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幸せのカケラ⑤

≪国崎の章≫

『陽向君 のお父さん、選挙に出るんだ? 』
次の日の挨拶街宣が終わる頃、
また 陽向の友達の女の子がやってきた。
『そうですね。』
『なんで?』
『え?』
『なんで出るの、選挙。うちらも選挙権あるんだよね。今度から。』
『なんで・・。神様に言われたから。』
『え、マジ?マジでそんな理由なんだ。陽向君 の言うとおりだね。』
『いや・・説明すると長くなるけど・・簡単に言えば、それが今の
僕 の使命だから』
『使命かぁ。なんかすごいね、そういうの。
そういうので選挙出ちゃうのって。』
『そうかもね。ごめん 、僕はもう行 かなきゃ 。 次の約束があるから。
ありがとう。来てくれて。』
『陽向君 のお父さん。陽向 君 に 電話 してあげて。』
『え?』
『国民のため、も大事だけど、自分の息子の幸せも大事だよね?』
『あぁ・・うん。もちろん。』
『じゃ、またね』
『あ、キミの名前は?』
『菜穂。神津川菜穂 (かみつがわ なほ) 。 』
そう言って笑いながら小走りに駅の構内に入っていった。
彼女が 誰かに似ていると思った
ら妹だ。死んでしまった僕の妹 。好きな人を追って死んだ妹。
死ぬ前に僕が信仰生活に入っていたら、 彼女を救うことが出来ただろうか。考えても仕方のないことなのに、最近特に考えるようになった。
春菜を失ってから特に。春菜を追って死なない僕のことを、冷たいと言って責め るだろうか。 尚子。キミのいる世界はどうなんだい。ちゃんと光の国へ行けたのかい?好きな人には追いつけたのかい? キミは 幸せなのか い ?後を追うほど人を好きになるってどういう気持ちなんだい?聞きたいことがいっぱいある。何度も転生することがわかっていても、現世でもう会えないというのは辛いものだね。僕はもっとちゃんと話すべきだった。春菜とも。尚子とも。いつも僕は伝えたいことを伝えないまま 後悔 してばかりだ。
尚子の時にもそう思ったのに、
春菜にもまたちゃんと伝えないまま先に逝ってしまった。
ごめん。春菜。愛していたんだ。本当に好きだった。キミといると心の底から安らげた。使命とか責任とかそういうものから、ほんの少しだけでも解き放たれることができた。キミがいるから頑張れた。でも。だけど。言い訳をしてもいいなら、僕は何度でも言うだろう。じゃあどうすればよかったのか、と。僕は何度でも神様に問うだろう。キミに出会うのが遅すぎた、という巷に溢れている陳腐な言い訳すらキミに伝えることもできずにいる僕を空の上で笑ってくれ。そうして出来ることならもう一度、キミに逢いたい。
この手で抱きしめてキスをしたい。愛している、と言葉にしたい。
キミのいない 世界はこんなにも孤独で寂しい。こんなに大勢の人が目の前を通り過ぎていくのに、僕は独りぼっちだ。
春菜。逢いたい。キミに逢いたい。 僕の心の 、 幸せのカケラが音を立てて落ちていく音がする。


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