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劇場版シン・サザエさん -波平の涙-

 さだまさしさんの作品に『親父の一番長い日』という楽曲があるが、その名曲を思い出しながら私自身、兄のカツオの気持ちになってこの映画のラストシーンを考えてみた。

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 その日は来た。

 チャペルの入口で留袖の松坂慶子さん演じるフネが、この日まで娘を守り通した証であるフェイスベールをおろす。あんなに小さかったワカメだったが、今では上体をかがめないと 母の手は頭上に届かない。ベールの形を整えたフネが何か一言二言ワカメに言うと、途端にワカメはフネに抱きついた。そんな母と娘の姿を見ていたかたわらの波平も、堪えていたものが一度に溢れ 涙が噴き出した。

 高橋克実さんの波平と小芝風花さん演じる美しく成長したワカメはバージンロードを進み始める。モーニングの波平は 涙でクシャクシャの顔をしながら、もはや足取りもおぼつなくなっていた。本来新婦である娘をしたがえるような形で歩くべきところ、その場にいる人は皆 逆に純白のドレスに身を包んだワカメに 波平の方が支えられているように感じたはずだ。

 時間はかかったものの、祝福の人たちに見守られながら2人は祭壇の前に辿り着いた。するとここであることが起きたのだ。肩で息をしている波平は娘の伴侶を目の前にすると、なぜか腕を組んでいるワカメの手をしっかりと上から押さえて一度うつむいたかと思うと、次の瞬間夫となる若者を 涙で光る目で明らかに睨みつけ、そのまま動かなくなったのである。

 緊張の中、5秒 10秒と時間が経つ。

 しかし波平の気迫の前に動けずにいたワカメが 、沈黙を破るように『お父さん、ゴメンね』と呟きながら静かに波平の手をほどくことで、ようやく波平は我に返り、最前列でハラハラしながら成り行きを見ていたフネの横に、力なく座り込んだ。

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 若い2人は大阪で暮らすことになっている。家族はみんな、それぞれに家を出ていってしまうワカメとの別れを悲しんだが、その中でも波平の喪失感は相当なものだった。その日遅く家族と共に帰宅した波平は、げっそりと痩せて力なく笑っていた昔のワカメの顔がどうしても心に浮かんで来て消えず、布団の上にいつまでも座っていた。

 『親父の一番長い日』の歌詞は、新婦の兄(さだまさしさんご自身)目線で描かれている。そこでこの映画のナレーションは、兄であるカツオ君(岡部大さん)にお願いしたい。

 これからクランクインまでにはかなりの調整が必要みたいだ。妄想だけど。

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