移住して始める農業と地域の魅力
誰でも一度は憧れたことがあるんじゃなかろうか。
昔ながらの日本家屋で、庭には小さな家庭菜園があって、休みの日には晴れた空の下、育てたトマトを丸ごとかじる。
バスは1時間に1本くらいしか来ないけど、歩いたほうが早いようなボロの軽トラを走らせる農家のおっちゃんは、取れたての野菜をしょっちゅう持ってきてくれる。
季節ごとに景色が移り変わり、里山に広がる秋の田んぼは金色の大海原のよう。
日本の原風景というべきか、人はこうあるべきというか、心の安らぎを感じる田舎暮らしの姿がそこにはある。
まあ移住して5年もたてば、すっかりそんな光景にありがたみも感じなくなる今日この頃です。時の流れって残酷ね。
さて、そんなことは置いといて、昨今職業として「農業」を希望する若者が増えているという噂を耳にします。
農業をかけらもやったことのない私にとっては、畑作業って朝は早そうだし、腰とか痛めそうだし、異性と出会う機会もなさそうなので結構意外でした。
新卒の子たちって皆「潤滑油」になりたがるもんじゃないの? 会社の面接では皆そう言ってたよ?
とはいえ、最初に書いたように、ふんわりと農作業への憧れというものはあります。
そんな理想を求めて、人々は常に新しい生き方を模索しているのかもしれません。
自然が豊富な長野県にある上田市は、もちろん農業の盛んな地域。
そんな上田市内の中にある丸子地域に、県外から移住して農業を始められた方々がHEARTBEATまるこのメンバーにいらっしゃいます。
田口 航 〈ワインブドウ農家、ワイン製造〉
出身地 千葉県市川市(Iターン)
生年月日1983年8月11日
趣味 音楽を聴く、旅、食、お酒全般
栽培作物 ワインブドウ
春原 勇太 〈花農家〉
出身地 長野県上田市(Uターン)
生年月日 1987年6月25日
趣味 サーフィン
栽培作物 トルコギキョウ
なぜ農業を始めようと思ったのか?
そして丸子で農業をやる理由とは何なのか?
一度は都会で別の仕事を経験し、新天地で農業を始めた二人。
今回は、そんなお二人のお話の中で、丸子地域の魅力を発見し、もし丸子で新しく農業を始める人がいるならば、その人の手助けになればと思います。
Q.なぜ農業をしようと思ったのか
―お二方ともなぜ農業をしようと思ったのでしょうか。また上田、丸子地域を選んだ理由があればお聞かせください。
田口:農業をしようというよりも、とにかく念頭にあったのは「ワインを作りたい」ということでしたね。その中で自然に栽培という選択肢を取った感じかな。
春原:ワインを選んだのはやっぱりワインが好きだからですか?
田口:そうだね。レストランの仕事を経験したこともあって、作り手(農作物)に興味があったんだよね。ウイスキーとか日本酒なんかも悩んだけど、原料から作れるワインを作ってみたいと思って、京都のワイナリーに就職したかんじかな。
そこで、色々とワインを飲み比べたり、情報を得ていく中で、長野、特に東信地区がワインの生産に力を入れていたので、気候条件などが良い上田を選びました。
春原:僕は農業をしようとは全然思ってなかったですね。昔から自営業をしたいという気持ちがあって、東京にいたときはサーフィンの仕事をしながら、何の自営業が良いのか悩んでました。
そんな時、宮崎県でサーフィンの大会があって、偶然サーファーをやっているキュウリ農家さんと出会ったんですよ。色々と仕事の話を聞いていると、時間の使い方や年間のサイクルなど、自分の時間を確保しつつ仕事ができると思い地元の上田に戻ってきました。そこで真田地域にある花農家さんの里親制度に応募したんですが、一回断られて。
田口:え、断られたの?
春原:そうなんですよ(笑) でもなんだかんだで花農家を始めることができました。だから「農家をしよう」っていうより偶然農業に出会ったって感じですね。
明確に作るものをイメージしていた田口さんと、偶然農業と出会い農家を始めた春原さん。
同じ移住者で農業を始めたといっても、そのきっかけも趣向も随分違うんですね。
しかし農業を始めるといっても、当然その土地の条件はとっても重要!
この次の質問では、丸子地域の利点についてお伺いしましょう。
Q.丸子地域が農業に適している部分
―お二方とも育てている農産物は異なりますが、丸子地域をおススメする利点があったら教えてください。
春原:とにかく日照条件! 長野県でも特に丸子は日照がいいです。植物の中でも光を好む植物にとって晴れの日が多いってことは超重要なんですよ。土や設備って人工的になんとかできますけど、天気だけはどうしようもないですからね。
田口:俺も同じかな。雨が少ないのは、ワインブドウにとっても重要なんですよ。世界のワインの名産地のほとんどが雨の少ない地域だしね。
春原:標高とかも重要ですか?
田口:標高もだけど…あと寒暖差があるのもいいところかな。夜に気温が下がると昼間に温まっていた植物が休めるんだよね。
春原:花も一緒ですね。気温によっては色や花びらの枚数が変わってきたりしますから。
田口:場所で多少の違いはあるんですけど、雨が少ないほど病気(ブドウ)も減るし、管理する面でもやりやすいよね。
上田市は非常に晴天率が高いことで知られています。
その為、逆に雨があまり降らないことから各地に「ため池」を作り、農作物に水をやったりしていた地域もあるくらいです。
水を確保しやすい今となってはそのデメリットが消えたわけですから、まさに完璧。
例えるなら新井の戻った広島カープか、足のついたジオングくらい完璧。
と、そこまでかは分かりませんが、シンプルながら魅力的な条件であるようです。
Q.農業をやる面での苦難
―農業という仕事はいろいろな業務が多いと思いますが、お二方が仕事をする際に気をつけている点や苦労している点があれば教えてください。
春原:体調や健康の管理ですね。あと個人営業だからこその自分への甘えですね。
田口:ああ、分かる。
春原:自営業あるあるというか、作業をやるかどうか自分で選べるので。時間の使い方が自由ですから。嫁さんが見ていなければ、一日仕事やらないなんてこともあり得ますね。結局はやらないといけなくなるんですけど。
田口:良くも悪くも個人営業だからねー。客商売とかと違ってお客さんが目の前にいるわけじゃないし。
春原:規模感もあると思いますけどね。従業員が増えたらまた別かも。
田口:あと、天候かな。自分でコントロールできないことが多すぎるから、自然と左右されますよね。
春原:台風の時とかやっぱり畑の様子が気になりますからね。その点で上田は台風が少ないのがありがたいと思います。
農作業というとどっちかといえば肉体的な苦労が多いイメージですが、確かに個人だとそういうジレンマは付きまといそうですよね。
小学校の時、アサガオを三日で枯らした筆者には到底不可能な作業である気がします。
Q.農業を行う上での心がけについて
―お二方が業務を行う上で心がけていること、工夫している点があれば教えてください。
田口:妥協しないこと、やれることは何でもやる気持ちで働いています。あとケガや健康面ですね。仕事が物理的にできなくなってしまうので。
春原:自分の作ったワインを飲む人(購入者)のことを考えたりします?
田口:考えるねー。ただ自分の好きなワインを作ることが一番かな。ワインは嗜好品ですから好き嫌いの分かれる商品だと思います。結局自分が一番おススメできるものじゃないとダメだし。万人に受けるものじゃなく、個人だからこそ自分のワインを気に入ってくれる人へ向けて作ってますね。
春原:僕も個人でやっているからこそ、自分だけの色(個性)を出したいと思ってやってます。
花は場所や時期、土や管理条件でいくらでも違うものを作ることができますから。
田口:どれくらい違うの?
春原:同じ品種でも作り手によっては相当変わりますね。だからこそ自分だけの花を作れるっていう楽しさがある。他人がやりたがらない珍しい品種や栽培が難しい品種育てて「今年の春原はいったいどんな花を出してくるの」ってワクワクされたいです。それくらい独自性を出さないと使ってもらえないですから。
田口:花は色とか見た目だから、自分の信用も重要そうだね。春原さん自身に美的センスがないって思われたら、そこで花も判断されちゃうっていうか。
春原:確かに(笑)。花農家の方には東京のアパレルやトレンドとかを調べてる人とかいますよ。ある意味芸術センスが求められるのかもしれないですね。
花もワインもイメージで言えばオシャレな商品ですから、個人のセンスはかなり必要そうですね。しかもそれを相手に理解してもらうには、それなりの個性や信頼も必要。
「自分だからこそ作れる」「自分の一番好きな味」
作る農産物は違えども、共通しているところが面白いですよね。
農産物だけでなく、モノを作るということの根本なのかもしれません。
実はこの記事も、最初は真面目なお堅い文章だったのですが「もっと個性を出してください、つまらないです」と没を食らっているので、筆者の心にクリティカルヒットしています。
Q.目標、将来のめざすビジョン
―近々での目標、また将来めざすビジョンなどがあれば教えてください。
田口:当面の目標としては2023年にワイナリーを建てる予定です。現在委託醸造で行っていますが、すべて自社で醸造できるように変え、理想のワインに近づけていきたいと思っています。それにより地域の認知が高まったり、ワインの愛好家が増えてくれると嬉しいですね。
春原:丸子地域で花を育てる農家が増えてほしいです。丸子は本当に花の育成に適した地域で、だからこそ丸子で農業をするメリットを知ってほしい。その為に僕自身が弟子をとって花農家の育成ができればと思っています。次世代に丸子の花をつなげていきたいですね。
―本日は貴重なお話どうもありがとうございました
田口、春原:ありがとうございました
まとめ
同じ移住者であり、農業を営む田口さんと春原さん。
仕事を行う中で、地域の魅力に気がつき、それを広めていきたいというお気持ちが伝わってきました。
農業は当然ながら土地を利用して行う仕事。何を作るにしても土地は動かすことができませんし、天候や気温は変えることができません。
だからこそ、その土地だからこそ活かせるもの、生み出せるものがはっきり見えてくるのかもしれませんね。
地域は農業を行う場所であり生活する場所でもある。
もしも移住して農業を始めるのなら、その地域の魅力を調べること、もしくは働いていく中で感じることが重要なのかもしれませんね。
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