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あなたの故郷へ 企業が織りなす地域の架け橋

春の訪れを感じさせる今日この頃。
ほどよい暖かさが脳の動きを鈍らせ、まぶたを閉じれば眠くなる。
外では冬の間じっと耐えていた色とりどりの花が徐々に咲き始め、景色を彩っていく。
鳥はそんな芽吹きの季節を祝うように、騒がしく鳴き始めるのです。


え?
私ですか?
私も似たようなものです。


確定申告や原稿の〆切に追われ、まぶたの重さをエナドリで紛らわす。
外を見ればすでに真っ暗で、景色もくそもなく。
そんな境遇を悲しむように、一人泣き始めています。

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というのは半分冗談で、春の忙しなさに囲まれつつもなんとかやっております。


私がHEARTBEATまるこの記事を書かせていただいて、インタビューとしては3本目の記事になりました。

今まで職業や事業の規模が異なる、地域の方からのお話をお伺いし、皆さんそれぞれの熱意があり、地域のことを考えていらっしゃいました。

しかし、もしもこれが地域ではなく、外からの目線で見た丸子はどう映っているのでしょうか。

そしてそれが個人だけではなく、企業として地域と関わるならば、いったいどんな思いを抱き、どう接するべきなのか。


今回は企業の目線からHEARTBEATまるこ(以下HBM)と丸子地域に関わってこられた、キリンホールディングスCSV戦略部のコミュニティチームリーダーである中川さんに、オンラインでお話を伺いました。


【ゲスト】中川 紅子

キリンホールディングス株式会社
CSV戦略部 主査 コミュニティチームリーダー

中川1


さて今回の記事を読む前に、ちょっとだけお勉強です。

上田市とキリングループは様々な取り組みを一緒に行ってきました。その動機や経緯を簡単にまとめております。

すべて書くととんでもない文量になり、記事代がバカにならない(筆者的には大いに構わないのだが)ので要点だけをまとめて紹介しましょう。


【CSVとは】
Creating Shared Valueの頭文字を取った略称。共通価値の創造/社会課題への取り組み
による「社会的価値の創造」と「経済的価値の創造」の両立により企業価値向上を実現すること。
2011年にハーバード・ビジネス・レビューにてマイケル・ポーター教授が発表したものである。


【キリン絆プロジェクトについて】

復興応援 キリン絆プロジェクトでは「人と人との絆を育む」をテーマに、2011年から復興支援活動を実施してきました。「地域食文化・食産業の復興支援」「こどもの笑顔づくり支援」「ココロとカラダの元気サポート」の3つの幹で、グループ各社が一体となった活動を継続して10年。未来につながる絆を育むことを目指し、様々な活動を続けてまいりました。
(キリン公式HPより https://www.kirinholdings.com/jp/impact/csv_management/social_contributions/kizuna/)

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【キリンと上田市について】

2013年、上田市丸子地域にシャトー・メルシャン椀子ヴィンヤードを開園し、陣場台地のみなさんとブドウ栽培を行ってきました。そもそも我々は10年以上丸子とのつながりがありました。
その中で2019年9月に開業した「シャトー・メルシャン椀子ワイナリー」を契機として、上田市とキリングループのワイン産業振興を軸にした地域活性化に関する包括連携協定が始まりました。
同じ頃、丸子地域の大きな課題は遊休荒廃地が多いことや農業の担い手不足で、そういった地域課題を解決するHBM(HEARTBEATまるこ)の支援も始まりました(中川)

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以上、端的に抜き出してしまい申し訳ありません。
しかしキリンとHBMとの関りについて先に説明しておかないと、せっかくお話しいただいた内容が伝わりづらいと思いましたので。


さて、それではそろそろ中川さんに丸子地域とHBMについてお伺いしていこうと思います。



3年間の活動の中で感じた丸子地域とHEARTBEATまるこ


丸子地域について抱いている印象

「大好きな町、故郷だと思っています」

私、田舎がないんですよ。私は事業期間の3年のうち2年ほど関わりをもたせていただきましたが、その2年間は本当に、第二の故郷と思えるほど足しげく通わせてもらいました。丸子地域はお米を始めとした農作物、四季折々に開く小屋が魅力的な町だと思いました。
元々上田という地域は知っていたのですが、丸子地域までは知らなかったので、私以外の世間にも、もっと知ってもらいたいと考えます。今でも大好きな町、故郷だと思っています。

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HBMとの関わり

「丸子に残せた財産になりました」

私は前任の引継ぎとして、HBMと関わりを持つことになったのですが、入った当初は、上田市の行政の方々も含め、メンバーの方がものすごく熱心に議論をされていたのが印象的でした。会議のたびにホワイトボードにびっしりと文字が書かれるほど。地域がよくなることを真剣に考えているんだと思いましたね。

そうやってHBMの方々と仕事をしていく中で、なんとなくキリンと行政の想いに応え過ぎている印象を持ちました。HBMの活動を続けていくのなら、HBMの事業だけじゃなく、お米や花、ワインといった、HBMのメンバーそれぞれの仕事に結び付けなければ意味がない。それに、それぞれのメリットにならなければ長く続かないし、本当の意味での「CSV」にならないと考えました。

2020年にHBMが主催となって、ワインと農業を楽しむ「農業体験ツアー」を開催しました。
ツアーはそれぞれのメンバーの畑で、花や、野菜、ワインを楽しむことができて、丸子の地域の農産物を味わうものになりました。
私個人としても、メンバーの事業価値とHBMの活動を繋げ、地域の課題も貢献していくという「CSV」の形になって、丸子に残せた一つの大きな財産だと思っています。
またこのようにメンバーみんなでイチから作り上げる共同の事業をすることで、全員の気持ちも一つになってきたと思っています。

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HBMだからこそできたこと

HBMの良いところは、いろんな人がいて、その多様性の相乗効果があるところなんじゃないかなと思います。それぞれを尊重しながら一つの事業ができるところ。
それを自分の事業へ落としこみ、個人の事業で発展、成果を出せたのはHBMのメンバーだからこそですね。
また、行政との関係性が良好なのもよいところで、これはリーダーがよいからなのかも?(笑)


(筆者コメント)
HBMという団体があり、地域のために仕事をする。
体面的にはそれでいいのかもしれないけど、実際、やりがいやチームの士気を高めるのはそれに見合った見返りが必要です。

単体だけではできない領域がありつつも、それぞれの分野の相互作用がある。そういったチームの形を作り上げることは、団体として地域で長く活動するためには、とっても大切なことなんでしょうね。

丸子を故郷と言ってくださり、丸子を愛してくださった中川さんだからこそ、行政も含め、地域で働くメンバーが活きる活動になったのでしょう。

なお、当のHBMのリーダー小宮山さんは中川さんの話を受けて、


小宮山「事務がいいんですねそれは(笑) 影の代表は財布を握っている事務係なので」

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メンバー同士支え合い、より良い活動ができるのは、優秀なお財布係がいてこそである。



惜しむらくも、キリンホールディングスからの支援は事業期間が満了となり、中川さんも仕事としては丸子を離れることになりました。

ここからはHERATBEATまるこのリーダーである小宮山さんも交えて、中川さんに今後の丸子地域や上田市、そしてHEARTBEATまるこについて伺っていこうと思います。


今後のHEARTBEATまること丸子地域に求めること

「上田市を引っ張っていく団体になってほしいと思っています」

中川 おととしHBMが有休農地で協働栽培したお米を丸子の学校の給食に提供させてもらい、給食の時間に訪問し農業の楽しさをお伝えしました。その活動が市から評価され、丸子だけでなく上田市内で広がりました。

小宮山 上田全体に広がったことはかなり驚きましたね。地域からは地元の小学生から、お米の人と呼ばれるようになりました(笑)

中川 お米の人(笑)  でも、子供が農業に興味をもつのはいいかも。

小宮山 他にも、給食がきっかけというわけではないんですが、個人の仕事の方で今までつながりのなかった、東京の方に声をかけられることがありました。

中川 私は、この給食は本当に素晴らしい活動になったと思っています。この活動でHBMが丸子地域だけじゃなく上田市(含む行政)に知ってもらえたと思っていて。このままHBMには丸子だけでなく上田の課題を解決し、上田を引っ張っていく団体になってほしいと思っています。

小宮山 キリンさんからの支援が終了したことは、一つの区切りとして、ここからが本当のスタートラインだと思っています。「ワイン」をテーマにワインだけではなく、視野を広げてもっといろんな商品を取り上げていきたいですね。
我々の活動によって丸子や上田市の人たちがプライドをもてるブランドを作っていきたいと思っています。


(筆者コメント)
目立つ活動、という言い方をするといささか自己主張が激しいように感じますが、実際その団体が何をやっているのかなんて、わざわざ調べようとする人なんていません。

「HBMといえば給食にお米を提供した団体だよね」という風に上田市の人たちから反応があったのは、HBMが上田で活動する際に、大きな弾みとなり、そして信用に繋がったわけです。

そう考えると、今後HBMが、地元の産業をつなげるきっかけとして極めて重要な活動だったことが分かりますね。


最後に、キリンホールディングスという企業の立場で上田市丸子に関わっていただいた中川さんに、地域と企業の関わり方についてお伺いしました。


地域と企業の関わりについて

「それぞれの役割が違うだけ、同じ地域のプレイヤーです」

シャトー・メルシャンという関係性があったので、あまり地域と企業と区別している感覚はなくて、同じ地域のプレイヤーであるという認識がありました。
シャトー・メルシャンのワイナリーには自然、地域、未来との共生を掲げ一緒に社会課題を解決するという理念があり、その意味でも地域だから、企業だからと分ける必要はないのではないかと考えています。

特にこれから、ますます地域と行政が協力しなければならない社会課題も多くあると思います。そこには行政だけでは解決できない問題なども多くあり、そういったところで企業として助力をし、また地域とつなげていく、そういう新しい形のモデルを丸子で作れたらと思います。

キリンという企業、HBMという地域の農業者団体、そして行政。

そこにパワーバランスがあるわけではなく、それぞれの役割が違うだけなんですよね。

これからはキリンと行政の支援は離れますが、もし機会があれば、またいろんな形で関われたらいいと思っています。

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まとめ
地域と企業と行政。大きい小さいがあったとしても、それぞれがそれぞれの役割がある。

誰もが大きいものに巻かれた方が楽だと思うかもしれません。しかし、そこが自分たちの土地で、本気で地域を変えていこうとするなら、一方的な活動はきっと亀裂を生んでいきます。

互いが歩み寄り対話することで、自分たちが何をすべきなのか、何ができるのかがはっきりしてくるんじゃないでしょうか。

中川さんは丸子地域を故郷だと思っている、と言ってくださいました。
故郷というのは、別に子供の頃に住んでいたとか、思い出に残っている場所というわけじゃなくて、そこにいると何となく安心できる、心のよりどころのことを言うのかもしれません。

中川さんが丸子地域を故郷だと言って愛してくれているように、地域の方も故郷として誇れる場所になっていければいいですね。


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