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卒業生に伝えたいこと

 卒業式には校長の式辞というものが必ずあるが、聞き逃すまいとする人、また自身が経験したその話の内容を覚えている人など存在するのだろうか? 答えは『ほぼ0』である。あんなものは やらなきゃいけないから存在しているだけで(ホントはやらなきゃいけないことでもないんだろうけど・・・)、過去を振り返るに 私が経験した中では、式典での校長の言葉などは、まさにどうでもいいことを羅列しただけの時間の無駄でしかなかった。
桜のつぼみが・・・、皆さんが飛び込む社会は・・・、この学校での経験を糧に・・・、仲間の顔を思い出して・・・。あーどうでもいいぞ、そんな話は。
 どうして世の多くの校長先生方は、ちゃんと卒業生の心に本当に届く話をしてあげようとはしないんだろう? いや、もしかしたらそうされている方もいるかもしれないんだけど、私の見聞きする範囲では、また調べてみてもほぼ見つけられないもので・・・。

 我が校においても卒業式が近付いてきた。巣立つ若者たちに伝えたいことはいくつかあるが、私は自分が最も重要で外せないと思う項目を2つに絞り、それを最後の登校日でのHRと卒業式当日に分けて話すようにしている。そのテーマとは『恋愛』と『親への感謝』の2つである。しかし表面的な話をしても若者の心に響くわけはない。だからできるだけ生々しい内容にする。

 まず『恋愛』については式の数日前に時間をもらって全体に話す。恋愛の扱いをこじらせて、大切な将来の夢や目標を諦めなくてはならないことになった卒業生の話が耳に入ったりすることがある。夢や希望を持ってこの世界で生きようとしたのに、全く違う人生を歩んでしまうことには なってほしくない。
 私自身の家庭のことや家族のことも題材の一つして、大切に人生を進んでいけるよう願いを込める。還暦のオヤジからそんな話を聞くとは思っていない若者は初めは面白半分に聞いているが、しばらくすると私語はおろか咳一つ聞こえないほど静まり返る。

 実は一番伝えたいことはもう一つの『親への感謝』である。こちらについては卒業式で。ちょっと聞いただけでは その場にはそぐわないテーマかもしれないが、卒業生自身に子供の頃を思い出してもらい、これまで親がいかに大変な思いをして自分たちを育ててきたのか、そして学生という守られた立場が今日で終わるという現実を突きつけ、親のすごさを思い知らせる。
 生徒たちにはどうしてもわかって欲しいことなので、伝え方を考えた結果、数年前から書いたものを読むスタイルはやめ、全て語り言葉で話しかけることにした。話を聞いて涙ぐむ卒業生も多いが、同じ会場にいる保護者が涙を流す率は生徒の比ではない。

 イヤ、偉そうに上からブッこく私とて、卒業生たちの心にササる話が自分の思い通りできているとは思ってはいないが、我が校を巣立つ若者たちに幸多からんことを と心の底から願うものである。

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