見出し画像

幸せのカケラ⑩

≪春菜の章≫

『見てるっつーの』
アタシは空の上から、国崎さんと奥さんと子供を見ていた。
『アタシが死んでから離婚したってしょうがないっつーの』
と、声に出して言ってみる。もう届かないのに。
『アナタのせいで離婚したわけじゃないよ。きっかけだったけど、もしも、アナタと国崎
さんが出会ってなくても、あの二人は離婚する予定だった。もう使命が終わったからね。』
天使が私の横でやっぱり下界をのぞき込みながらそう言った。
『陽向君を産んで育てるっていう使命?』
『そう。そういう人っていっぱいいるの。魂の修行の過程でちゃんとした
真理を学べる家庭に生まれないと、困っちゃうから。』
『ふぅん。』
あの日、最後に国崎さんが言った言葉を思い出すとまた涙が出そうになる。
『ごめん。もう僕達は二人では会えない。キミが支部や
祈りの場所に来る のはかまわない
し、そこで話したりするのもかまわない。ただ・・こうして二人で会うのはもうできないんだ。それはわかってほしい。』
『・・・誰かに何か言われたの?』
『・・・神様にね。』
『神様!?神様に会っちゃいけないって言われたの!?』
『今までホントにありがとう。どんなに感謝の言葉を言っても言い尽くせないくらい感謝している。』
『感謝の言葉なんていらない。そんなのいらない。アタシが欲しいのはそんな言葉じゃない。』
『ごめん。でも僕には・・ 』
『言わないで。聞きたくない。そんなのどうでもいい。アタシは ・・国崎さんを奪おうとなんてしてないのに!なんでダメなの。なんで神様はそんなこと言うの?なんでそんな指図するの!?国崎さんは・・アタシのことが嫌いなの? アタシが嫌いでそんなこと言うの? 』
『それはありえない。そうじゃない。そうじゃないけど。
わかってほしい。 』
『わかった。わかった・・。ありがとう。でも・・二人で会えなくても、
アタシは 会いに来るから。国崎さんに会いにくるから。』
アタシは涙がぼろぼろとこぼれてくるのを、 ぬぐおうともせずにそう言った。
『じゃあ、またね』
そう言って、車のエンジンをかけてアクセルを踏む。
高速に入ってから降り出した雨が、
ワイパーでは間に合わないくらいにフロントガラスを伝っていく。
どうして?どうして?神様が言ったからって何なの?
それに従うことが幸せなの?なんなの、それってなんなの。
そしてアタシの車はスリップして、今こうしてここにいる。
『私がこうやって死ぬのもきっと筋書き通りなんだよね?』
『うーん・・。いくつかの選択肢はあったけど、やっぱりそれを選んだのはアナタだから。』
『ねぇ。アタシね。全然後悔してないよ。国崎さんに会えて、一緒にいられて、それが例えなんの意味のないことでも。人に自慢できるようなことでなくても。アタシは、今世、ってゆうかもう過去世だけど、アタシは幸せだった。それは断言できる。』
『だったら大丈夫だよ。その気持ち
を忘れなければ、きっといくつかの来世でまた彼に会
える。 人はみんな幸せのカケラを持って生まれてくるの。 』
『今度はハッピーエンドかなぁ。』
『それも魂の修行による』
『そっかぁ。』
『あの人。奈津美さん。あの人の魂は長いことあっちの世界にとどまっていたの。でも侑輝君が彼女を見つけてくれたから、こっちの世界にこれることになったの。きっと彼の魂が奈津美さんに会った時に、半分死にかけていたから。だから波長があったんだと思う。』
『え、そうなの?そしたら侑輝君は・・・』
『大丈夫。彼はちゃんと一人で生きていける。人
間ってね、思い出があれば生きていける
んだよ。 離れ離れになる と、 辛さとかが先にくるけど、後に残るのは幸せな思い出だけだから。国崎さんも、アナタとの思い出を胸にきっとこれからも真理の伝道をしていくと思う。
彼の心にも幸せのカケラがちゃんとある。 』
『そうなんだ・・。』
『うん。』
『さ、行こう。いつまでも下界を見てちゃだめだよ。』
『ありがとう。』
そう言って天使は、また アタシの手をぎゅっと握りしめた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?