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前髪命

 下ろした前髪のことを美容用語では『バング』というが、その『バング』の中でも横一直線に切り揃えられた髪型のことは、一般に『パッツン』と呼ばれる。しかしその『パッツン』前髪の中でも、厚みがなく額がギリギリ透けて見えるか見えないかといった薄いヴェールと化した前髪の持主の女子たちについて語りたい。だから今日は私の本職である美容についての話だ。

 不思議としか言いようがないのだが、昔も確かにこの髪型の魔力に取り憑かれた女子がいた。スプレーでカチカチに固めたその前髪は、台風の雨や風にも負けることなくその姿を保っていたものだった。美容室において、カットするために美容師が前髪を上げると、そこにもう一つ口があってそれを隠したいのか? と思うほど皆一様に極端にオデコの露出を恥ずかしがる。そんな女子が令和の世になって復活しているのだ。ファッションは巡るというが、デジャブを見ているようでなんと面妖なことか。

 当時と変わらずその前髪はもはや風になびくサラッとしたものではなく、毛髪の一本一本が繋がって一体化し、『一枚』と形容するにふさわしいパネルになっている。そしてちょっと動くだけで自分の前髪の佇まいを気にするのである。

 なぜかはわからないが、その前髪のオーナーである女性は基本的に大人しいタイプが多い。宴会系ヤンキー女子なんかはこの前髪を好まないと思われる。良識系、お嬢さん系、またコンサバ系の女性にしか受け入れてはもらえないのだろうか。読んでる雑誌ならnon-noやMOREあたり、またアイドルグループ内にもこの前髪はチラホラ散見される。

 我が校においてもこれら『一枚前髪女子』はどちらかといえば派手ではなく集団に埋没して自己主張は苦手なタイプに多いのだが、この先前髪はどのような変遷を見せるのだろうか。私個人としてはオデコを見せることが流行る時代の到来が待ち遠しい。

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