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袴問題

 今年の卒業式では、女子生徒の袴着用率に変化があった。『非』着用率が上がったのだ。といってもまだ6%程度のものだが、しかし私は例年ほぼ全女子生徒が袴を着用するという忌々しき事態(笑)について苦々しく思っていたので、ようやく一条の光が射した思いである。なんとなれば我が校もファッション業界を担う端くれとして、最新のトレンドについて学ぶことはもちろん、守らねばならない文化というものについても正しく理解し、また伝えていく使命を感じているからに他ならない。

 現代人のほとんどは、普段着物に触れることがないから、着物を着ることはいわゆる『非日常』である。ドレスのように特別な洋装を身につけるのと意味としては変わらない。乱暴な言い方をすれば、前合わせになって帯を締めるものならどれでも同じように特別なものだと思っている。だから着物には格というものがあることなど知らないし気にもしない。外国人旅行者が浴衣を着せてもらって『ジャパニーズキモノ!』と感激しているのとさほど変わらないのである。しかし我々日本人がそれと同じでいいのか? 守るべき伝統、伝えるべき文化というものを大切にしなくてはいけないんじゃないのか? しかしほとんどの国民がそこに価値を感じているようには見えない我が日本という国が、私には民族として残念に思えて仕方ない。

 唐突だが木と土でできた我が国の建造物は残念ながら100年ももたない物がほとんどであり朽ちていくのも早いから、とにかく次々に建て替えられどんどん変わっていく。これは勝手な持論だが、ヨーロッパ各国が一見無意味に思えるような文化までを忠実に現代に継承している理由の一つに、昔からの建物が残っているということが大きいのではないかと思っている。店の看板や走っている車などを除けば、街の景観は100年前とさほど変わらない。これは石でできた街だからこそ成し遂げられた、伝統と最新の両方を大切にする価値観だと思う。そんな街で人が何代も生きれば、当然新しいものにこそ価値を感じる日本人とは違うのは当然だろう。

 そんなこんなで日本人にとっては『新しい物が良い』という価値観が根付き、併せて『欧米の文化はカッコいい』と思っているから、古来からの伝統や文化は古臭いと思いがちである。それはもはや強迫観念であるともいえる。私たちが和装から洋装に切り換えてまだ100年も経っていない。洋装についてもまだまだ欧米をモノマネをしている段階だから、洋装でのしきたりなどは馴染まないしわからないということなのかもしれない。しかしDNAに染み込んでいるはずの和装についてはどうか? 前述のごとく今は形としての『ヨソイキのドレス』でしかない。だから卒業式などという格式の高い、礼を尽くす必要がある場所での装いが袴であることにおよそ誰も違和感を持たないのである。

 改めて言うが女性の袴は礼装ではない。当時の普段着でしかないから、当然昔も今も冠婚葬祭では着ることはできない。でも大きな潮流には疑いもなく流されるのが日本人の日本人らしいところだ。『面倒臭い格式なんかよりみんなと一緒がいいんだも〜ん! だって卒業式といえば袴じゃないですかぁ!』ではなく、式典においては未婚女性にとっては最も格式の高い『振袖』を着たいと思う生徒が増えてくれたら嬉しいんだけどなぁ。

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