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大日本帝國海軍 《緊急投稿『群青』》

 谷村新司さんが旅立たれた。驚きで言葉もない。彼の作品群の中でも『群青』は私の中で忘れられない一曲である。

 私のガキ時代、ヒットチャートを賑わすアリスに傾倒する野郎どもや、キャーキャー騒ぐ女子たちの姿は、ひねくれ者の私にとってはどこか軽薄な感じに映っていた。その頃は生きてさえいれば彼らの曲の数々は、勝手に街に流れているような状況だったが、私はアウトローを気取ってアリスの歌がいいとか好きだとは周囲には言わなかったし、積極的に彼らの歌を求めることもなかった。

 アリスのコンサートでは全ての観客、要するに知らない者同士が手を繋がされるっていう少々クサい演出があって、その場にいる観客は感動的な時間を共有したのかもしれないが、自意識過剰な私はそんなことも『ケッ』と心で笑って、一度も彼らの生の演奏を聴きに行こうとしたことはなかった。

 しかしそのヒット曲の数々には、密かに周囲同様に心躍っていたのも事実なのだと思う。なぜなら彼らの歌のほとんどを、今でも口ずさめるのである。そう、表向き私はアリスを否定しながらも、間違いなく彼らの歌が大好きだったのだろう。

 チンペイさんの作った『群青』は映画『連合艦隊』のために書き下ろした主題歌である。少し注文がある部分もあるが、この映画には戦争というものの理不尽さ 残酷さ、そして命の儚さを思い知らされた。『群青』はその命を国に捧げるために戦地に赴く息子を見送った親の心を歌ったものだと思うが、もし自分の身にそんなことが起きたら と考えると正に震えがくる。

 『映画のラストシーンではいろんな場面が交錯する。時は昭和20年4月(終戦はその年の8月)。海上特攻作戦に今まさに出撃中の戦艦大和。その乗組員である父(財津一郎さん)と、時を同じくして零戦で沖縄方面への特攻に向かうその息子(中井貴一さん)。中井さん演じる小田切少尉の零戦と僚機の計3機は、自らの命を捧げようとしている進路の途中で父を乗せた大和の上空にさしかかった。

 しかし次第に近づいて大きくなってくる大和は、敵の攻撃に散々やられた後であり、大爆発を起こして今にも沈むところだったのである。そんな場面で『群青』のピアノのイントロが静かに始まる。息子が特攻隊に志願したことを知った父から、広島弁丸出しで『親より先に死ぬ馬鹿がどこにおるんじゃ!』と叱られていた息子が、『親よりもほんの少しだけ長生きすることがせめてもの親孝行です・・・』と操縦席で呟きながら、沈みゆく大和と 運命を共にする父に向かって敬礼し、自分の任務である沖縄に向かう。

〽空を染めてゆく この雪が静かに
海に積もりて 波を凍らせる
空を染めてゆく この雪が静かに
海を眠らせ 貴方を眠らせる
手折れば散る 薄紫の野辺に咲きたる
一輪の花に似て 儚なきは人の命か
せめて海に散れ 想いが届かば
せめて海に咲け心の冬薔薇

老いた足どりで想いを巡らせ
海に向いて 一人立たずめば
我より先に逝く 不幸は許せど
残りて哀しみを 抱く身のつらさよ
君を背おい 歩いた日の
ぬくもり背中に 消えかけて
泣けと如く群青の 海に降る雪
砂に腹這いて 海の声を聞く
待っていておくれ もうすぐ還るよ
空を染めてゆく この雪が静かに
海に積もりて 波を凍らせる
空を染めてゆく この雪が静かに
海を眠らせて 貴方を眠らせる

   1981 谷村新司『群青』より

 奇しくも谷村新司さんに続き 財津一郎さんの
 訃報を耳にすることになってしまいました。
 谷村さんが主題歌を手がけ、財津さんが出演
 したこの映画は、私にとって日本という国に
 誇りを持つきっかけとなりましたし、もっと
 この国の歴史について学びたいと思うことが
 できました。
 お2人のご冥福を心よりお祈りします。


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