颯斗(小野塚勇人さん)の雨乞いソングアドリブがあまりにも今までと毛色が違いすぎる。明らかに笑っている吏希丸(瀬央ゆりあさん)。後ろ向いてるけど明らかに笑ってる。でも背中が凛々しいので大丈夫です。笑っていません。我々は何も気づいていません。そして動揺したのかセリフぶっ飛ばしてマルチバース設定の説明が噛み合わなくなる戒。なかなか巻き返せずキャストも笑う。客席も大体何度も見て流れがわかっている人なのか、「が・・・がんばれ・・・w」とあたたかい笑いに包まれる。ほっこり空間。みなさんが戦国に戻るまで2分かかりました。
カテコにて、キャストによるキャスト紹介で久保田さん(弧呂巣)がアンサンブルの桜井鷹さんを紹介。トリッキングを披露してくれることになり、他のキャストは後ろに下がろうと階段に上がっていく。マッスルなLDHの男性キャストたちが膝を縮こめてちょこんと座っている中、それまでエレガンスとお耽美の塊だった湧水さま(水美舞斗さん)はおてんばみなみちゃんになり、ニッコニコでおみ足をガニッとしてお衣装の長い裾をわっさわっさと股の間に詰め込んでおられ、大変かわいらしかった。ギャップよ。
2/25 大千穐楽
まだ文章として成立させられるほど記憶が統合されてない。幻覚のようだった。なんかいきなりタカスペ始まった?と思った。思いませんでした?
カテコで寂しくなって泣いちゃううえきやさんかわいい。私も明日も会いたい。
蛇足③:FGOやMCU、椎名林檎のオタクとして
「なるほどマルチバース。TVA案件かな?」→「あ、ifの世界?」→「ぐだぐだ時空・・・なのか・・・?」と、ストーリーが進むほどによくわからなくなる。
龍の封印に関する説明の際に表示される字幕のフォントが椎名林檎のライブでよく歌詞の表示に使われる「しねきゃぷしょん」。かわいい。
刀鍛冶の国・尊武国のマッスルな面々のお衣装を見て、「村正の片乳丸出しスタイルは刀鍛冶あるあるだったのか、なるほど」と納得。「臨死!江古田ちゃん」で江古田ちゃんが「全裸で料理すると乳首を火傷する」と言っていたので私はずっと村正の乳首を心配していたんだ。
玄武様、脱ぐと織田吉法師
龍に望むことを糜爛に問われて弦流が語ることを聞いて「白紙化地球かな?」→「白紙化地球だった」
玄武に語りかける五蓋の念「目に映るもの、全てを」→私「灰に!」