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美容師版「雨ニモマケズ」

雨にも負けず
風邪にも負けず
手荒れにも不自然な姿勢にも負けぬ丈夫な腰を持ち
うるさい客にも
決して怒らず
いつも引きつりながらも笑っている
毎日いつ食えるかわからない昼飯を5分で飲み込み
あらゆることを
自分の感情を押し殺してよく見聞きしてわかり
そして忘れず
都心の片隅にある小さな2階のワンルームに住み
東にくせ毛に泣く少女あれば
行ってアイロンをしてやり
西に自宅カラーに失敗した老女あれば
行ってその生え際の白髪を優しく染め
南に脱毛に悩む主婦あれば
行って育毛やウィッグの相談に乗り
北にトラブルやクレームがあれば
こっちは悪くないと思いながらも平身低頭し
伸びない指名と増えない給料に涙を流し
辞めていく友達に同情し見送りながらも
自分の将来についてオロオロ恐れ
みんなに仕事バカと呼ばれ
褒められもせず
苦にもされず
そういう者に
私はなりたい

 美容師の離職率はよくネタになる。◯年で◯%がいなくなる仕事として。我が子が美容師になりたいといえば、大抵の親は反対するのである。『アンタ大丈夫なの?美容師って立ちっぱなしで仕事の時間は長いし給料は安いんだよ! アンタにつとまるの?』

 イヤそんな風に言われるような仕事ではダメなのだが、まだまだこの辺りでのたうち回っている美容師は少なくない。ホントなんとかしたい。養成施設に勤める私の使命はまさにここにあると思っている。美容師の社会的地位を貶めているもの、これもまた美容師である。美容師である私が言えるものではないことは百も承知だが、この世にはしょーもない美容師のなんと多いことか。

 おりしも18歳人口は減り続け、どこもかしこも人材不足だが、多くの人が厳しくリターンが少ないと位置付けている美容師という仕事においては、さらに成り手が少なくなっているのは必然である。しかし皮肉なことにこんな状況は労働環境を劇的に底上げし、さらにまだまだ進行している。もちろんそうしないと人が来ないからだ。ここ10年、特に直近5年程は、昔を知る人にとっては夢のような待遇が新人を待っている。なんとも複雑である。

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